出発①
□◇■◆(幸助)
幸助、レスティ、リア、トリストの四人は朝からクルミカフェに集合していた。
「準備は整ったわね。いよいよ出発よ」
幸助の隣でレスティがみんなを見渡して言った。自分に言い聞かせ、気合を入れているようにも見える。
「さあ、腹ごしらえをしておくにゃ」
朝とは思えないほどの食欲でトリストがおなかを満たしている。
「初めての冒険です。不安はありますが、がんばります」
リアは緊張しているのか、杖をぎゅっと強く握り、気を引き締めている。
もうしばらくするとここクルミカフェに馬車が迎えに来る手はずになっている。
「みんなのおかげで準備は万端だ。手間をかけずにすぐに片付くはずだ。安心して俺について来い」幸助は珍しく勇者っぽいことを言ってみる。
「「「!?!?!?!?」」」
目が点になる女性陣。
「……にゃ? 勇者様はもしかしたら勇者様かもしれにゃいにゃ」
「うん、なんか俺、実際に勇者らしいよ?」
「何か、どこか、具合でも悪いのでしょうか……出発を遅らせましょうか?」
「これ以上は待たせられないし、体調は万全です」
「これは嵐の予感かしら」
「いや、平和への予兆です」
幸助のらしくない発言に女性陣がこの冒険に対して不信感を抱き、好き勝手言っている。
それぞれに幸助が全力で訂正をしているときにクルミカフェの前に馬車が到着した。
「お前ら、俺へのディスリはもう終わりだ。とっとと馬車に乗り込んで出発するぞ。とにかく俺の戦い方を見ていろ。そうすれば評価も変わるだろう」
目を細めて幸助を見る三人。こういったときには団結力を見せ付けてくる。
会計を済ませ外へ出る。
「ほらほら、早く乗り込め」
不満がありそうな女性陣を馬車に乗せる。
全員が馬車に乗り込んだことを確認すると、御者のおっさんが馬に鞭を入れる。馬車が走りだす。
道はある程度舗装されているが、コンクリートのような技術は無いため、ぼこぼこしている。車輪も猛省のため、馬車はがたがたと揺れる。
馬車での移動は幸助にとっては初めての体験だ。自動車、電車といった文明の利器に頼りっぱなしだった生活から一転して、原始的な乗り物が主流になる。めんどくさいと思う気持ちも少しくらいはあるが、自由を手に入れたようで晴れた気持ちのほうが大きい。馬車と共に心も揺れる。折角だから、楽しんで冒険をしようと心でつぶやいたが……。
「あー気持ち悪い」
走り始めて十分。幸助が履きのない声で言った。
元の世界でも乗り物酔いをするタイプだった幸助は、この揺れには耐えることができなかった。
みんなには申し訳ないが、途中どこかで休憩を入れてもらうしかない。
「あの……勇者様についていっていいのかにゃ?」
「そうね、不安要素が増えたわ」
「乗り物酔いは、治癒魔法では治せないのです……申し訳ありません」
幸助への信頼はここでまた落ちたようだ。しかし反論する余裕は幸助にはない。女性陣の言いたい放題の時間がしばらく続いた。
狭い馬車の中で幸助は横になる。これだけで大分良くなる。寝てしまうのが一番いいのだが、初めての討伐で気が張っているのか、目が覚めている。




