水質調査③
幸助の身体に異常はない。しかしさっきの実験でこの汚染水は、遅効性であることがわかっているので、身体の変化に気がつけるように精神を集中させる。
リアも油断せずにいつでも魔法を使えるように杖を構えている。
「う、うぅ……」
唸るような低い声が幸助から発せられる。幸助自身が出したくて出しているわけではない。湧き上がってくるのだ。
「くはっ!」
幸助が血を吐き、受身を取ることなく倒れた。
「リジェネレーション!」
幸助は意識が途切れた刹那、リアの声が聞こえた。
「うあああああああああああああああ」
幸助が息を吹き返す。
呼吸が荒く、冷や汗をかいている。倒れた際にぶつけた額が痛い。
「だ、大丈夫ですか! 勇者様!」
リアが幸助に駆け寄り抱きかかえる。
リアは幸助の頭をひざに乗せ用意していたポーションを飲ませる。
「う……うぅ……。リアか……」
まだ視界がはっきりしていない。
「俺は……死んだのか……?」
「はい。お死にになられておられました」
そんな敬語は聞いたことはなかったが、ツッコミを入れる気力はなかった。
「生き返らせる自信はありましたが、怖くてなりませんでした」
リアは相当心配していたようだ。蘇生魔法が無事成功して安心したのか、半べそをかいている。
「リア、君ならできると信頼していたから、躊躇なく汚染水を飲めたんだ」
幸助はリアの手を両手で包み笑顔を作る。
「ありがとう」
「い、いえ。私は治癒士としてのことをしたまでです」
「さすがリアは信頼の置ける治癒士だな」
幸助は立ち上がろうとするが、完全に回復していないのか、足元がおぼつかない。頭もくらくらしている。
ポーションを飲んだからと言って直ぐに元通りというわけにはいかないようだ。これが副作用というやつか。
「勇者様、無理に動いてはいけません。私が支えてベッドへお連れします。休んでください」
「情けなくて悪いな」
「いいえ。自ら犠牲になられたのです。情けないなんてことはありません」
「そうか。それならお言葉に甘えさせてもらおう」
幸助はリアに支えられながら家に入り、ベッドに寝かせてもらう。
「ありがとう、リア。少し休むよ」
リアの頭を撫でる。
「はい、そうしてください。私は勇者様の看病をしますので、何かありましたら言ってください」
頭を撫でられ頬を赤らめるリアが言う。
「結構しんどいな。今日はトリストのところに行かなくてはいけないのに……」
トリストの家に泊まる日だ。そして現地調査の結果も聞く予定になっている。
「無理は禁物です。今日明日は休んだ方がいいと思います」
リアが本気で心配して言ってくれている。
「一緒にいてほしいから言っているわけではありません。治癒士として言っているのです」
「治癒士としての助言か……。まあとりあえず少し休むよ。様子を見て判断する」
「そうしてください。回復するまでしっかり看病させていただきますね」
「助かるよ、リア。もっとそばにきてくれないか」
そう言うとリアはベッドに腰をかける。幸助はリアを両手でぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう。本当は怖かったんだ」
「ゆ、勇者様?」
急に弱音を吐かれ戸惑う様子のリアだが、察してくれたのか、今度はリアが幸助の頭を撫でる。
「ご立派でしたよ」
「ありがとう」
リアに回した手により力が入る。
「もっと近くにきてくれないか」
「は、はい」
返事をするとリアもベッドに入る。
それからのことは想像に任せる。




