勇者とレスティと海水浴~エピソード・レスティ~⑥
「起きろよ、レスティ」
「う、うーん……」
勇者様の声で目が覚める。
あっという間にキュオブルクに着いたようだ。
外は夕方になっていた。
馬車を降りて自宅に向かう。
馬車で寝たとはいえ疲れはまだ取れていない。明日一日は睡眠でつぶれるだろうと予想できる。
「ごめんね、待たせたわね」
家に着き、ドアを開けると、ちびっ子二人が出迎えてくれた。
「「お帰りなさい! お母さん、お父さん!」」
■□◆◇
あの日以来、海水浴には行っていない。
海を見るたび、夏が来るたび、あの日の思い出が蘇る。
あれから三十年以上経っているのに。
今回の勇者様に海に行きたいと言った。思い出を塗り替えたいのだ。
あの楽しかった思い出をもう一度作りたい。
別に前の夫に未練があるわけではない。もうそういった感情はない。
しかしあの時のことは素敵な思い出として心に残っている。
この感情は誰にも話さない。この思い出は誰にも伝えない。
私だけの心に留めておく。
不純だろうか。
でも今の勇者様に対する気持ちも本物だ。これに嘘や偽りはない。
今の勇者様に対する気持ちも再確認できたし、そろそろ寝よう。
ああ、恋ってなんて素晴らしいのか。




