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「ごめーん、驚かせちゃったね。」
御厨遊音は、そういって笑った。長く伸ばした柔らかそうな髪に、大きな瞳が印象的な美少女である。薄い水色のセーラーを風になびかせ、楪葉と言雪の少し前で軽やかなステップを踏んでいる。川原を離れて、三人は住宅街がある方向へと歩いていた。住宅街は広場を離れて北側にある。反対に南側に歩けば賑やかな繁華街があるのだが、三人はあえて人気のない所を選んだ。先ほどの男の事もあったが、制服を着ていることで、こんどこそ本物の補導員に捕まりかねない。それを懸念しての結果だった。
「二人とも、あんな所で何してたの?」
少女は肩越しにちろりと振り返る。
「あそこの広場で3ON3してたんだけどな…・。ま、色々あって。」
言雪は苦笑を浮かべる。
「ふーん。なんか騒がしい事になってたみただけど?」
「だから、それが色々。」
言雪は空とぼけるように頷く。遊音は完全にこちらを振り向いた格好で怪訝な表情をした。
「それより、御厨さんこそこんな所で何をしてたの?」
楪葉の問いに、少しだけ彼女は困ったような微笑を浮かべて、また前を向いた。
その表情の奥に隠れた翳りに、楪葉と言雪は気付く。顔を見合わせた。
御厨遊音とは、中学が同じだった。あか抜けた美少女であるくせに、勝ち気でさばさばした性格が男女ともに好かれ、楪葉や言雪も学校外でも―――もちろん他のみんなも一緒に―――何度か遊んだ事はあった。しかし、彼女は私立の女子校にと別れ、それっきり連絡をとることはないまま、日々が過ぎていった。
ぽつぽつと外灯が等間隔に並び、コントラストな影を作り上げている。
「…・・私、ユヅに会いたかったの。」
「え?」
彼女はどこか思い詰めたような声音で、そう呟いた。足を止め、くるりと振り返る。丈の短いスカートが花のようにふわりと広がって、萎んだ。
「今日、城東に行ったんだよ。そしたら、もう帰ったって。家に電話したら留守番電話で、ユヅ、ケータイ持ってないし。」
「今日は半ドンだったんだよ。」
言雪が説明する。
「ごめん、叔父さん今出張中だから……。」
楪葉は意味もわからないまま、一応謝る。遊音の深刻そうな表情が、楪葉にそうさせた。彼女は小さくため息を付いた。
「だから言雪くんとこに連絡入れたら、まだ帰ってませんって。仕方ないから色々な人に電話しまくって、そしたらそこの広場にいるってわかったの。ずーっと探してたんだから。」
どこか恨みがましい声音に、なおさら不審に思う。そんなに連絡を求め会うほど、楪葉は彼女と親しいわけではなかった。
「何か大事な用?」
楪葉が問うと、遊音は視線を俯かせた。悩みすぎて感情が飽和してしまったというように、その表情に色がない。両手でスカートの裾を握りしめ、数回呼吸を繰り返すと、意を決したように楪葉を見た。
「私を助けて欲しいの。」