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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第四章:強化期間・前編
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「アレは?」


 謁見の間に着き、そのままノックもせずに入る。

 これは別に礼儀が為ってないとかではなく、魔王にそうしてくれと言われたからノックをしないだけだ。


 と言うか、前にそれでもノックしたら悲しそうなカオをされたから、それからはやってない。



 中に入ると普通に見るのは是非とも遠慮したい何かの肉の塊があった。

 辺りにはその肉体の元となったであろう肉片や血糊が飛び散っており、この部屋全体にその肉塊の臭いが充満しているかのように不快だった。


 一瞬自分でも顔をしかめたのがわかったが、ここで立ち止まっていては仕方がないため足を進めて肉塊の先の玉座に座る魔王の近くへと寄る。



 「アレは?」


 「ベルゼだね」



 それだけで色々察して、そしてその惨状に溜め息が出る。


 最初魔王に紹介された7人の魔族。俺が別格だと述べた7人は、どういう訳か肉片1つ残らず消し去らないと死なない。そういう力を持っていると説明された。

 だからこうして魔王と話している今もベルゼは復活しようと再生している途中であり、つまり1番大きな肉塊はそういうことだった。


 その不死性がどういう原理かはわからないが、油断しているところで見せられると不快に為らずにはいられないことは間違いなかった。



 「それで、彼があぁなる原因となった餓鬼はどうなった?」


 「非常に申し訳無いんだけど手遅れだった。まぁ見てみてよ」



 そう言い魔王が何処からともなく出した大刀・餓鬼は、見ただけでもう俺の武器ではないのだとわからされた。


 まず見た目が完全に違う。元々の大刀・餓鬼は鋼の色に黄み掛かった色をしていて、その鎺にはピュアオーガを思わせる黄色い白目に黒の瞳孔の眼があった。柄は黒の革巻きでその間から見える柄の基はこれまたピュアオーガの眼を連想させる黄色だったが……、その姿はもう無い。


 今は、大刀ではなく大剣だ。片刃ではなく両刃で、切っ先も尖っている。刀身は赤黒く、よく見れば血管のような紅色の線が柄から切っ先へと伸びている。

 鎺は既に無く、代わりに元の鎺の先辺りの刀身にあの眼は移動していた。その眼も白目が黒に変わり、黒目は赤色へと変わっている。

 柄にいたってはもはや完全に別物だ。大刀・餓鬼の基となった大刀のように茎剥き出しで、その茎が握った時に滑らないように人の指より少し太い感覚を開けて刀身側から柄頭の方へととぐろを巻いている。


 そこまで違うのだから全く別の武器なのではと思わなくは無い。

 だが、それでも確かにこの武器は大刀・餓鬼が基となっているのだと素材となったピュアオーガの眼にあたる部分を見て察した。



 「コイツは……、どう……変わったんだ?」


 「一言で言えば凶化だね。まぁ元々が常人お断りな武器だったんだけど、そこのクソガキが弄くり回した結果、まず魔力を食べる1回の量が増えた。あの駄竜の魔力なんて一瞬で全部食べてしまうほどに。


 刀身破損による自己修復も、放置していれば勝手に修復されるようになったし、使用者自動強化にいたっては、元が通常時の状態から5倍強化されるという効果だったとしよう。それが今はその100倍の500倍に強化させる。


 ここまでは正直ただの強化だが、ここからが問題だ。

 まず常に何かを食べてないと気が狂いそうになるほどの空腹感を使用者に与える。

 そして食べれば食べるほどこれは強化されるが、代わりに使用者の寿命や自我さえを食べていく。

 最終的には栄養失調で死ぬか、自我さえ食べられて糞と肉の詰まった袋になるかという最期を迎えることになる。


 要するに呪いの武器になった。

 しかも質が悪いのは、今話したデメリットがそこのクソガキには一切害にならない点だ。そいつは生きているだけで常に何かを食ってる。呼吸でさえそいつにとっては食事だ。そしてちゃんと何かしらの形でしっかり自分の糧として変換出来る機能が備わっている。

 基本的にそこのクソガキにしか使えない武器に成り下がったよ」


 「……………………そうか……」



 手に魔力が自然と集まる。しかしそれさえも喰われて糧にされるかと思い、意識を別の事へと逸らす。


 思い入れという思い入れは無いと言えば無い。出来立ての武器だったし、基となった武器達も使い始めて日は浅いと言える。


 だがあのピュアオーガの素材全てを使ったという点と、ラウムの試練の中で生まれたという特殊な状況で、それこそ俺にとって唯一無二の武器と言える物を自分で造り上げたという点で、悔しくもあり哀しくもあり、やるせない気持ちになる。



 「魔王は……、アンタはそいつを問題なく使えるか?」


 「使えるよ。さっき話したデメリットって、要するに人間に備わる欲を増幅させているだけなんだ。だから元々そういった欲の無い奴かその欲に最初から抗う気が無い奴が持てば問題無いんだよ」


 「そうか……」



 魔王なら問題無く使えるのか。なら、だ。



 「そいつは魔王が使ってくれ。姿形が変わったが、まぁ俺からの日頃の感謝の気持ちとして」


 「……気持ちは嬉しいけど、返事をする前に、サース。もしコイツを元に戻せるとしたら戻してほしいかい?その上で返すと言えば受け取るかい?」



 あぁホント、魔王はいつもこうだな。本当にコイツは魔の王だ。人の心の隙間に入って来るのが上手い。


 そんなこと言われたら返してほしくなってしまうに決まってるだろ。


 だから当然こう答える。



 「戻すも戻さないも魔王に任せる。その上でそいつはもう魔王の物だ。魔王の好きに使うと良い」



 答えた直後、魔王はまるでわかっていたというように、哀しそう……、いやこの場合申し訳無さそうな、か。そんなカオして、一言「わかった」とだけ漏らした。



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