チラシ配り①
□◇■◆(幸助)
チラシが完成した。リアの素晴らしいデザインと、レスティの尽力ですぐに納品されたチラシは二万枚。町の全戸配布を数回しても余りが出る計算だ。
「今日は全戸配布を目指してがんばろう。できなかったらそれはそれでしょうがない。何日かかけてできればいいかなって思っている」
幸助はチラシを確認して言う。
「ここに泊まりに来るたびにポスティングって感じかな」
「わかったにゃ! 気合を入れていくにゃ!」
チラシはトリストの家にすべて置いている。決して広いとはいないトリストの家だ。チラシでほとんどのスペースが埋められてしまっている。
二人は持てる分だけ鞄にチラシを入れる。足りなくなったらここまで取りに帰ってくる必要がある。
体力に自信のない幸助だが、トリストがいると心強い。多分ほとんどをトリストが配ってくれるのではないかと期待している。
地図を広げ、あらかじめ決めていた区域を確認する。
「俺はトリストみたいに屋根から屋根へと飛び移れない。三、四百件くらいが限界だろう」
「それしかできにゃいのか……」
トリストが困ったような顔をする。
「まあいいにゃ。僕ちゃんが本気を出せば、こんにゃものすぐに終わるにゃ」
「頼りにしているぞ、トリスト」
「任せるにゃ」
無い胸を張るトリスト。それは本人には伝えない。
「よし、それじゃあ早速出発しよう」
「オッケーだにゃ。じゃあまた後でにゃ」
トリストは屋根へジャンプし、建物の向こう側へと消えていった。
「さすがだな……」
トリストの身体能力を持って地球にいたら、夏季でも冬季でもオリンピックの全種目で金メダルを取れるだろう。あるいは戦争地域で英雄にもなれるかもしれない。
「俺は地道に地面の道を走りますかね」
くだらないことしか思い浮かばない。
幸助は担当する区域にたどり着くだけで体力を消耗していた。
「早いところチラシ配りを済ませてしまおう」
学生時代は、お正月に郵便局でアルバイトをしていた。三が日はテレビが少し面白だけで特にやることもなかったので、稼ぎ時と考えていた。
その時の記憶がよみがえる。
自電車に乗って投函して回ったんだったな。ああ、自転車があったらな。
そういえば、アルバイト先で出会った女の子と付き合ったこともあったな。ああ、地球が恋しいな。
空想を炸裂させながら、幸助はポスティングを行う。
仕事の疲れが心地のいいものに変わってくる。久しぶりに働いているという実感がある。
程よい労働は存意義に近い。社会性の確立には必須だ。しかし程よくなくなると社畜になるので、みんなも気を付けよう。
そんな注意喚起を促しているうちに、持ってきたチラシは撒き終わってしまった。
一度トリストの家に戻り、追加分を持ってくる必要がある。
めんどくさいと思うが、トリストも頑張っているし、リアとレスティの努力も無駄にはできない。ここは最低でも役割分だけは絶対にこなしたいと思う。がんばれ俺。
小走りでトリストの家に戻る。追加分を持つとすぐに引き返し、担当区域Uターン。がんばれ俺。
多分このペースだと問題なくできるだろう。よかった。ノルマは達成できそうだ。
さあ、気合を入れなおして、ポスティングの再開だ。がんばれ俺。




