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6

 ぶち。ぶちぶちぶち。


 何かが破ける音。俺と立川は卵の方を見た。


 ぶちちちちぶち。


 間違いなく。卵からその音がしていた。


 ぶち。ぶちちち。ぶち。


 膜に亀裂が生じ始めていた。亀裂の隙間からとろりと透明の液体が零れ落ちた。


 ぶちちちちちちちちちちちち。


 やがて亀裂が穴となり、その隙間から指が覗いた。自らの力で膜を破ろうとしている。

 自然と俺と立川は身を寄せ合っていた。膜はどんどんと破れ、右腕、左腕がずるりと出てくる。形状、肌の色はどこから見ても人間のそれだった。

 そして次に頭部がぬるりと膜の外へと出てきた。既に毛髪はある程度生えそろっていた。粘液にまみれながら、膜を突き破り、やがてそれは完全に卵から出てきた。


 二本の足でその場に立つそれは、一見すれば小学生のような幼い見た目の男の子だった。ただ異様な点が二つあった。

 一つは両性具有である事。そしてもう一つは背中から生えた銀色の翼。

 その姿は確かに、いつぞや三田という医師が表現したように、『極めて形状は人間に近いが、人間と断定する事は出来ない』存在だった。


 彼は俺をじっと見つめた。しばらく視線があった後、今度は立川の方を見た。真顔でじっと彼女の顔を見つめた。


「オカアザン」


 ギザギザとした、壊れたラジオから出たような不快な音だった。だが確かにそれは目の前にいる彼から発せられた。立川の方を見ると、唖然とした顔で彼を見つめ、やがてボロボロと涙を流し始めた。


「ごめん……ごめん、なさい」


 言いながら彼女は顔を伏せた。

 

 ばさっ。


 彼が大きく背中の翼を広げた。と思った次の瞬間、勢いよく上に飛び天井を突き破った。破れた天井の穴から、月が灯る夜空へ颯爽と飛び立つ彼の姿が見えた。


「なんだったんだ、あれは」


 横で立川は泣き続けていた。あまりの事で思考が追い付かなかった。

 彼は飛び立ってしまった。無事に成長し、外の世界へと飛び立った。

 これで良かったのだろうか。

 途端に今までの全てが夢幻のように感じられたが、床を濡らす粘液と残った膜が、全て現実だった事を物語っていた。


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