王との謁見①
□◇■◆(幸助)
クルミカフェを出て大通りを歩き始めたときは小さく見えていた城も、近くまで来るとかなりの威圧感がある。
城の名前はグランルージュ城というらしい。グランルージュ一族が代々王様を務めているとのこと。完全世襲の王制がこの国の決まりらしい。国民がどう思っているから知らないし、幸助自身も王制の国に住むのは初めてなので、良し悪しはわからない。
「勇者様は王様からの召集にそれほど驚かれていませんでしたね」
リアが城の前に着くなり聞いてきた。
リアは幸助の様子をよく見ているようだ。リアの性格なのだろう。恐らくレスティ、トリストのこともしっかり見ている。
「ああ、そうだな。特に驚きはしなかった」
「確かにそうね。私に連れて来させるってことに驚いていただけで、召集されたことには特に反応はなかったわね」
レスティも気がついていたようだ。
「そうだったかにゃ?」
トリストは特に覚えていないようだ。
「俺が転移された場所はこの街の外の丘の上だったんだ。そこからこの街を見下ろしたときにこの城が見えた。だからこの世界は王制だってことはわかっていた。そして勇者として転移されたのであれば、王様との接触は避けられないだろうと覚悟はしていた」
「さすが勇者様だにゃ」
「冷静な分析ができる方ですね。勇者様、私はこの謁見で何があっても共に参ります」
リアが急にアピールをする。
「私だって勇者様と一緒にどこまでも行くわ」
レスティも続く。
「僕ちゃんも僕ちゃんも」
トリストも加わる。
「お前ら、アピールはもういい。王様に会いに行くぞ」
城の周りには堀があり、跳ね橋を渡ると門に辿り着ける。城の四隅に円筒型の塔があり、兵隊が見下ろしている。城の造りは防衛対策を施しているようだ。
この街も壁に囲われていることを考えると、敵対勢力がいて、侵略してくる可能性があるということなのだろうか。あるいは魔物から守るためなのだろうか。どちらにしてもこの街は外敵からの侵略の恐れがあるということか。頭に入れておこう。
門には兵士が立っていた。その門番はレスティに届いた手紙を見ると、重そうな門を開けてくれた。三人は軽く会釈して、一人は「ありがとにゃん」と言って門をくぐった。
門をくぐると、ヨーロッパ調の左右対称に造られた庭があった。よく手入れされているとわかる。
「立派なお庭ですね。きれいなお花も咲いていて素敵ですね」
リアが目を輝かせている。
リアの家に泊まった時、家の中を紹介されたが、庭で花や野菜を育てているということも言っていた。家庭的な一面をアピールすると共に、植物の調合をしているという治癒士としてのプレゼンでもあった。理由は何であれ、庭いじりが好きなのだろう。リアは城の庭園を見て楽しそうにしている。
レスティは王様に以前会ったことがあると言っていた。前の勇者とパーティを組んでいるときに、同じように召集されたのだろう。
一方、リアとトリストは城の門をくぐることすら初めてだと言う。
城に入るにはそれなりに理由や条件が揃わないと一般市民には許されないことらしい。そんなに大層なことなのにコンビニに行く感覚できてしまって良かったのだろう。やはり下準備は必要だったのではないかと幸助は考えてしまう。
大きな庭園を抜けて、やっと城の本体へ辿り着く。城には住みにくいだろう。
城の扉の前にも甲冑の門番が左右に立っていた。さっきと同じように手紙を見せると、何も言わずに扉を開けてくれたので、三人は会釈をして、一人は「ありがとにゃんにゃん」といって扉を抜ける。
城の中に入ると、フォーマルな格好をしたお年を召した使いの男が、「こちらへ」と言い、案内してくれた。
城内はいろいろな調度品があり、アンティークに興味のない幸助にも高価なものだとわかった。頭上にはシャンデリアがあり、この空間の格調の高さを物語っている。
急に緊張してきた。リアもトリストもいつもより、表情が硬い。レスティだけが普段どおりのようだ。
いったいどんな内容で召集させられたのか、考えてもわからなかった。行き当たりばったりで、出たとこ勝負というわけだ。
入り口から続く長いレッドカーペットを歩き進むと大きな扉の前で止められた。
扉に向かって左から、リア、俺、レスティ、トリストと並ぶ。
使いの男が合図をすると、観音開きの扉が開かれる。




