平和な日々
□◇■◆(幸助)
打ち上げの日からしばらく時間が経った。
キュオブルクにおいて、勇者幸助一行の名はそれなりに知れ渡った。それは幸助の願ってもないことだった。いや、普通に願っていなかったという意味だ。勇者として生きていくなんて嫌だと思っていたからだ。
しかしそんな思いと裏腹に、勇者幸助の下には依頼が舞い込む。それを幸助はあっさりと受け流す。そしてそれをレスティ、リア、トリストの三人が華麗に解決する。
幸助を養うために稼ぐ必要があるからだ。ありがとう。
このままでは捨てられてしまうと思わなくもないが、そこらへんは上手くやっている。相手に幸助が必要だと思わせることには慣れている。
歪なパーティだが、なんだかんだ上手く回っていると思う。
クラトゥ村の時のような大きな依頼があったら、また幸助自身も動かざるを得ないと腹をくくれるが、舞い込んでくるのは小粒な依頼ばかりなので、今はこの形でいいだろう。
それに目下の課題はクラトゥ村の再建だ。村の運営なんてしたことがないので、誠心誠意取り込み中だ。他のことに時間を使う余裕などない。
今日も村の再建について頭を働かせるために、布団に包まり一日を過ごそうと思っている。これは幸助なりの誠心誠意だ。文句は言わすまい。
しかしそれもお昼にはたたき起こされてしまう。ランチはクルミカフェに行く必要があるからだ。
自分のプライベートを確保したい。そう思うが、ここまでの状況は幸助自身が作り出したものだとわかっている。身から出た錆だ。
どうにかしてこの状況を打破できないものかと思案する。
クラトゥ村に移住でもしようか。それは良い案だ。プライベートを満喫できる。
「勇者様、そろそろ出発よ」
レスティが声を掛けてくる。
のそのそと体を起こし、着替えをする。歯を磨き、顔を洗う。いざ出発。
クルミカフェまでの道のりは何度も通っている。見慣れたものだ。
クルミカフェにはリアとトリストがもうすでに到着していた。
「お待ちしておりました」
「待ちくたびれたにゃ」
「遅れていないわよ」
これで全員。幸助のパーティの顔ぶれがそろった。
勇者パーティよろしく依頼の件や魔物の話をしなくもないが、ほとんどが女子高よろしくガールズトークだ。楽しそうで何より。
最近はアピール合戦のようなものは減ってきた。寂しくなんかない。うん、まったくもって寂しくなんかない。
いがみ合うこともなくなっている。仲間意識が芽生えているのだろう。一緒に冒険に出ているのだから、蹴落とし合うことなんてしないのだろう。
命を預け合う仲間といったところか。美しい友情だと思います。友というより姉妹みたいなものか。これはダブルミーイング。
しかしとりあえずはこのままでいい。特に何もないという状況が一番だ。
警察官になって悪者を捕まえたいと思っている人がいたとしたら、そういう人を幸助は信用できない。
悪の存在を求めているようで違和感を覚えるのだ。
幸助としては、警察官は暇であってほしいと願う。警察が警察として出動しなくなる世の中が平和といえる。
消防士もしかり、医者もしかり。
そしてこの理論でいけば勇者も同様だ。
勇者への依頼の数が平和と混沌の指数といえる。
つまり退屈とは至福。
この状況は平和極まりない。
そして今、幸助は宿にもお金にも食事にも女にも困っていない。これ以上何を望むというのだ。ああでもプライベートは欲しいか。
幸助はこのまま異世界生活が順風満帆に続いていくことを願った。




