異世界の朝①
□◇■◆(幸助)
昨日の夜は長かった。
この世界のことをたくさん聞かせてもらった。
どうやらこの世界には日本から転移させられた勇者と呼ばれる人間が結構いるらしい。数か月に一度の割合で転移させられているらしい。
あのスタイルのいいサイコな自称女神のリサーチ不足は慣れによる怠慢だったようだ。あ、いや、自称ではなく本物の女神だったようだ。
一番の疑問はなぜ日本人が転移させられているかということだ。
それについては答えはないらしいが、日本人はラノベやアニメで異世界についてよく知っているし、抵抗感も少ないから選ばれているという噂があるらしい。
幸助はその説は信憑性の高いものだと思った。それにこの世界は文字こそは違えど、話し言葉は日本語と、日本で一般的に使われている外国語という点も日本人が転移の対象となっている理由だと予想できる。
話をしている中で、異世界転移については受け入れるほかないと幸助は思った。それを受け入れた上で、自分にできることを考える必要がある。それがわかっただけ十分収穫があったといえる。
昨夜はそんな話や質問ばかりでお互いのことは話さなかった。
いや、むしろ話さなくてよかった。
お互いのことは言葉ではなく、ぶつかり合って知っていく。
それでいい。それだけでいい。
相手を求め、相手も求める。そこに言葉はいらない。なくていい。
男と女が言葉以外で意思を交わす。
故に長い夜だった。
そんな素敵な昨夜のことを思い出しながら、幸助はそそくさと身支度を始める。
ベッドにはすやすやと美女が寝ている。
気持ちのよさそうな寝顔だ。まつげが長く、透き通るような白い肌。髪はきれいな金髪で、窓から差し込む朝日が彼女に当たっている。まるで絵画のように美しい。
幸助は服を着て荷物をまとめる。準備万端。名残惜しいがさようならだ。
「うーん……。おはよう、勇者様」
きれいな目を擦りながら美女は上半身を起こす。
「早起きだね」
起こさないように出ていくつもりだったが、気が付いてしまったようだ。
髪のきれいな美女は胸までシーツをかけているが、彼女は裸だ。薄手のシーツが彼女のきれいな身体のラインを強調する。
ここは長引かないようにあっさりと挨拶をしよう。
「おはよう。昨日はありがとう」
幸助はドアノブに手をかける。
「それじゃあ」
「え、ちょっと待ってよ。早くない?」
「勇者の朝は早いんだ」
適当な言い訳をして、幸助は鞄を持ち直す。
「いくらなんでも早すぎるでしょ」
無視をして出て行ってしまおうかと思ったが、一応礼儀は必要だろうと考え改める。
「俺はこの世界では勇者ってことになっている。早いってことはない。それでは。また逢う日まで」
かつての名曲よろしく、幸助はいい声で告げる。
「いやいや、また逢う日までって、なんだかもう会わないみたいじゃない」
何かと突っかかってくる。なかなかこの部屋から脱出できない。
「そんなことはない。縁があればまた出会える」
「そういう意味じゃない」
「どういう意味かな?」
「え、だって抱いたじゃない。私のこと抱いたわよね」
「まあな」
「それってそういう事でしょ?」
「どういうこと?」
「ずっと一緒にいてくれるって事でしょ?」
「いや、違う。そういう事ではないだろう」
面倒なことになったと幸助は思った。
「え、違うの?」