……for you(共通話)
あなたの為ならば、私が剣になりましょう
あなたの為ならば、私が盾になりましょう
あなたを邪魔するもの全てを切り裂き
あなたを害するものから全てを守り抜くと誓う
そうそれは間違いなく神からの贈り物
────全ては“あなたのために”
***
1年。365日ある中でこの日は彼にとってトラウマだった。
「本宮、」
「ゲンジ、」
「「「「「お誕生日、おめでとう」」」」」
「…………」
彼らから一斉に祝いの言葉を掛けられた彼──本宮 言司はちっとも嬉しそうではない様子だった。
その顔の下半分は縁に装飾が施された黒いマスクに覆われ、首の後ろには、大きく開かれた唇の前に二つの手がバッテンになっているのが描かれた不思議な印がある。
声を発しない──否、彼は声を封じられていて発することが“出来ない”のだ。それは彼のある特殊な事情によるものだが。
「漸くか、待ちくたびれたよ」
「ねーゲンジ、俺を選んでくれるよねっ」
「やっとだね」
「……抜け駆けはなし」
「君達は一旦外に出てて」
「えー!?何でですかっ!」
「いいから」
本宮を除き、彼らは白いフード付きのマントを羽織っていた。
話すことが出来ない本宮を置き去りにして会話が進められていく。
金髪の派手な男子が不満を洩らすが、それをこの学園の生徒会長で三年生である安藤が窘める。
金髪男子は納得がいかない顔をしていたが退室を促され、渋々他の者と一緒に出て行った。
部屋にはどこか緊張した面持ちでソファに腰掛け下を俯く本宮とテーブルを隔てて同じく向かい側のソファに座った安藤だけが残る。
「本宮」
「……っ」
名を呼ばれた彼がびくりと肩を揺らす。
「大丈夫?少し休もうか」
安藤の気遣いは彼にとっては有り難かったものの、今はそれどころではないのが本音だった。
──早く用を済ませてこの重くのし掛かる責任感から解放されたい。
そんな一心で本宮が首を横に振ると安藤はそっか、と呟き、「……覚悟は出来てる?」とだけ問うてきた。
覚悟も何も、そもそもここから逃れる選択肢なんて始めから用意されていない。
こくり、と本宮が頷く。
「分かった。では今から準備するから少し待ってて──愛斗」
「はーい」
安藤が背後に声を掛けると、別室に繋がる奥の扉から副会長で二年生の芽野 愛斗がワゴンを手押ししながら現れた。
芽野もまた白いマントを羽織っている。
ワゴンの上には黒地にキラキラのホログラムが施された包装紙に包まれた、手のひらサイズの小さな箱が全部で三つ載せられている。
それを芽野は一つ一つテーブルの上に並べていくとまたワゴンを押して奥の扉の中に戻っていった。
「……大丈夫だよ。すぐに終わるから」
安藤が本宮を気遣ってそっと声を掛けてくれる。
本宮はそれに小さく頷いた。
芽野が戻ってきて安藤が座っているソファの斜め後ろに立つ。
──もう、後戻りは出来ない。失敗は許されない。
「さあ、神(我らが主)からの贈り物……君はどれを選ぶ?」
安藤に問われ、本宮はテーブルの上に並べられた三つの箱をじっと見つめる。
先ず最初に目についたのは左の箱。
見えない何かに手招かれているような感覚が──けれどそれと同時に心臓をぎゅっと握られるような得体の知れない、ぞわっとした謎の恐怖感を感じた。
次に真ん中の箱を見やる。
何となく見ていて軽やかに心躍り出しそうな感覚が湧き起こる。でもすぐにどこかに行ってしまいそうな、けれど無闇矢鱈に近付いたら踏み潰されそうなそんな感じを抱いた。
最後に右の箱を見てみる。
見ているとまるでどこか寄り添い全て受け入れてくれるような優しさと癒やしの雰囲気が感じられてほっとする。けれど何故だろう、矛盾しているかもしれないが何となく頑として受け入れない、反発するような雰囲気も併せ持っているような気がするのだ。
同じ箱なのに見ただけでこうも感覚が違うというのは不思議で変な話だが。
本宮は目を閉じ、深呼吸をする。
──これで、自分の運命が決まる。
そして安藤を見た。
「決まったかな?」
こくりと頷く。
そうして本宮が手を伸ばしたのは────。