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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第四章:強化期間・前編
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断罪……?


 そのあとすぐに魔王は立ち上がり、足音を鳴らしながらいつの間にか先程見た時の倍の大きさになっている肉塊の許まで歩き、変わり果てた餓鬼を横の床に突き刺したあと、再び何処からか武器を取り出した。


 今回取り出したのは短剣だった。なんの変哲もない短剣。もしかしたら俺が普段使っている短剣の方が見た目だけで言えば豪華かもしれない。そういえるほどに、悪く言えばみすぼらしく、良く言えばシンプルな姿の短剣だった。


 それを魔王は逆手に構えた。



 「さて、その状態でも聞こえているのは知ってるから淡々と宣言させてもらう。


 ベルゼブブ。暴食の化身にして蝿の王よ。貴様は俺が定めた絶対のルールを破った。あまつさえ、俺のお気に入りに手を出した。

 貴様は禁忌に2つ触れたのだ。なればどうなるかなどわかっているな?」



 普段より厳かな口調で魔王が語り部のように説明口調に言葉を紡ぐ。


 そしてそれを受けたベルゼブブの方はというと、その肉塊だけで体を形成し、4日前に部屋で見たあの姿を小さくしたような姿へと変わり、必死に頭を床に付けて許しを乞い始めた。


 しかし、今回はラウムの時のように止めようとは思わないし、何より魔王本人が『禁忌』と言ったんだ。裁かれるのは当然と言える。


 そして魔王自身も彼のその嘆願を聞く気は無いらしい。

 淡々と、事を進める。



 「貴様達7人には散々『他の領分を過剰に犯す事を禁ずる。破れば存在抹消を以て償いとする』ということを言い続けて来た筈だ。


 誰だって怒るだろう。誰だって傲るだろう。誰だって嫉妬するだろう。誰だって他の物が欲しくなるだろう。誰だって色を欲するだろう。誰だって何かを食べたくなるだろう。誰だって怠けたくなるだろう。


 誰だって思う事だ。だから互いの領分を過剰に越えなければ全てを許そう。そう定めた筈だ。


 怒りを覚えてもその怒りで我を忘れるなと厳命した筈だ。

 傲り高ぶってもその傲りで他に迷惑を掛けてはならないと厳命した筈だ。

 嫉妬に狂いそうになっても狂ってはならないと厳命した筈だ。

 他人の持つ物が欲しくなったのなら奪うのではなく交渉の末に手に入れろと厳命した筈だ。

 性を欲するのなら無理矢理にではなく合意の上で行えと厳命した筈だ。

 怠けても最低限の仕事は行うようにと厳命した筈だ。


 これ等を破った時、その存在を抹消されることを承知した筈だ。その上で我々はこの世に存在を許されている。


 それを破ったんだ。貴様がここで消えるのは道理と言えるだろう」



 途端、空間から先端が槍の穂先のようになった鎖が飛び出し、ベルゼブブの体を恐らく空間ごと拘束する。


 小さいベルゼブブの顔はそれはもう見ていられないほどに醜い涙顔だ。

 完全に自身の死を悟り、それでも尚生きようとしているのだろう。


 しかしそんな足掻きは無意味となる。



 「貴様は禁忌に触れた。我等が我等足り得る為のルールを破った。禁忌に触れた物は裁かれなければならない。


 ベルゼブブ。暴食の化身にして蝿の王よ。禁忌を犯した大罪人よ。今この時、この刃を以て貴様の罪の償いとする。


 去らばだベルゼブブ。第2の化身よ。次の貴様に期待する」



 恐らく、ここまでの魔王の語りは一種の詠唱なのだろう。

 魔王が言い終えると同時に短剣から肉眼でもわかるほどの高密度の魔力で出来た刃が飛び出し、それがベルゼブブへと突き刺さる。


 刺さった瞬間、俺自身を含めこの世界の全ての生物が悲鳴を挙げたような錯覚に襲われた。それはまるで生物的何かを奪われたような魂からの悲鳴であり、それはまるでそれでも死にたくないと足掻くベルゼブブの絶叫のようだった。


 それが体感1分ほど続いたかと思うと、急にそれは落ち着いた。

 そして魔王に短剣で貫かれたベルゼブブの中から、更に小さいベルゼブブが現れた。


 は?



 「おはよう新しいベルゼブブ。暴食の化身にして蝿の王よ。新しい自分はどうだい?」


 「我等が天魔の王よ、前の私は禁忌を犯す大罪人で御座いました。ですが!今回の私は禁忌を犯すような愚物になどなりません!!ご安心くださいますよう何卒よろしくお願いいたします」


 「君の前任者も最初はそう言っていたね。君はマモンの領分を毎回犯しているんだよベルゼ」


 「そうだったのですね……。ではその負の連鎖は私で止めなければなりませんね」


 「君がどうなるかはこれからの君次第だ。

 よし、話すことは話した。もう下がって良いよ」


 「はっ!では失礼します」



 何を見せられているのか。訳がわからないまま2人の会話が終わると、更に小さいベルゼブブはその小さい体を必死に動かしながらこの謁見の間の扉から出て行った。



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