追跡②
「あ、君か」
勇者様はレスティを確認すると素っ気なく答えた。
「君か、じゃないわよ! 私をおいて出て行くなんてひどいじゃない!」
息も切れ切れにレスティは勇者様に訴える。
「こういう関係をずるずる続けるわけにはいかない。俺も辛いがお互いのためだ。ありがとう」
勇者様がさわやかな笑顔で手を振り別れを告げてくる。
「ちょ、ちょっと! こういう関係ってどういう関係よ!?」
「身体だけの関係のことだが?」
は? 何を言っているのだろうか? 信じられない。サイテーな勇者様だ。
しかしこんな酷いヤリチン男なのに、本人を目の前にすると恰好良いと思えてしまう。さっきまでの怒りはどこへやら。むしろ胸が高鳴っている。夜を共にしたからだろうか。
だめだだめだ。正気に戻れ。
「それだけの関係になったつもりなんてないわよ」
知らない間にそんな関係になってしまっていたようだ。どうやら都合のいい女になっていた。これを機に自分の行動を改めないといけないと心に誓う。
「君が心配をしてくれているのはわかる。それは素直に感謝しよう。ありがとう。しかし俺はこの世界では勇者という役割があるらしい。だからやるだけのことはやろうとおもう。いや、やらなければならない。君を巻き込むことはできない。優しい君を俺は忘れない。さようなら。また逢う日まで」
「え、え、え、待って待って。何それ?」
何かよくわからないけれど語っている。勇者様がなんか語っている。
「別れはいつでも悲しいものだ。しかしその別れを積んで成長するものだ。ありがとう。君のおかげで成長できた」
勇者様がしみじみ言っている。
「おいおいおいおい、何良い話っぽくしているのよ」
なかなかのくず男っぽい勇者様だ。
しかし勇者には変わりない。ここで引くわけにはいかない。レスティは続ける。
「まあ冷静に話し合いましょうよ、勇者様。転移されたばかりでしょ? 行く当てはあるの? お金だって持っていないんじゃない? 私はこう見えて一応、上流階級なのよ。だから勇者様一人くらいは養っていけるわ」
一度感情を抑え、冷静に話をする。
「それは魅力的な提案だが、何とかお金は微量だがある。そして泊まるところも行き当たりばったりではあったけど、困ることなく見つけられている」
昨日言っていたことと違っている。どういう事だろうか。
「ちょっと待ってくれる? 確認したいんだけど」
「なんだい?」
「あの、昨日は行くところがないって言っていなかった? だから私の家に招待したんだけど」
「え、あ、うん? あれ? そうだったっけ?」
目が泳ぎ出す勇者様。
「あ、ああ、そうそう。それは前の世界の話だった……。あはは」
「はいはい」
レスティは適当にあしらう。
「詳しく説明してもらえるかしら?」
「え、いや、詳しくも何もないんだけどなぁ……」
しどろもどろする勇者様にいざ問い詰めようとしたところに、背後から大きな声と共に女が現れた。