傷神鬼
他者から傷つけられることで力を得る傷神鬼と呼ばれる少年と村から怪力で恐れられた青年の話。悲恋。
未だ春は来ぬ
──
本当の優しい君を俺は知っている
舞い散る桜の花がそれを隠した
どうか泣かないで
俺を傷つけて
思う存分痛めつけて
きっと君の力になれるから
***
暗闇の中でかちゃりと音が鳴る。
小窓から見える星空に目を奪われていたコタは、鎖で繋がれた枷に嵌められた手を見た。
歯の根が鳴るような極寒の中、薄着で膝を抱えて蹲る。吐き出す息は白かった。
牢屋の中で過ごす毎日は、飢えと寒さと退屈を凌ぐ日々だった。
食事は最低限しか与えられず、着物は端が擦り切れていて丈が一回り小さく身体の大きさに合っていない。
檻の外へは『仕事』以外で出してもらえることはなく、無意味で怠惰に時間を潰した。
凍てつくような寒さにじっと耐えていると足音が聞こえた。
「おい」
看守に呼ばれ顔を上げる。
「『仕事』だ」
告げられた一言に嗚呼、またかとそれだけ思った。
***
「ひっ……赦してくれっ」
尻餅ついてみっともなく喚く初老の男を見下ろす。
「なぁ、悪かったって。もう二度としねぇから、頼むよ……っ」
この男が何をしたかなんて知らない。別に憎かったわけじゃない。
ただ俺は自分がやるべきことをやるだけだ。
「すぐに死なせるな。できるだけ長く苦しめてやれ」
いちいち注文する看守にうんざりする。
一発で仕留めればすんなり終わるのにと思いつつ、無感情に男の手指を折った。
「ぎゃああああああぁぁっ!!」
耳元で一際響いた甲高い声に思わず顔を顰める。
これが、俺の日常。