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第90話 俺の理性は秒で死ぬ!(別視点)

 アランが中に入ると、たくさんの書類が積み重なる執務机に兄の姿が見えた。弟の姿を見たイグニスが、部屋にいた者たちに退室を命じる。


 部屋にアラン以外いなくなると、イグニスは椅子から立ち上がり、ソファーに腰をかけた。兄が座るのを見届けた後、彼と向かい合う形で、アランもソファーに座った。


 口火を切ったのは、イグニスだった。


「どうした? 突然話があると、朝一で知らせが来たときには驚いたが」

「あ、うん……まぁ……」


 何となく言葉を濁すアラン。


 いざ、エヴァとのことを切り出そうにも、家族独特な恥ずかしさが勝って言葉がでない。


 それに、


(朝一で時間を作って貰ったけれど、冷静になって考えれば、エヴァと両思いになったことが嬉しすぎて、真っ先に報告しにきたみたいな感じになってるじゃないか、俺……)


 まるで、嬉しいことを真っ先に親に報告する子どものようで恥ずかしい。

 だが、


(これは……重要なことだ。今までフリだった婚約者の関係を本当にすることで、バルバーリ王国につけ込まれる隙がなくなるのだから。俺は、この喜びを周囲に言いふらしたいわけじゃない。そう、朝一で兄さんに伝えなければならない重要なことだから仕方ないんだ!)


 そう必死で自分の心に言い訳すると、決意を決め、ゆっくりと口を開いた。


「あ、あのさ、兄さん……俺、昨日エヴァに自分の気持ちを伝えたんだ」

「それで?」

「えっと……え、エヴァも……同じ気持ちだったと言って、俺の気持ちに応えてくれた」


 口ごもりながら告白が成功したことを伝える弟を見つめるイグニスの瞳が、優しく細められた。


「そうか。良かったな、アラン」

「ありがとう、兄さん。それでこれからのことなんだけど、俺とエヴァ――」

「皆まで言わなくていい、分かっている」


 イグニスが、アランの言葉を手で制止する。

 全てを悟ったように頷く兄を見ながら、アランは開きかけた口をそっと閉じた。


(さすが兄さんだ。俺の言いたいことは、もうすでに想定済みということか。話が早くて助かる)


なんてことを考えながら、無意識のうちに入っていた全身の力を抜いた。


 安心しきった弟の様子を見つめながら、イグニスが自信満々に口を開く。


「お前とエヴァの寝室を一緒にしたいという相談だろ?」

「全く違うからっ‼」


 予想だにしなかった兄の言葉を、アランは間髪入れずに否定した。絶対そうだと思ってたのに! と言わんばかりに、イグニスの瞳が大きく見開かれたが、すぐさま表情を改めて質問を重ねる。


「否定するってことはお前、エヴァと寝室を一緒にしたくないのか?」

「ちっ、違うって‼」

「なら寝室を一緒にする相談では――」

「そこは違うからっ‼」

「さっきから違う違うばっかり……一体何が違うのか、私もいい加減混乱してきたぞ」

「その顔……絶対に分かってやってるだろ! 絶対に俺をからかってるだろっ‼」

「さあ、何のことだか……」


 意味不明と言わんばかりに首を傾げているが、口元のニヨニヨは隠しきれていない。


 完全に遊ばれている。


 アランは憎々しげにイグニスを睨みつけたが、涼しい顔で流されるのはいつものことなわけで。


 これ以上兄の玩具になるわけにはいかない。 


「と、とにかく、そんなことで兄さんのところに来たわけじゃない! それに、し、寝室を一緒になんて……そもそも、ま、まだ夫婦でもないのに……」


 前半に力が入っていた言葉が、後半にいくにつれて掠れ、とうとう聞こえなくなった。まだ何か言っているようだが、アランの口の中から出てこず、モゴモゴしている。ちなみに、彼の髪の毛の間から見える耳先は、非常に赤い。


 相変わらずな弟の態度に、イグニスはこれ見よがしに大きなため息をついた。


「……相変わらずお前はヘタレだな」

「だ、誰がヘタレだよ!」


 アランが大きな音を立てて立ち上がった。


 結構大きな音が鳴ったのにも関わらず、イグニスは全く表情を変えることなく、怒りに満ちた弟の顔を見上げている。


 そんな兄の表情を一瞬でも動かしたくて、アランはバンッと両手をテーブルに打ち付け叫んだ。


「寝室を一緒にされた日には、こっちの理性がもたないんだよっ‼」

「もたないのか?」

「もつわけないだろ! 当たり前だろ⁉」

「根性がないぞ、アラン」

「じゃあ仮に兄さんが義姉さん相手に同じ立場なら、大丈夫だって言い切れるのか⁉」

「……………………問題ない」

「間の長さっ‼」


 考え込んだ末、視線を逸らしながら弱々しく返答した兄に、アランの激しい突っ込みが入った。


「と、とにかく! 根性とかそういう問題じゃないからっ‼ ただでさえこっちは、普段からエヴァへの気持ちを必死で抑えているのに、一緒の寝室にされた日には……死ぬ。俺の理性は秒で死ぬ!」

「……とのことだ、エヴァ?」


 イグニスの視線が、アランの後ろへと向けられている。

 そしてこの言葉。


 ギギギという音が聞こえそうなぎこちなさでアランが振り向くと、顔を真っ赤にしながら立ちすくむエヴァの姿があった。

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