資料調査③
「ええ、なにやら実力を見誤られたとかなんとかの勘違いかなんかでパーティを追放されてしまって、不貞腐れて田舎町でスローライフを送るとか言って農家をやる勇者様が増えたのよね」
「それは災難な勇者だな」
「だけどパーティが、やっぱり戻ってきてくれって言っても、もう遅いって言って頑なに戻らなかったのよ」
「そりゃそうだろ。勘違いで追放されたなら戻りたくない」
「でもその勇者様がいなくなったらパーティが回らなくなってしまうわ」
「そんなことはない。抜けても問題ないと思ったから追放したんだろう? 欠員による人材不足である程度てんやわんやしてしまうかもしれないけど、パーティを継続することは可能なはずだ。そのパーティの連中は今までより忙しくなってしまったから戻ってきてほしいと弱音を吐いたんだろう。そうじゃなかったら、パーティ側に問題があるんだから戻らなくて正解だ」
「たとえそうだとしても、勇者様が勇者様として働いてくれないと平和が保てないわ」
「それも違う。その勇者はスローライフを送りたいって言っているんだろ? スローライフっていうのは平和が保てないと送れない。平和の極みみたいなものだからな。つまりその勇者は自分がいなくても平和は保てるとわかっていて、その上で戻らないと言っているんだろう。俺がその立場だとしても、戻らない。戻る必要性がないからな」
「じゃあ逆に言えば、パーティが解散に追い込まれ、平和が保てなくなるのであれば、スローライフを送れなくなってしまうから、勇者様はパーティに戻らざるを得ないってことかしら」
「そうだ。そうなれば戻る必要性がある。ただ実際はパーティの解散の有無は関係ない。平和が保ってられるかどうかだけがスローライフの可否を決めるからな。つまり平和の継続が困難になるのであれば勇者は勇者として仕事をする必要があるということだ」
「じゃあその勇者様は平和の継続が可能だと判断したから、スローライフを選択したということ? そこまで計算しているのかしら」
レスティは席を立ち、幸助の分と自分の分のコーヒーを淹れる。
「それ以外ないだろう。そこまで計算していて、戻るのを拒んでいるとしか考えられない。もしただ単に、俺を追放したんだから戻るのは嫌だ、って言っているのであれば、それはそれで勇者としてどうなんだって話だ。そんな浅はかな奴なら戻ってこない方がパーティとしても運営しやすいだろう」
「そんなものかしら……」
レスティはコーヒーカップを両手に持ち、片方を幸助に渡しながら言った。
「そんなもんだよ。簡単に言えば、その勇者がいなくてもパーティは回るし平和は保てる。いたら仕事が少し楽になる程度だ」幸助は受け取ったコーヒーを飲み一息つく。「これはその勇者だけの話ではないけどな。一人いなくなっただけで潰れるのであれば、それはそもそも組織の基盤が破綻していたってことだ。遅かれ早かれ潰れている。でもたまにいるんだよ、自分がいるから回っているって過信している奴が。そういう思考の奴は厄介だから気をつけた方がいい」
「何か嫌な思いでもしたの?」
「ああ、あっちの世界でな。今は関係無いから今度気が向いたら話すよ。思い出したらむしゃくしゃしてきた」
幸助は頭を掻く。
久しぶりに思い出した日本の記憶が嫌な記憶で残念だ。
「落ち着いて、勇者様」
「ごめんごめん。話が逸れたな。資料調査に戻ろう」
幸助は資料に目を落とす。




