デザイン⑦
「保険ですか?」
「ああ。勇者の転移ってランダムなんだろ? 実際この街に俺がやってきたのも五十年ぶりと言っていたし。それにたとえ勇者に出会えたとしても確実に選んでもらえるという保証はない。だからレスティやトリストのような職業を選んだほうが、たとえ勇者に出会えなくてもクエストをこなせば、何とかくいっぱぐれはないだろう? これがいわゆる保険だ」
「はぁ……なるほど……」
怪訝そうにリアが答える。
「それに比べて治癒師という職業ではクエストを一人でこなすことはできない。治癒魔法は治癒する相手がいて初めて成り立つからな。補助魔法も然り。これはかなりリスクのある職業選択だと思うんだけど」
「でも、結局は誰かが治癒師にならなければ誰も傷をいやすことはできません」
「確かにその通りだな。だから商業ギルドでの職業登録をするのならそれも問題ないと思う。しかし冒険者ギルドに治癒師としてパーティを組む前から登録するのはリスクがあると思う」
「そうですね。正直に言いいますと、機会があれば使えるように冒険者ギルドに登録していたのです」
「そうだよな。それ以外で治癒魔法や補助魔法を強化した魔法使いの冒険者になることなんて理屈的にありえないよな」
「なんか馬鹿にされています?」
珍しくリアが怒っているように見える。
「いや、それはない。むしろ感心している。結果としてその読みが当たっていたのだから」
「誉め言葉として受け取っていいのですか?」
「ああ、もちろん。実際キュオブルクには剣士や戦士といった攻撃タイプに比べて、治癒師や補助魔法使いは少ないからな。目の付け所が良い」
「ありがとうございます」
無駄話をしていたら結構時間が経っていた。
「そろそろ出るか。以前結界を破られているからな。魔法石の確認そして結界魔法もかけ直しておきたいし」
「そうですね」
二人はまとめた荷物を玄関先に置いて村を歩く。
リアが木に吊るされた魔法石一つ一つに結界魔法をかけていく。魔法石が全部で何個だったかは途中で数えるのをやめたのでわからない。
結界魔法を終え、家に荷物を取りに戻ると、丁度馬車が迎えに来ていた。
「これで準備は完了だ」
「そうですね」
「スケッチもできたようだし、それじゃあ苦しみの馬車に乗り込むか」
「私には苦しくありませんが……」
「それもそうか。まだ眠気もあるし、酔う前に眠れば着いてから再起不能になることはないだろう」
幸助が乗り込むとリアも続く。
「そうですね。それじゃあ勇者様は眠ってください」
リアが幸助に毛布をかける。
「ありがとう。おやすみ」
幸助は毛布にくるまるとすぐに眠りについた。




