異世界到着②
しばらく歩くと崖になっていた。それなりの高さだ。
日中でよかった。夜だったら崖に気が付かずに転落していたかもしれない。
崖から見える景色に幸助は圧倒された。
高い壁に囲まれた都市があったからだ。
中世ヨーロッパを彷彿とさせるその都市は、見るからに活き活きとしており、どこかのさびれたマイナーなテーマパークではなく、現在使用中の都市であると感じた。
都市の最奥には城が見える。これもまたヨーロッパ的な造りであり、立派なものだった。
この都市はいわゆる城壁都市。
地球には城壁都市の国はなかったはずだ。やはりテーマパークなのだろうか。
とりあえず目指す場所をこの城壁都市とする。
下っていけそうな獣道を見つけ、再び歩き出す。
植物に詳しければ分布から現在地を特定できたかもしれない。虫や動物でも然り。だがあいにく幸助はその方面に詳しくはなかった。
正確に言えば生物について詳しいと思っていた。しかし出会う植物は見たこともない大きな花や葉っぱをしているし、遭遇する生き物は角の生えた兎みたいなものや、こぶしサイズの蟻みたいなものなどなど。今まで見たどの図鑑にも載っていない生命体との遭遇に、自分の知識に自信がなくなってしまった。
獣道を進むと麓まで下ったようで、広い道に出た。舗装されているわけではないが、土は硬く、馬の蹄や車輪の跡が確認できたので、主要道路だろうということがわかった。
しかし周りには人はいない。街灯もないので、夜は暗そうだ。
城壁都市の方向へ再び歩き出す。
崖から見下ろしたときは近いと思っていたが、案外距離があるようだ。少し疲れてきた。
しばらく歩くと城壁が見えてきた。近づくにつれ、城壁の大きさに圧倒される。
城壁には門があり、その前には門番と思われる人がたっていた。鎧をまとっており、手には槍を持っている。
まるで警察署の前に立つ警察官のようだ。悪いことをしたわけでもないのに委縮してしまう。そういった威圧感があった。
通っても問題ないか聞こうと思ったが、門は開いているし、闇雲に行動したら閉じられて閂をされても困るので、悶々としながらも門番と間隔を取って進んだ。門を九種類ゲットした。
門番がちらりとこちらを見たが、すぐに正面に視線を戻した。
城壁都市には自由に入れるようだ。埼玉県から東京都に移動するときのように、通行手形が必要だったらどうしようかと思ったが、杞憂に終わった。該当県民の皆様いじってごめんなさい。
門には看板があった。恐らくこの都市の名前だとは思うが、幸助の知らない文字で書いてあるため、読むことはできなかった。
「なんて書いてあるのだろうか……って日本語!?」
見慣れた日本語が、見たこともない文字の隣にひっそりと申し訳ない程度に表記されていたため、思わずツッコミを入れてしまった。
カタカナで「キュオブルク」と読めた。
「キュオブルク……これがこの都市の名前なのだろうか?」
たしか「ブルク」はドイツ語で「城」や「城塞」という意味だったと思う。この都市の造りから言って、国名で間違いないだろう。ただなぜドイツ語なのだろうか?
それにしても、ありがたい日本語表記のおかげで、この都市の名前はわかった。なぜ日本語表記化があったかのかは考えないようにする。ご都合主義。
門の入り口から少し歩くと、大通りと思われる道に出た。他とは違って活気にあふれていた。人や馬車が行きかっている。
見たところ、恰好は違うが幸助と同じような人間が多い。遠回しな言い方になったのは、人間のようだが猫耳が付いていたり、豚のような鼻をしていたり、いわゆる亜人と思われる者がいたからだ。ただ単に豚のような鼻をしているだけで、亜人ではなかった場合、それは本当にごめんなさい。
幸助はジーパンとTシャツといったカジュアルな格好だったが、周りを歩く人々はローブのようなものをまとっていたり、武装的な恰好だったりと、まるでゲームやアニメや映画のようなファンタジーの世界の住人のようだ。もしかしたら異世界に転移させられたのではないかと勘違いしそうになってしまう。
行く当てもないが、とりあえず幸助はキュオブルクを歩くことにした。