落とす
俺の呼び掛けで魔王の動きがピタリと止まる。
振り上げていた拳を下ろし、静かにこちらに振り返った。
「やぁサース。グッスリだったね」
「鑑定終わったらしいな」
「あのぐらいは余裕だよ」
「そうか。後でそれぞれの効果を教えてくれ。それ次第でまた色々創る」
そこまで話して近付き、スケルトンの方を向く。
「なんだ?」
「お前の骨が欲しい。何処か要らない部分の骨をくれないか?」
「…………お前は骨に欲情する変態だったのか?」
「んな訳あるか。単純に、お前の話が本当だったならお前の骨は他のスケルトンと違って恐らく特別だ。だからこれから創ろうと思ってる物の素材としては最高なんだよ」
「そもそもさっきから作る作るってなんの話だ?お前は戦闘に特化した強者だろ?」
そこで俺は、俺の目的を話し、何を創ろうとしているのかをスケルトンに説明した。
説明すればスケルトンは「なるほどそういうことか」と納得はしてくれた。
しかしその声色は固かった。
「どうした?」
「いや、渡すのは良いんだよ。だけどその場合、代わりになる人の骨が必要なんだよ。しかも誰の骨でも良いわけじゃない。強い奴の骨じゃないとダメなんだよ。
具体的に言えば、魔王殿やその部下達の骨だ。最悪お前の骨でも良い。お前はギリギリ許容内だからな」
そう言われ、難色を示された理由を察した。
それと同時に葛藤が生まれる。
チラリと魔王を見れば、「流石にそこまでの助力はしてあげられないかな」と返されたため、思い浮かんだ方法は直ぐ様実行出来なくなった。
別にスケルトンの骨が絶対に必要かと聞かれればそんなことはない。今有る素材だけで創ることは恐らく可能だろう。
だが万全を喫したい気持ちは有る。なら、だ。
指輪からナイフを取り出し、手袋を外す。
「スー。フー。スー。フー。………………。」
そして左薬指を立て、その第1関節にナイフの刃を当てる。
自分でも息が荒くなってることがわかる。
これが戦闘中で、切り落とさなければ死ぬような状態なら躊躇い無く斬り落とせただろう。
だが今は平時だ。そんな時に自らの指を自らの意思で切り落とすというのは、例え理由が有ろうと我ながら正気じゃない。
それでも万全を喫したい。いずれ訪れるクソ野郎との戦いで悔い無く戦いたい。
そう思うと自然と覚悟は固まった。
軽く、浅く、深呼吸をする。
右腕だけ身体強化し、軽くナイフを持ち上げ、そして勢い良くその刃を左薬指の第1関節目掛けて振り下ろした。




