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第38話 自立のために

 私は今、王都エストレアの城下町にいる。

 さすがに王都ということもあり、今まで立ち寄った街や村と比べて活気が凄い。城に続く大通りには、人や馬車が行きかい、客寄せの声が元気よく飛び交っている。


 しかし少し道を逸れると、自然豊かな広場があちらこちらにあり、人々の憩いの場となっていた。走り回る子どもたちを見守る大人たちが、木陰でお菓子や軽食を広げて談笑をしていて、和やかな雰囲気に包まれている。


 バルバーリ王国の王都ガイアスタとは、全く違う空気感だ。

 精霊を大切にしているからか、エストレアを満たす空気は軽く、爽やか。吸って吐くだけで、心が軽く、前向きな気持ちにさせてくれるから、本当に不思議。


 人々の寛ぐ姿を横目で見ながら、私は一人で歩いていた。傍には、誰もいない。というのも、私が一人で城下町に出たいとお願いしたからだ。


 フォレスティ城でお世話になって、約三十日ほどが経った。

 今でも賓客としてフォレスティ城で、丁重なおもてなしを受けている。


 使わせて頂いている部屋も豪華だし、毎日頂く食事も豪勢。これがしたいと一言でも零せば、すぐさまセッティングしてくれる。


 義両親から溺愛されていたマルティでも、受けられないような待遇だ。正直、アランたちの恩人だという理由で受けるには、過ぎるおもてなしだと、今でも思う。


 少し前には考えられなかった、何不自由ない生活。しかし生活をしていくうちに、私の中で何かモヤモヤしたものが溜まっていた。


 そして、そのモヤモヤの正体に気づく。


(私、自立したいんだわ)


 確かに、今の生活は何一つ不自由はない。皆が憧れるお姫様生活だ。

 いえ、お姫様ですら、王家や国の繁栄のため、何かしらの役目を担っているはず。それを比べると、私は食べて遊んで寝る、それだけ。


 良い歳した二十二歳がよ?


 遊んで暮らすことに抵抗を覚えるのはきっと、幼い頃から使用人として働いていたことが、身に染みているから、という悲しい理由もあるのだろうけれど。


 それに、せっかくマルティの奴隷からの解放を望み追放を選んだのに、私は未だ何一つ、自分の手で成し遂げていない。


 フォレスティ王国への旅路も、その後の生活も、アランたちに助けて貰ってばかり。確かに、自由ではあるけれど、それは全て与えられたものばかりで、私が追放前に思い描いていたものとは違う。


 辛くても、大変でも、

 自分で考え、選ぶ。


 選択に、責任を負う。


 それが、私が思う自由。

 使用人として、マルティの玩具として、クロージック家に縛り付けられていた時には決して得られなかった、選択と責任の自由だ。


 元々、フォレスティ王国には、次の生活の場を求めてやって来た。それなら、そろそろ長いお休みは終わりにして、新しい生活のために動き出さなくちゃいけない。


 とはいえ、世間知らずな私が、いきなりアランたちの庇護を離れて生きていくのは、難しい。

 だから、フォレスティ王国内での人々の生活を見るため、一度一人で城下町に出る許可を頂き、今に至ると言うわけだ。


 それをアランに言った時、物凄く渋い顔をされた。


「自立するために、一人で城下町に行ってみたい? べ、別に、城を出る必要なんてないんだよ? 今まで苦労してきた分、エヴァには楽をする権利があるんだし……」


 そう言って引き留められたけど、イグニス陛下が口添えをくださった。


「フォレスティ王国でこれから先、暮らしたいというのなら、是非そうすればいい。城下町は色々な物や人が集まっているから、フォレスティ王国での暮らしぶりを見るにはいいだろう」

「に、兄さんっ! でも一人っていうのは……」

「王都エストレアは、世界でも治安が良いと有名なんだぞ? だから過剰に心配するな、アラン。それに、エヴァだって子どもじゃない、一人の意思のある女性だ。いつまでも、城に閉じ込めておくわけにはいかないだろう」

「で、でも……」


 アランはなおも食い下がろうとしたけれど、イグニス陛下が彼を一瞥するとぼそり、


「……束縛する男は、嫌われるというぞ?」


と言うと、うぐっと声を詰まらせて沈黙してしまった。


 ということで、出かける前に散々、何か困ったことがあったら、すぐに巡回中のフォレスティ兵士に助けを求めること、遅くなる前に戻ってくること、人気の無いところには近付かないこと、などなど。


 私って、何歳だったかしら? と疑問が湧くほどの注意をアランから受け、城下町にやってきたのだった。


 城から城下町までは少しだけ距離があるので、今回は馬車で送って頂いた。私が帰る予定時間を伝えているから、それに合わせて迎えに来て貰える手はずになっている。


 次来るときは、運動も兼ねて、歩いてこようっと。

 自立した生活をするためには、やはり身体が健康でないといけないものね。


 その時、


「あーんっ‼ あぁぁーんっ‼」


 豪快、と表現出来るほどの泣き声が、鼓膜に突き刺さった。


 泣き声がしたほうを見ると、大通りから外れた店先で、女性が大泣きする赤ちゃんを抱っこしてあやしていた。女性は、手に野菜を持つ人々――恐らくお客さんだろう、に必死で謝っている。


 どうやら女性は店員で、赤ちゃんをあやすのに手一杯で、お客さんの対応が出来ず困っているみたい。


 見かねたお客さんの一人が、赤ちゃんを代わりにあやそうとしたけれど、人見知りをするのか、さらに泣き声が酷くなって手が着けられなくなっていた。


 あらあら、とあやそうとしたお客さんは苦笑いし、周囲の人々も、赤ちゃんは泣くのが仕事だからねぇ、と微笑ましく見守っている。


 優しい世界だわ。

 もしここがバルバーリ王国だったら、きっと、早く対応しろ! と怒声が飛んでいるわね。


 とはいえ、このまま買い物が出来なければ、お店もお客さんも困ることになる。その証拠に、赤ちゃんをあやしている店員さんも、とても困った表情を浮かべている。


 店番なら、追放後のお金を稼ぐために働いていたから、経験があるわ。

 世間には疎いけど、読み書き、計算は出来るし。


 そう思った私の足は、自然とお店に向かっていた。

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