チラシ配り④
まったくもって意味のわからないことを言う勇者様の相手をしているうちに肉屋に着いた。
トリストは骨着き肉を、勇者様は骨なし肉を選んだ。勇者様曰く、骨は邪魔だと言う。骨があるほうが贅沢な気がするのに。
他に飲み物やお菓子屋を買ってトリストの家に戻った。
家に着くなり、トリストはシャワーを浴びるための準備をする。
トリストの家は貧民街。お湯を沸かして水でぬるくして浴びる。シャワーと言っているが、実際は水浴びのようなものだ。
体も頭も石鹸で洗う。レス姉やリア姉の家で温かいお風呂に入っている勇者様には申し訳ないと感じている。
しかし勇者様は文句の一つも言ったことがない。泊めてもらえるだけありがたいと言っていつも笑顔だ。
クラトゥ村に移住したらお風呂付の家に住める。それまでの辛抱だ。このひもじい生活からもおさらばできる。だからこのチラシ配りは絶対成功させたい。
「準備ありがとう」
こちらの思いに気がついたのか、勇者様がドア越しに声をかけてきた。
「こんにゃ事どうって事にゃいにゃ。沸いたら教えるからゆっくりしててにゃ」
「じゃあその間、俺は夕飯の準備をしておくよ」
がさがさと音が聞こえる。勇者様が買ってきたものを袋から出しているのだろう。
「といっても切って並べるだけだけど。お皿、勝手に使うよ」
「申し訳にゃいにゃ。ぼくちゃんの手際がもっと良かったら……」
「気にするなよ。そんなことトリストには求めていないから」
「え、にゃ、そ、そうか……にゃ」
突き放されたような気がした。
「ああ、トリストには期待していないから気にするなよ」
突然闇の中に放り込まれた気分だ。
勇者様に期待されて仕事をしていると思っていた。今日のポスティングだって……。ただの思い上がりだったのだろうか。
ずたずたと心が切り裂かれていく。しかもその傷は切れ味の悪いナイフで切ったようなぎざぎざした直りの悪い傷だ。
戦闘で傷を作ったことは何度もあるが、この攻撃は防げない。
ノーガードでクリティカル。
耳をふさぎたい。次の勇者様の言葉が怖い。
もう攻撃を受けたらHPが残っている自信がない。
「じゃあ僕ちゃんは何のために……」




