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「はい、力んでー」


 分娩台の上に寝そべる私に向かって助産師達の声が飛ぶ。呼びかけられる度に、何故私は力まないといけないのか、何に対して頑張らないといけないのか、こんな状況になった今尚まだ整理のつかない気持ちのままただただ身体に力を入れた。


 痛みが走る。ものすごく痛い。だがおそらく本物ならばもっと痛いのだろう。鼻から西瓜が出る程の痛みだと聞いていたが、私が今感じている痛みはそれと比べればせいぜい鼻からじゃがいも程度だ。決して絶えられないレベルでもなんでもない。


 そして何度かめの力みの瞬間、お腹の中からずるりと今までお腹の中にいたものが出ていく感覚がした。


「え……」


 私は聞き逃さなかった。瞬間発せられたその場にいた助産師の困惑の声。いや、もっと酷い。今のは悲鳴だ。私の中から出てきたモノに対しての恐怖だ。


「産まれたよ」


 三田先生が私に呼びかけた。

 私の身体をずっと見てくれた先生だが、決して親身なタイプではなかった。だが、目の前の事実と私という患者に対して事務的に接する事に徹してくれた彼女の応対は、私にとってはありがたかった。誰もこんなモノを抱えた私の気持ちなど、分かるはずもないのだから。


「一応、見てあげて」


 患者に向かって普通はありえない物言いだ。だが私は不快には思わない。身体を起こし、それを見た。


 ――なんだ、これ。


 ダチョウの卵をテレビで見た事がある。大きさはその程度。だがそれを覆っているのは殻ではなくぶよぶよとした濃い橙色の膜。

 これが、私の中にいたモノ。


 私の中から出てきたのは、何かの卵だった。


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