チラシ配り②
□◇■◆(トリスト)
役割はチラシ配りだと勇者様に言われたときは、レス姉とリア姉より劣った役割を与えれたとトリストは感じた。
しかし、数回の全戸は言うのポスティングと説明を聞いて、ちゃんとトリストのことをわかっての役割配分だったと思い直した。
身体能力の高い猫族の中でも群を抜いているトリストは自分の能力が自慢で、意味もなく屋根を伝って街中を走り回ることがあった。だからこの街のことは熟知していた。それを知ってか知らずか、勇者様はチラシ配りの役割をくれたのだ。
「勇者様に期待されているにゃ。期待に応えるにゃ」
いつもより心が軽い分、素早さに拍車がかかる。
意味もなく走り回っていた時と違い、今は勇者様の片腕として役割を与えられ、街中を走っている。普段だったら、あいつ何やっているんだろうと、街の人たちは見ていただろうけど、今は違う。
勇者様のために働く戦士として見られているだろう。町の人からの信頼感、期待感を含んだ視線を感じる。貧民層のトリストが手に入れたかったものの一つだ。
「勇者様には感謝しかにゃいにゃ」
自尊心が高くなっていくのがわかる。
いつも自分に自信がなく、強がりばかりだったが、今は少しだけ胸を張れる。
この身体能力がみんなのためになると自分自身に期待をしている。
そんなことを考えているうちに、チラシの補充を二回目の補充をする。
「にゃ!? さっきよりも減っているにゃ!」
トリストはチラシの山を見ながら言った。
「勇者様も一度補充しに戻ってきたんだにゃ。僕ちゃんも頑張るにゃ」
勇者様の働きを間接的に見れ、トリストもさらに気合が入る。
「終わらせたら勇者様にいい子いい子してもらうにゃ。にゃははは」
仕事が楽しくなってきた。
にゃはははと笑いながら街中を飛び回る。街の人たちの視線が不信感に変わっているとは一ミリも思っていない。
何往復したのか途中から数えるのをやめたので覚えていない。しかし開始から三時間経ったあたりで、担当区域のポスティングが終わりを迎える。
「ふーっ。やっと終わったにゃ。さあ家に戻って勇者様に報告だにゃ」
トリストは最後のポストに投函する。
大急ぎでトリストは家に戻ったが、勇者様の姿はなかった。
「終わっていにゃいかもしれにゃいにゃ。しかたにゃい。手伝うかにゃ」
地図で勇者様の担当区域を確認して走り出す。
すぐに目的地に着いたが、勇者様は見当たらなかった。




