出発②
「今日は曇りですね」
リアが外を見て言った。
「本当だったらきれいな山々が見えるのよね」
「そうなのか」
幸助は横になってから少しくらいは話ができるようにはなった。
馬車は標高の高いところを通っている。その先に見える景色のことを言っているのだろう。確かに曇ってる。景色がいいとは言えない。
「残念だにゃ」
「残念ではないだろう。本来なら見える景色を思うことも一興だぞ」
「どういうことだにゃ?」
「花は咲くのを待っているときも美しいものだ」
幸助がしみじみと言う。
「わかります。咲いているときはもちろんですが、きれいに咲くことを思うときも愛くるしく美しいです」
目を輝かせるリア。
リアは植物を栽培しているからそういう気持ちもあるのだろう。
「そうかにゃ?」
「というより、そういう想像ができる人類の思考が美しいと思う」
「なんだか詩的で哲学的ね。まさか勇者様からそんな話が聞けるとは思わなかったわ」
「こういうのも一興だろ?」
「よくわからにゃいにゃ」
「目に見えているものだけが全てじゃない。それだけで判断してはいけない。ちゃんと本質を見極める必要があるってことだ」
「そうね、それは大事ね」
「本質を見るのですね。勉強になります」
「にゃんでもいいにゃ」
結局最後までトリストには伝わらなかったが、わからないままの方がトリストらしくていいのかもしれない。
「それじゃあここで少し休憩にしよう」
馬車酔いする幸助の要望に応え、途中に十五分の休憩を五回入れたため、予定より大幅に遅れてクラトゥ村に到着した。
幸助以外の三人は休憩で昼食を摂っていたが、幸助は吐いてしまう恐れがあったので、何も食べなかった。
馬車が村のアーチを抜け村の中に入る。停車場に馬車を停め幸助一行は村の土に足をつけた。
クラトゥ村は入り口にアーチはあるものの、キュオヘルムのように壁はおろか柵ですら囲まれてはいなかった。
「レスティ、この村はキュオブルクと違って壁に囲まれていないようだけど、魔物に襲われないのか?」
「そんなことはあり得ないわ。あれを見て」
レスティが指をさして言った。
「あの木に紫に光っている石がぶら下がっているでしょ? 魔法石といって、あれがこの村を囲って結界を張っているのよ」
よく見ると、等間隔で木に紫に光る石がぶら下がっていた。




