事務手続き④
レスティは湯につかると、今日のミスについて考え始めた。
勇者様はミスではないと言ってくれたが、確認を取らなかったことは確実にミスだ。失態だ。これは評価を下げてしまったのではないかと不安にある。
しかしそれよりも勇者様が気にしていたのは、ミスの後の私がいつもと違うということだった。口調が変だとか態度が違うだとか言っていた。ミスをしたのだから、反省の意味も含めてかしこまった言い方になってしまう。
「ミスをすることよりも、いつもの私でないことのほうが勇者様は気になるのか……。それってもう私のこと好きってことなんじゃない?」
湯に浸かっているのとは別の理由で、体が熱くなる。
「私のこと好きなんじゃんかー」
ばしゃばしゃと湯をたたくレスティ。
「おい! 大丈夫かレスティ!」
勇者様の声がドアの向こうから聞こえる。
「え、あ、だ、大丈夫よ。なんでもないわ」
突然の勇者様の登場に混乱するレスティ。
「え、な、何でいるのよ?」
「トイレに行く途中で水の中で暴れる音が聞こえたから、心配になった」
「そ、そういうこと……」
話を聞かれていないと信じよう。
「わ、私は大丈夫だから、リビングで待ってて。もうすぐ上がるわ」
「わかった。戻って待ってる」
勇者様は脱衣所を出ていったようだ。
「あーびっくりした」
急いでお風呂から出て、服を着る。
リビングに戻ると勇者様がメイドと話をしていた。
「何の話をしているの?」
「ほら、さっき言っていたレスティのアパートの場所、メイドから聞いておいた」
勇者様がメモを見せてくれる
「とは言っても日本語だから読めないかな?」
「ええ、読めないわ」
勇者様のメモを見たが意味はなかった。
「ありがとうね。手間が省けたわ」
メイドにお礼を伝えると、とんでもありませんと言い、キッチンへ行った。
「完全にいつものレスティに戻ったな」
「心配かけてしまったわね。もう大丈夫よ」
「それはよかった。ところでレスティ、君は何で魔法剣士になったんだ?」
「私の父が剣士だったのよ。小さい頃から剣の修業をさせられていたのよ。だけど魔力もそれなりにあってね、攻撃魔法も覚えさせられたのよ」
「小さい頃から優秀だったんだな」
「そ、そんなことないわよ。ただ周りよりちょっと強かっただけよ」
「それじゃあ自分の意志で魔法剣士になったわけではないのか」
「まあそうなるわね。だからといってやらされてるって気もしなかったけれど」
「そうだよな。自分から魔法剣士になるなんてレスティは言わなそうだよな」
「そうかしら?」
「うん、そうだな。冷静に考えられるレスティだったら魔法剣士は選ばなかっただろうね。だって、攻撃は剣のみで十分だから、魔力があるなら補助魔法のほうが断然いい」
また始まった。勇者様のひねくれた考えが。




