この世界の成り立ち
転移した先は一面水で覆われた場所だった。
白い土が有り、水の波によってその白い土が濡れる。
少し先にはまた洞穴が、それも2つ在り、その洞穴の先がダンジョンなのだろうと察した。
「ここは?」
「横に見えてる一面の水は海と言って、その水を海水と言うんだけど、これ全部塩水なんだよ。
この白い土は砂って言う種類の土だ。普通の土を乾燥させて更にその土を小さくした物の集まりって言えば伝わるかな。
そして向こうに在る洞穴がそれぞれ違うダンジョンの入口になっているんだ。
そう、ここはサース達人間の住む大陸の端、第二の竜サラビリアン・オグナーダの亡骸、その鼻先の上なんだよ」
いきなり告げられた情報に、思わず思考が停止する。
いきなり第二の竜の亡骸の鼻先の上に居ると言われても、正直反応に困る。
そんな、それこそこの世界の創世に関わってそうな情報をただの人族の俺が知る由も無い。わかる筈も無い。
そうなると、やはり知ってそうな奴に聞くしかない。
「この世界はドラゴンによって存在しているのか……?」
「その回答じゃ当たらずとも遠からずって所だね。
第一の竜アオーラ・ダンテギデアは全身が液体で出来た竜だった。彼女は常に体から何かを垂れ流していた。それは彼女の血液だったり、汗だったり、およそ人間の中に含まれる水分の色々を彼女は垂れ流していた。あぁ、存在としてはスライムに近いかな。
その垂れ流していた物の中には生物も居た。彼等が彼女が体液を垂れ流す理由であり、彼女の健康を保つ為の存在だった。
やがて彼女は全ての体液を流し終え、その身を自身の死に場所と定めた己の体液で出来た後の海、その奥深くに鎮めた。
第二の竜サラビリアン・オグナーダは生物で言えば亀の竜だった。アオーラが海を創った竜で在るのなら、サラビリアンは陸を創った竜だった。
彼女はアオーラの創った海を揺蕩い、時には己の鱗を落として、時には己の牙を背中の甲羅に突き刺してこの世界を何周もした。
そうして彼女は最期に此処に落ち着いた。ちょうど彼女の甲羅が海面から顔を出し、彼女の頭を乗せるのに適した岩場がこの場所だったみたいだ。
彼女がその死に解き放ったありとあらゆる力は、ありとあらゆる生物を産んだ。サース達人間以外の全ての生物を。
第三の竜イギライア・ガーミシリオンは天空を象徴する竜だった。生物としては鳥に近い。
彼女はアオーラとサラビリアンの創り出した物を憎んでいた。終ぞその理由は話してくれなかったけど、たぶん先の2竜がそれぞれ偉大な物を産み出してしまったから嫉妬していたんじゃないかな。
そんな彼女の吐く息は特別で、一言で言えば今の生物が呼吸する時に吸っては吐いている物は、元々彼女の吐いた息だったんだ。彼女が呼吸する度にこの世界に空気が産まれた。その結果、世界には『呼吸する』という概念が産まれた。今この地上に存在する全ての生物が呼吸をするのは彼女の影響だ。
そして彼女は今もこの大陸の外の何処かで死ぬことも出来ず呼吸し続けている。とある駄竜がその翼と脚を喰い、竜と成ったため。
しかし、そんな彼女達も彼女達が入る場所が存在しなければ生まれない。
この世界という枠組み、言うなれば箱その物を創ったのは天族だよ」
「………………そうなのか」
結論を言えば、色々と謎だった部分が判明した話だった。
漠然と何故この世界は今も踏み締めている地面が産まれたのか、何故俺達人間は呼吸をするのか気になってはいた。そして魔王がラウムの事を何故クソガキや駄竜と呼んでいるのか、その辺の理由がわからなかった。
先の俺との件でそう呼ぶには余りにも内容が拙い。魔王の口振りから過去にも何かやらかしていたんだろうと考えていたが、まさか竜の翼や脚を食べていたなんて思いもしない。
それ等全ての謎が今の説明で一気に判明した。当然今聞いた内容で新たに気になったことは有る。しかし本題ではない。
何より魔王もラウムのことはあまり話したくないだろう。恐らく魔王はこの世で1番あの竜のことが今の説明から理解できたから。
「それで、あの洞穴……鼻先だったか?それぞれの洞穴が違うダンジョンっていうのは、具体的にはどういう感じなんだ?」
「ありがとう……。
そうだね、その説明の途中だったね。
向かって右側のダンジョンを一言で言えば水属性に由来したダンジョンだ。ありとあらゆる水属性由来の魔物や魔道具が沢山出て来る。
詳しくは自分で潜ってみて確認してね。
向かって左側のダンジョンは古代遺跡のようなダンジョンだ。一言で言えばサラビリアンの記憶を振り返るダンジョンだね。
コッチは正直出会った頃のサースでも難なく踏破出来ると思う。ただ今尚生きる彼女の残滓だから丁寧に攻略してほしいかな。
まぁサースの事だしどっちから行くかなんて聞かなくてもわかってるけど一応聞こう。どっちから入る?」
「右」
「だよね。じゃあ行ってらっしゃい。俺はもう少し鬱憤晴らしをしてくるよ」
そう言って魔王は転移で何処かへと消えた。
それを見届け体の節々の感覚を確認する。
「よし」
宣言通り、右の洞穴の中へと俺は足を踏み入れた。




