異世界到着④
「痛てて……。大丈夫かな?」
幸助は胸に抱いている女の子に話しかける。
「あ、は、はい。どうもありがとうございます」
女の子が幸助の胸から頭を上げる。
「あなたは命の恩人です」
かわいらしい瞳の女の子だった。
「いやいや、そんな大げさな」
そのかわいらしい瞳に見つめられ、幸助は少し照れた。
思わず目をそらし、視線を下に向けると、余計に照れてしまった。
それもそのはず、かわいらしい瞳もさることながら、なかなかのスタイルだったからだ。スリットからきれいな太ももが見えている。どんな服だこれ? そして胸も大きく幸助のお腹に当たっていた。意識したら弾力をもろに感じるではないか。感謝。
「大げさなんかじゃありません。助けていただいたお礼に何かさせてください」
緊張をしているのだろうか、かわいらしい瞳の女の子は声を震わせて言う。
「別に見返りが欲しくて助けたわけじゃないんだ。気にしなくていいよ」
「それでは私が納得いきません」
なかなか引かない。ぐいぐい来るタイプか?
幸助はとりあえずお礼にしてほしいことをを考えてみる。
一つ思いついたが……。
「そ、そうだな……。君がよければなんだけれど……」
「はい、何でもおっしゃってください」
「あの……その……。俺、この街に着いたばかりでよくわからないし、行く当てもないんだ」
話を真剣に聞いてくれるかわいらしい瞳の女の子に幸助は言う。
「一晩でいいから泊めてくれないか?」
「え、わ、わ、私のおうちにですか……?」
かわいらしい瞳の女の子は動揺しているようだ。
急に見知らぬ男に家に行っていいですかと言われ、動揺しない女の子は少ないだろう。すんなり交渉成立するのは、テレ東のあの番組くらいだろう。
しかし行く当てがないのだから仕方がないことだ。決していやらしい意味ではない。そう、仕方がないんだ。仕方がないんだよ。仕方がないよね? 仕方がないんです。
「でもいくら俺が命の恩人だからといっても急に泊めてくださいってお願いされても許可しにくいよな……。大丈夫。難しいなら何とかするから」
「あ、あの、いえ、私のお家でよければご招待いたします」
渋々かもしれないが、承諾してくれたようだ。
「無理しなくていいんだよ?」
「い、いえ、無理ではありません……。ただ……」
「ただ? いや、やっぱりやめておこうか。無理なら無理で全然かまわないから」
一応こちらは無理を言っていませんよという体を作っておく。別にいやらしい意味での宿泊交渉ではないのだから、そんな言い訳は必要ないのだけれど、まあ一応ね、一応。
「無理ではないのですが……部屋を片付けたいので、家の前で少し待っていただきたいと思うのですが……失礼ではないかと……」
「そういうことか。泊めてもらえるだけありがたい話だよ。それくらい気にしないよ」
幸助はかわいらしい瞳の女の子の手を取る。
「実はこの街も、この世界のこともあまりよくわからないんだ。後でゆっくり話を聞かせてくれないか?」
「もちろんです。私もたくさん話がしたいです」
倒れこんでからずっと座りっぱなしで話をしていた。
幸助は立ち上がり、かわいらしい瞳の女の子に手を伸ばし、彼女が立ち上がるのをエスコートした。
「身体は大丈夫? 痛いところはないかな?」
「ええ、大丈夫です」
かわいらしい瞳の女の子は服に着いた汚れをはたく。
「それでは案内しますね」
「ありがとう。よろしく」
幸助が笑顔でお礼を言うと、かわいらしい瞳の女の子も笑顔になる。
かわいらしい瞳の女の子が歩き出したので、幸助は着いていく。
いきなりかわいい女の子との出会いから始まるなんて、異世界転移はなんてすばらしいのだろう。
あれれ? どうやらいつのまにか異世界転移を受け入れているようだ。




