事務手続き①
□◇■◆(幸助)
レスティは上流階級という身分と、ハーフエルフという長生きの種族の特権を活かし、いろいろな人とのつながりを持っていた。
印刷会社とのつながりがあるかはわからなかったが、レスティはうまく立ち回ってくれたようだ。そもそもこの世界に印刷会社があるかもわからなかったが。
今日は三日ぶりのレスティ宅。進捗状況を聞くことになっている。
「いらっしゃい。思ったより遅かったわね」
時刻は夕方。到着した幸助にレスティがドアを開けながら言った。
「出かけてたの?」
「ちょっとね。トリストからシーフのスキルを教わっているんだ」
靴を脱ぎ家に上がる。
「おじゃまします」
「え、トリストと会ってたの?」
意外な答えだったのか、レスティが驚く。
「スキルだったら私だって教えられるわよ。それに私のほうが戦闘では実用性が高いわ」
「それはわかっているよ。でもほら、最近はレスティとリアは忙しいだろう? だから今はやることのないトリストから教わっているだけだ」レスティに促されるままリビングに通され、いつもの席に座る。「時間ができたらレスティからも何か教わりたいと思っている」
「それならいいけど」
テーブルには食事が用意されていた。メイドの作った料理だ。
レスティはあまり家事をしない。メイドが家事全般をこなしている。さすが上流階級。
ちなみに今日の料理はイタリアンという日本料理とのこと。おかしな日本語だが、目の前にあるのはナポリタンなので、否定することができない。
レスティの息子二人は母と同じく魔法剣士で、今は冒険中。転移してきた勇者とパーティを組んでいるわけではないが、それなりの収入があるらしい。勇者の息子という肩書が信頼を寄せ、依頼が舞い込むらしい。そういった副産物もあるようだ。
アパート経営と息子二人の収入で、レスティの家庭は高い生活水準を保っている。
息子二人はともに三十歳を超えているので、母としては結婚をして家を出て行っても構わないと思っているようだが、ハーフエルフは寿命が長いので、そんなに急いでいる様子が感じられないとレスティは言っていた。そんなレスティも初婚は百七十歳を超えてからだった。
「それにしても勇者様がスキルを学んでいるとはね」
レスティが幸助の向かいに座る。
「何か企んでいるのかしら?」
「そ、そんなことないよ。せっかく時間があるんだから、何か役に立てればって思ったんだよ」
「ふーん。まあいいわ。トリストから詳しく聞くから」
レスティは目を細め疑っている様子だ。
「お、おう。そうか……。別に構わない。ところでレスティ、印刷会社との連絡調整は済んだのか?」
幸助は話題を変えることにした。
「その件ね」
レスティは書棚から紙を取り出し、幸助に見せる。
「はい、これが見積書よ」
「見たところで俺は読めない」
「そうだったわね……。二万刷って金貨十枚って契約よ。結構安くしてもらったのよ」
「おお、すごいじゃないか、レスティ。君に任せてよかったよ」
「ありがとう」
「ところでレスティ、この納期はどうなっている?」




