事情聴取②
「そういえば、転移って結構前からあるんだろ? だったら俺にこだわる必要はないんじゃないのか?」
「新しく転移された勇者様のほうが選ばれる可能性が高いって言われているの。日本の人は相手をころころ変えないって話だから」
レスティがフォークを置き答える。
「それにこの街の付近に勇者様が転移されてくるのは約五十年ぶりなんです。だからみんな色めきだっているのです」
リアも食事を終えたようだ。
「そうなんだにゃ。だからこれはチャンスにゃんだ。僕ちゃんをパートナーにしてくれにゃ」
トリストがそう言うと、二人も身を乗り出した。
「それなら私と組むべきよ。なんてったって魔法剣士よ。それに話しをしてて分かったでしょ。私が一番聡明よ」
「いいえ、私と組むのがベストだと思います。私は治癒士ですから、回復と癒しを施すことができます」
大通りでのアピール合戦が再開された模様だ。幸助は眉間にしわを寄せながらサンドイッチを食べる。
「僕ちゃんはシーフだから素早い動きで戦闘をしたり、アイテムを確保したりできるにゃ」
「シーフってただの盗賊じゃない」
「盗賊と一緒にするにゃ! もう悪いことはしにゃいにゃ」
「もうって……してたのかよ。おい、悪いことしてたのかよ」
これには幸助もツッコミを入れる。
「私は上流階級だからお金に困らないわ」
「上流階級の魔法戦士……。え、あ、もしかしてあなた……」
リアが何かを思い出したようだ。
「あなた、五十年前にこの街に転送されてきた勇者様とパーティを組んでいた方ですね」
「え、あ、うん、そうね……。ええ、そうよ」
勢いがなくなるレスティ。
「五十年前って……レスティは俺と同い年くらいじゃないのか?」
年齢は聞いていなかったが、見た感じから自分とそう変わらないと思っていた。
「そ、そうよ。私達は同世代よね」
笑顔が引きつっているレスティ。
「ちゃんと説明しますね」
リアがそう言うとレスティが焦る。
「しなくていいわよ!」
「いいえ、勇者様は知るべきです」
毅然とした態度のリア。
「レスティさんはハーフエルフという種族ですので、人間とは肉体の衰え方が違うのです。見た目は若いかもしれませんが、恐らく三百歳くらいじゃないでしょうか?」
「えぇぇぇぇぇええええ!」
幸助は驚きのあまりサンドイッチを落とす。
「み、み、見えにゃい……」
トリストも同様に驚いている。
「ちがうわ! 二百二十八歳よ!」
レスティは訂正するが、それでも驚きは変わらない。
「それにレスティさん、その前の勇者様との間に二人の息子さんがいませんでした?」
「え、マジで!? 息子いるの!?」
昨晩のことを思い出し、焦る幸助。
「あーもう! そう! そうよ、いるわよ。三十五歳と三十三歳の息子がいるわ」
「俺より年上じゃん……。って不倫? これ不倫になる?」
「大丈夫よ、夫は十年前に冒険中に亡くなったわ」
「「「あ……」」」
聞いてはいけないデリケートなところだったのかもしれない。
「べ、別に気にしないで大丈夫よ。新しい勇者様に出会えたのだから」
レスティは笑顔を作り、胸を張る。
「まあそれなら安心だな」
幸助はホッと胸を撫で下ろす。
「マジで一瞬焦った」
「それでどうするにゃ? 誰を選んでくれるにゃ?」
「選んでどうするの? 流れがよくわからない」
隙あらばアピールをしてくるが、何のためにこんなにも必死なのだろうか。