異世界到着③
歩いているとジロジロと視線を感じる。ジーパンにTシャツという格好は幸助しかいないため、好奇の目で見ているのだろう。
着替えたいとは思うが、だからといって武装的な格好になるのも気が引ける。そもそもお金も持っていない。新しい服を買うことはできない。それに視線なんて気にしなければいい。とりあえず今は情報を集めることを優先しよう。
大通りを進むと、恐らく市場と思われるところに行き着いた。恐らく屋台と思われるところに、恐らく肉と思われるものや、恐らく魚と思われるもの、そして恐らく野菜と思われるものなどが並び、恐らくお金と思われるもので、恐らく取引されていた。地球で見たそれらと何ら変わりはないが、確証を得るまでは疑っておく。
呼び込みをしている人たちはみんな日本語を話していた。海外で日本人旅行者に話しかけるような片言な日本語ではなく、しかっかりとしたネイティブな発音の日本語だった。これだけしっかり聞こえるのであれば、恐らくこちらから話しかけても通じるだろう。
なかなかおいしそうな匂いがしてきたため、幸助はおなかが空いてきた。慣れない登山をしたからだろうか。いや、登ってはいないから下山だ。
おなかを空かせながら恐らく市場と思われるところを観察していると、通りの方から恐らく女性のものと思われる悲鳴が聞こえてきた。性別についてはデリケートなご時世なので、悲鳴の発生源を確認するまで断言はしないようにしておく。
幸助は通りに出て何が起きたのかを見に行く。
通行人の一人が道の真ん中で転んだようだ。恰好が女性的だったので、性別が男性だとしても、女性として接するのが適切だろう。
すぐに立ち上がらないところを見ると、打ちどころが悪かったのかもしれない。白い服が汚れてしまっている。
まるで東京のように我関せずと、誰も彼女に手を差し伸べようとはしない。
幸助自身も余計なことはしたくないと思うタイプだが、事なかれ主義というわけでもない。面倒なことになるなら関わりたくないと思うだけだ。
まあそのうち立ち上がるだろう。そう思っていたら、女の子の後ろから暴走した馬車が一直線に向かってきている。このままでは女の子が轢かれてしまう。
「まずいな……」
ここでスルーして女の子が轢かれ怪我でもしたら胸糞が悪い。余計なことはしたくないが、嫌な気持ちにはなりたくない。それに女の子には恩を売っておきたい。
思うが早し、幸助は走り出す。これならまだ間に合うだろう。
予想通り馬車より早く女の子の元に辿り着き、力いっぱい持ち上げる。
間一髪のところで救い出す。
馬車が幸助の背中ぎりぎりのところを通り過ぎる。
勢いのあまり幸助は女の子を抱いたまま倒れこんだ。
幸助が下敷きになったので、女の子には特にダメージはなかっただろう。