「糸?」
「それーでー、こーこーはドーコーなのー?」
「少し失礼」
スケルトンがこちらへ話し掛けて来た直後、魔王が両手をスケルトンの体内へと突っ込んだ。
骨の間から見える様子では、どうやら魔石を鷲掴みにしているらしい。
あのありとあらゆる近接最強と言っても過言ではないと思われたスケルトンが、魔王の前では何も出来ないまま、身体強化をしていない俺でも簡単に目で追えるほどの速度を前に、恐らく自身の急所であろう魔石2つを簡単に触られた。
そしてその直後、スケルトンは言語化出来ない奇声を上げながら手足をまるで痙攣しているかのように震わせた。
「失礼したね」
そう言いながら魔王が魔石から手を離しスケルトンの体内から手を抜けば、スケルトンはその場に崩れ落ちたかのように膝を折り、床へと伏した。
目だけ動かし魔王を見る。
視線に気付いたからか、元からそのつもりだったのか、魔王は何でも無いかのようにこちらの意図を汲み取ったような言葉を話し始める。
「別に彼にとって、そして俺達にとって不都合なことをしたわけじゃない。ただ彼に付き纏っていた糸を切って上げただけさ」
「糸?」
「この場合は鎖とか柵って言っても良いかもね。
彼、話し方がおかしかっただろ?そしてダンジョンマスターでもあり、本人の言葉が本当なら異世界の住人らしいじゃないか。
つまりさっきまでの彼は、この世界、この魔界、そしてダンジョンというある種の1つの世界、この3つの世界に縛り囚われた一種の罪人のような扱いだったんだ。
世界は異物や己のルールに従わないモノをとにかく排除、または在るべき姿へ戻そうとする力を持っている。
彼の喋り方がおかしいのが、その最たる例だ。
彼の魂や人格は異世界人の物だ。なのにこの世界に在る。だから世界が、この世界から排除しようと、もしくは消滅させようと動いていた。
彼はダンジョンマスターだ。ダンジョンが彼を喚んだのか理由はわからないけど、彼の魂はこの世界のダンジョンのダンジョンマスターとしてのコアと融合した。そうすることで彼はこの世界で存在することを一時許されていた。
しかしスケルトンに喋る機能なんて本来は要らない。異世界の言葉を喋るのも世界的に許されない。なのに彼は喋ろうとした。喋る努力をした。だから流暢に喋れないよう世界とダンジョンが動いていた。
そんな、大きな力2つに雁字搦めにされているのにも関わらず、彼はダンジョンを脱け出しこの魔界の地へと降り立った。
世界は禁忌を3つも犯した罪人を今度こそ許さないことだろう。もう数分もしない内に彼はその魂や人格が、その技術が、今度こそありとあらゆる世界から消えようとしていた。
だからこの魔界に於いてはそう言った柵を一切受けないように彼の魂や在り方を弄く回した。
当然制限は設けた。じゃないと恐らく彼は、今のこの世界をめちゃくちゃにしてしまうだろうからね。
君はね、リチャード・ベングリクセン君。君はこれから、この魔界に限り自由に行動出来るけど、俺や俺の配下、そしてサースが求めた時にはその力を我々の為に行使しなければならない。これは最優先事項だ。
これが守られない時、今度こそ君の存在はありとあらゆる記録から消えることだろう」




