王との謁見③
「このレスティと、勇者一行が、王様の命を受け、クラトゥ村の魔物を退治し、生活用水の再生を行います」
おいおい、勝手に決めるなよと、心の中でレスティに叫ぶが、王様とリュジーアが目を輝かせているので、もう取り消せないと判断する。
「よいぞぉ。よくぞ言ってくれたぁ。それではぁ、この件は任せるぅ」
王様はレスティの返事に満足そうだ。
まあ仕方がない。不本意だが依頼を受けることにしよう。
考えを切り替えなくては。どうしたら最善を尽くせるか。
「勇者様、話は済んだから行くわよ」
レスティがこちらに小さい声で話しかける。
「あれ? 私が決めちゃったから機嫌悪くしちゃった?」
ちゃんと考えたいのでレスティをとりあえず無視する。
この依頼をしてきたリュジーアという男はなかなか元気な男だ。体育会系っぽくて、あまり話をしたくないタイプだ。
「寝ているにゃ?」
トリストも声をかけてくるが、気が散ってしまうので、返事はしない。
村全体に被害が及ぶ、水の汚染の再生という課題……。
「勇者様……具合でも悪くなりましたか?」
リアもこちらを伺ってくるが、無反応を突き通す。
死者が出るほどの被害と、魔物の強さ……。
「レスティ、クラトゥ村はここからどれくらいの距離なんだ?」
幸助がレスティに尋ねる。
「え、そうね。馬車で片道四時間くらいかしら?」
「僕ちゃんなら全速力で走れば片道一時間だにゃ」
話を聞いていたのか、トリストが言う。
幸助はもう一度考える。
「どうしたんじゃぁ? 勇者よぉ」
王様の問いかけにはさすがに答えなければまずいだろう。
「王様、この依頼を受けるにあたって、少し準備をさせていただきたいと思っております」
「なんじゃぁ?」
突然のお願いに戸惑った様子の王様。
「クラトゥ村の帳簿などを見せていただきたいのですが……」
「帳簿じゃとぉ? そんなものが必要なのかぁ?」
王様はきょとんとした表情をしている。
その表情には幸助も思わずかわいいと思ってしまった。女子の気持ちが少しわかった。
「はい。準備として必要です。クラトゥ村の会計簿や住民台帳、詳細な地図、そのほか村に関する資料を見せていただきたいです」
「秘密が多いんだけどなぁ……。まあよぃ。見せられる範囲で見せよぉ」
「ありがとうございます。そしてもう一つ」
幸助はリュジーアに顔を向ける。
「君に一つ頼みがある。村の川の水を汲んできてもらいたい」
「それくらいっ、お安いっ、御用ですっ!」
「できるだけ多く汲んできてくれ」
幸助はリアを指さす。
「その水はこちらのリアの家に届けてくれ」
「はいっ! 喜んでっ!」
リュジーアはお酒が飲みたくなる返事をする。
考えられる準備はできた。あとはモノが揃うのを待つだけだ。
「それでは王様、吉報をお待ちください」
これでここにもう様はない。帰ろう。
四人は王様に頭を下げて、謁見は終了した。
「よろしくぅ」
約束を取り付けたとみると、王様は用は済んだといわんばかりに席を立ち、奥の間へ消えていった。
使いの男がこちらに近づいてきて、早くこの部屋から出るようにと、幸助たちを促した。




