女神②
「ふふふ。驚かせちゃったわね」
何やら楽しげだ。この女が誘拐だか拉致だかをした犯人か。
金髪で長髪。顔は目鼻立ちがくっきりしているが、異国感はない。かなり美人と言える。ドレスのようなフォーマルな白い衣装。足を組んでいるが、スカート丈が短く、きれいな太ももが見える。いろいろ期待したい。そしてかなりいいスタイルで、胸は大きい。
「お姉さん、ここはどこなのかな?」
幸助はとりあえず、疑問をぶつける。
「思ったより冷静ね。ここは死後の世界よ」
「シゴノセカイ?」
このスタイルのいい女は何を言っているのだろうか。
ナチュラルに解釈をすれば「死後の世界」だと思われるが、ありえない。今こうして意思を持って話をしているのだから。
他の解釈をすると「詩語乗せ会」という謎の会だろうか。俳句クラブみたいなものだろう。
あるいは少し聞き間違いをしていて「新・碁の世界」という囲碁のテレビ番組かなんかのことを言っていたのかもしれない。そしてその番組のドッキリ企画だったりするのだろうか。
もしくは「四五の政界」という四十五歳前後の議員で構成される超党派の派閥だろうか。そんなものがあるのかどうか知らないけれど。
まあ、いずれにしてもよくわからない。
「死後の世界よ。死んだ後の世界」
やはり何を言っているのだろうか、このスタイルのいい女は。
今確実に、はっきりと「死んだ後の世界」と言った。
「面白いことを言うね」
「本当の事よ。うふふ。ここに来る人は大体そういうリアクションよ」
「そうだろうね」
「佐井幸助さんね」
スタイルのいい女は何やら手元の書類を見ながら話をしている。
「年齢は二十八歳で性格は……ってサイコパスっぽいわね」
「名前をいじるな」
間髪を入れずに幸助はツッコむ。
学生時代からいじられてきたので慣れてはいるけれど。
「ああ、ごめんなさい。取り乱したわ」
スタイルのいい女が息を整える。
「ところであなた、最後の記憶は彼女と過ごしていたってとこじゃない?」
「ああ、俺は彼女の家にいたはずだ」
そうそう、彼女の家で炬燵に入ってまったり過ごしていたはずだ。
「あなた、彼女に殺されたのよ」
スタイルのいい女はさらっと恐ろしいことを言う。
「え、うそだ」
「本当よ」
「悲しくてならない」
ショックではあるが、心当たりはある。
「心当たりはあるわよね」
「ノーコメントで」
本当だとしたら、残念でならない。
ただここで「嘘だ」「本当だ」と押し問答をしても意味はない。とりあえず、このおかしなことを言うスタイルのいい女の話を聞こう。
「私としてはありがたい死だったわ」
「どういう意味だ?」
本当か嘘かは別にして、死がありがたいとは聞き捨てならない。なかなかサイコな女だ。