城内見学④
「そうなのか」
魔王の件は初耳だった。
「なるほど。それでこんなにしっかりとした城壁に囲まれているのか」
「さすが勇者様、気になっていらしたのですね」
「平和そうに見えるが、兵士もしっかり武装しているからな。ところで、約百年前の魔王はまだ生きているのか?」
「もういないわ。転移してきた最初の勇者様が討伐したって話よ」
「それで勇者への信頼が厚いのか」
まさか勇者が転移してくるなんて、魔王も驚いただろう。ツイていないとしか言いようがない。それにしてもその勇者は何とも志の高いお方なのだろう。
もしかして魔王が暴れだしたから世界を守るために、スタイルの良い自称女神が勇者を転移させたのだろうか。最初の勇者はしっかりと下調べをして適任を選んだのだろうか。慣れというものは恐ろしいものだ。
「そうだにゃ。勇者様は強いにゃ」
「ただ、その魔王も転移した勇者様かもしれないという噂があります……」
「時期が重なっているから、そういう噂も出たのだろうか。否定する材料もなければ、確証できるものもないなら、噂でしかないな」
「ただ、魔王にならなくても、勇者であることをいいことに、やりたい放題の勇者様もいたことはいたけどね」
「力を持つと使い方を間違えるやつもいるだろう」
「その点、勇者様は無気力だから心配にゃいにゃ」
トリストがクッキーを食べながら言う。
「それは誉め言葉なのか貶されているのかわからないな」
幸助は苦笑いをする。
「ところで、夜中の外出禁止っていうのは罰則はあるのか?」
「大した罰則はにゃいにゃ」
悪気がなさそうにトリストが言う。
「かにゃりしつこく事情をきかれるだけだにゃ」
「それだけなのか? それじゃああまり意味がないんじゃないか?」
「そんなことはありません。魔王が勇者様だったかもしれないという噂が流れたように、むやみに外出すると魔王や魔物と繋がりがあるのではないかと変な噂が立ってしまいます」
「なるほど。過去の魔王の出現がある意味抑止力になっているんだな」
「そうよ。だから外出する際は時間に間に合うように計算しないといけないの」
「面倒だけど、ルールなら仕方がないか」
この世界で生きるわけだから、今聞いたことは頭に入れておこう。
「そういえば、勇者様。その格好で討伐する気かにゃ?」
トリストが急に話題を変えてきた。
「え、ああ、そうだな。特に何も考えていなかった」
「それでは戦えないと思います」
目立っていることは否めないが、不自由とは感じていなかった。それに戦うつもりもない。
しかし準備が必要だとみんなに言った手前、自分だけこのままというのは筋が通っていないと思う節はある。
「それじゃあテキトーに装備を揃えておくよ」
「私が選ぶわ」
「私が選びます」
「僕ちゃんが選ぶにゃ」
三人同時だった。幸助の装備は狙われていたようだ。
センスが高いのは私だ、お金を持っているのは自分だ、好意にしている店がある、など服選びの権利を言い合っている。
「わかった。みんなで選びに行こう」
この不毛なやり取りを幸助はいい加減嫌になってきた。
「「「えー」」」
女性陣からは不満が出てきたが気にしない。
「もうみんな食べたな、それじゃあここを出て俺の装備を選んでくれ」
半分投げやりだった。いや、半分以上。それも違う。全部だ。
城を出て街に戻る。外はもう夕方になっていた。のんびりし過ぎたようだ。
装備の売っている場所も、どんなものがいいのかもわからないので、三人にお任せすることにした。
しかし完全にお任せするのも嫌な予感がしたので、動きやすさと見た目にはしっかり注文をつけた。もはや任せていなかったかもしれない。
その甲斐もあり、一悶着もあり、まあそれなりのものが買えたのではないだろうか。たぶん勇者らしくなれただろう。おおむね満足といったところだ。
その後はレスティとトリストと別れ、リアの家に移動した。
リアの家でディナーを食べ、お風呂に入り、まったり過ごした後、二人で布団に入った。
その日の夜は、とても涼しい夜だったが、とても熱い夜だった。




