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戦句 ~川柳で勝敗決める物語~  作者: 眞野崇徳
中学生編
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ゲーセンで出逢った少女は強引で

 中学2年の3月、俺はいつものように学校をサボり、帯広駅南口にある商業施設の一角にあるゲームセンターでテキトーに遊んでた。

 誰かを殴ったり、物を盗んだり、タバコを吸う様な事は一切していないけど、世間的には立派な不良だ。

 学校をサボっているのも特段深刻な理由がある訳でもなく、ただ単にやる気が無かっただけ。

 強いて言うなら受験だ何だとクラスの雰囲気に嫌気がさしただけと言う、自分勝手な理由。

 親や先生は「将来についてよく考えろ」と言うが、そもそも自分のやりたい事が分からない以上、どうしたらいいのか分からない。


 だから、()()()に声を掛けられた時はとてつもなくダルかった。


「ねえ。何やってるの?」

「…」

「ねえねえ。何やってるのって聞いてるんだけど?」

「…あん?」


 声を掛けられたせいで一瞬集中力が切れ、俺の操作していたキャラクターが無様にぶっ飛ばされたので、俺は思わず不機嫌そうに顔を上げると、そこにはどこかの中学の制服を着た女がいた。

 身長は150センチ位で髪はポニーテール、クリっとした瞳で真っ直ぐこっちを見ていて、何やらバイオリン位なら入りそうなケースを肩に掛けている。


「ちょっとぉ、そんな睨まないでよ。私何もしてないじゃない」

「…ゲームの邪魔しやがったじゃねーか」


 俺は不機嫌オーラを出しつつ、さっさと移動しようとしたけど、何故か進行方向に先回りする女。


「それは悪かったわよ。でも、こんな時間(ひるの2時)こんな場所(ゲームセンター)にいる君に興味持っちゃっただもん。仕方無いでしょ?」

 

 悪びれもせず言い放つ女に文句を言おうと思ったけど、実際学校をサボっているから何も言えなかった。

 しかし、この女の言った事はそのままこの女自身にも当てはまる。


「あんたこそどうなんだ?他人の事言えんのかよ?」

「ん?私?」

「そうだろうが。今の時間は授業中じゃないのか?他の中学の事は知らないけど」

「ああ、私は高校の入試の結果発表だけだし、時間あったから戦句喫茶(せんくカフェ)にバイトしようと思っていたところなんだよ」


 どこか偉そうに言ってくるが聞き慣れない…いやその単語自体は知ってるけど、この女には似つかわしくないから思わず眉を顰めてしまった。


戦句(せんく)ってアレだろ?川柳とか俳句みたいなので1VS1で戦うお上品な(くだらない)競技だろ?あんたとは無縁そうだけどな」

「そんな事無いよ!てか、私『赤木 成実(あかぎ なるみ)』って名前があるんだから名前で呼んでよ!」

「…ピーピー煩いな。じゃ、成実。俺は帰るから」


 手をヒラヒラさせて今度こそ帰ろうとしたら、さっきよりも成実は怒っている。


「ちょっと!何でいきなり呼び捨て!?てか、君の名前も教えなさいよ!てか、帰んないでよ!!」


 俺の腕をしっかり掴み怒っているその姿は、完全に痴情の縺れたカップル。

 このままだと周りの非難の視線を浴びる羽目になる。

 面倒くさそうだけど、話を聞く事にした。


「分かった…分かったからまずは落ち着こうぜ。成実。このままだと俺もあんたも愉快な視線に晒される」


 ハッと気付いて周りを見渡した成実はバツが悪そうに隣の椅子に腰掛けた。


「…騒いだのは悪かったわ。てか、取り敢えずそこのフードコートに移動しない?君も直ぐに帰る気は無くなったんでしょ?」

「(このまま強引に帰っても着いてきそうだしな)…まあな」

「…何よ?」

「いや。ちょっとノド渇いたし、何か頼むか」


 二人でフードコートに移動し、俺は炭酸飲料、成実はアイスティーを頼んだ。


「そしたら改めて自己紹介するよ。私は赤木成実。赤い木で赤木、成功の成に真実の実で成実よ。年齢は15才。二中の3年で4月から三条高校に通う詠人(うたびと)よ。詠人ってのはプロの戦句を詠む人って意味で、帯広劇場に所属してるわ」

「俺は蒼月龍也(そうげつたつや)。草かんむりに倉、月夜の月で蒼月。龍也は難しい龍に平仮名の『や』みたいな漢字で龍也。共栄中の2年で年齢は14だ」

「えっ、まだ中二なの?てっきり高校生位だと思ってたわ。てか、中二ならまだ授業中でしょ!?」

「うるさいなぁ。説教するだけなら帰るぞ?」

「…確かに今そんな事言ってもしょうがないわね。でも理由位聞いてもいい?」


 やっぱり強引にでも帰った方が良かったかとちょっと後悔したけど、俺も気になる事があるから話を続ける事にした。


「…はぁ。それ位ならいいけど、下らん理由だよ。単に将来が分からなくて教室にいてもしゃあないから自主的に息抜きしてたんだよ。それより詠人?プロ?何の冗談よ?」


 ハッキリ言って胡散臭かった。戦句にプロがあるのは知ってるが、目の前の女がそうだとは思えなかったからだ。

 すると、成実は何か考え事を始めた。


「…う~ん。説明するのは簡単だけど、悩める仔羊に選択肢を与えてあげるか。学校は違うけど、私の方が先輩だしね」


 と言うが早いが、いきなり立ち上がって楽器ケースみたいなのを左肩に掛け、右手で俺の手を引っ張りだした。


「お、おい!どこに行くんだよ!」

「まあまあ♪悩める後輩君に対するちょっとしたお節介だよ♪龍也君♪」

「おま…!ふざけんな!せめて行き先を言え!」

「大人の()()()よ♪」


 こうして俺は引きずられるようにフードコート、いや商業施設を後にした。

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