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【コミック第4巻 4/24発売】精霊魔法が使えない無能だと婚約破棄されたので、義妹の奴隷になるより追放を選びました  作者: ・めぐめぐ・


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第???話 いつかどこかの場所で

 見渡す限り、砂と石が広がる大地。

 すっかり乾いた地面には、無残に切り倒されて残ったと見られる木の根が、石のように硬くなって転がっている。


 自然が失われ死の土地となった故郷を、人々は茫然と見つめていた。

 若者の一人が、声を詰まらせながら呟く。


「どうして……こんなこと、に……」

 

 この国は、豊かな自然に目を付けた他国に侵略され、占領されていた。

 故郷を襲われた彼らは異国の地に連れていかれ、無理矢理働かされていたのだが、侵略国が倒されたことで解放され、故郷に戻ってきたのだ。


 しかし戻ってきた彼らを迎えたのは、占領されている間にあらゆる資源を奪われ変わり果てた、故郷の姿だった。


「この様子だと、精霊たちもおらんじゃろうな……」

「酷すぎる……世界の根幹たる精霊が、自然と深く関わっていると知りながら、よくこんなことができるものだ! 大昔、精霊を道具にして滅んだ国と、やっていることが同じじゃないかっ‼」


 足下の石を踏みつけながら、皆が怒りを口にする。


 大昔、とある国が、精霊を道具に閉じ込めて使役していた。しかし精霊の怒りを買ったその国は、精霊たちから見放されて土地が荒廃し、結果的に滅んだ。


 人々から名も忘れ去られた愚かな国が辿った末路は、今でも教訓として伝えられている。


 怒りを露わにしていた人々だったが、やがて口数が少なくなり、とうとう何も言わなくなった。


 ここまで徹底的に自然を破壊されては、自分たちの力ではもうどうしようもないことが、分かっていたからだ。


 だが、彼らの故郷はこの土地。

 他に行く宛はない。


 そんな時、


「どうしたの?」


 透き通った女性の声が、荒れた大地に響いた。


 人々が振り返った先にいたのは、深くフードを被った一人の女性だった。


 その姿に、皆が違和感を抱く。


 ここには日差しを遮る物がないため、フード付きのマントを身につけていることに何ら不思議はない。


 問題は、足。


 彼女は素足だったのだ。

 灼熱の太陽が降り注ぐ大地は、非常に熱い。少なくとも、素足で歩いてこられるような場所ではない。


 なのに彼女は裸足のまま、ゆっくりとこちらに近付いてきた。


「ここ凄く荒れている。一体何があったの?」


 何気ない問いかけに、一人の中年女性が憎しみを込めて答える。


「この国を占領していた奴等が、資源を根こそぎ持って行ったみたいでね。もうここには、何も残っちゃいない。せっかく故郷に帰ってきたというのに……」

「そう。つまりこの状況は、あなたたちの仕業ではないのね」

「当たり前だよっ‼」


 今まで押さえ込んでいた気持ちが限界を超えたのか、中年女性は声を荒げた。死の土地となった故郷を見回しながら、涙を浮かべる。


「私たちは遠い昔からずっと、精霊と自然を大切にしてきたんだ‼ それなのにあいつらは、たった数年で全てを台無しにした……こんなんじゃ……もう故郷を立て直せない……」


 女性の口から嗚咽が漏れたかと思うと、膝から崩れ落ちた。口元を押さえ、肩を震わせながら俯いている。

 乾いた地面にポツポツと滴が落ちたが、すぐに乾いて消えていく。


 ここにいる者たち皆が絶望する中、


「大丈夫」


 自信に満ちた強い声が、まるで一筋の光のように皆の心に届いた。


 フードを被った女性が、両手を胸の前で組んで俯いている。


 まるで、祈りを捧げるように――


 次の瞬間、人々は信じられない光景を目の当たりにした。


 女性の足下から、枯れ果てたはずの水が湧き出て、みるみる広がっていく光景を。


 乾燥していた地面が肥沃な土の色へと変わり、その土から緑の小さな芽が無数に現れる光景を。


 その芽たちが<祝福(ブレス)>の魔法をかけたようにすくすくと育ち、森へと姿を変える光景を。 


 夢でも見ているのかと思った。

 しかし、水の冷たさや湿った土、木々が揺れる音が、間違いなく現実だと伝えてくる。


 彼女は、池といえる広さとなった水源の中に立っていた。

 強い風のせいでフードがめくれ、隠れていた長い銀髪がたなびく。


 閉じていた瞳が開かれ、紫色の双眸が輝く。


 銀色の長い髪に紫の瞳。 

 それは、精霊がいなくなった土地に現れるとされる偉大なる存在の特徴と、よく似ていて――


「まさ、か……」

 

 人々が女性に駆け寄ろうとしたとき、銀色の切っ先が行く手を阻んだ。威嚇するような低い声が、皆の鼓膜を震わせる。


「……それ以上、彼女に近付くな」


 黒髪の男性が、女性と人々の間に割って入り、剣を突きつけていたのだ。

 突然どこからともなく現れた男性に、皆が驚き足を止めた。


 男性と人々の間に緊迫した空気が流れたが、銀髪の女性の笑い声がそれを破った。


「大丈夫よ。彼らはこの土地で暮らしていた人たち。土地が蘇ったことが嬉しくて、私の方に来ただけ」

「敵意がないことは分かっているが、万が一ということもある」

「ルゥは心配性ね」

「君が楽天的すぎるんだ」

「だって、何かあればルゥが守ってくれるでしょう?」


 あっけらかんと答える女性に、ルゥと呼ばれた黒髪の男性が呆れたようにため息をついた。

 しかし、村人たちと対峙していた時には強く結ばれていた唇は、どこか嬉しそうに緩んでいる。


 男性が手を差し出すと、銀髪の女性はその手を取り、引っ張り上げられるような形で岸へと上がった。


 水の中にあったはずの身体は、全く濡れていなかった。


「あっ、あなたたちは……」


 村人の一人が掠れた声で問うと、彼女は隣にいる彼を愛おしそうに見つめながら、少し誇らしげに口を開いた。


「彼はルヴァン。守護者であり私と悠久をともにする者。そして私は――」


 彼女が両手を広げると、黒と白の球体が現れた。

 その姿は、この世界の人々が崇め、祀っている女性像とよく似ていた。 


「精霊女王エルフィーランジュ」


 偉大なる存在である彼女は笑った。


 遙か遠い昔、愛する人から素敵だと褒められた美しい笑顔で――



 <了>

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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\ コミカライズしました! /

『精霊魔法が使えない無能だと婚約破棄されたので、義妹の奴隷になるより追放を選びました』
(漫画:多花葉ねみ先生)

【✧コミックス第4巻が4/24に発売されます✧】
販売サイト

【配信サイト】
リマコミ+様
試し読みができます(待てば無料あり)

【電子書籍販売サイト】
コミックシーモア様
ブックライブ・ブッコミ様

現在先行配信サイト様にて1~20巻配信中です♪

AmazonやRenta様など、大手電子書籍配信サイト様でも配信されています。

よろしくお願いいたしますm(_ _"m)
― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます。 ルヴァンと永遠を辿る…それは幸せなのでしょう。 人間が中世的な世界で妖精を受け入れる世界はどう発展していくんでしょうか、現代みたいに科学が発展していくのか精神世界…
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