絶望……そして希望7
「……一国のお偉いさんがそういうことを言っても良いんでしょうか?」
しばらくの沈黙のあと、やはりというかなんというか優子先生が一番最初に発言した。
「そういうことってどういうことかしら?脅しとかのことかしら?」
「はい。確かにあなたの言う通り今の私たちはあなたに従うほかありません。しかし、納得を一切してない上で私たちを働かせてもあなたの思ったような成果がはたして得られるのでしょうか?」
「この中で唯一の大人なだけあって非常に良いことを聞くのね。もちろんそのことに関しては考えてあるの。」
くすくすと少し嬉しそうに笑いながらメイビスは少し距離をとった。
そして、バッと左右に大きく両手を広げて次の言葉を言い放つ。
「あなた方がここで暮らすこと、それはこの国でかなりの地位に着くこととなります。それはどういうことか分かりますか?」
「……裕福な暮らしが出来るということですか?」
「えぇ、あなた方は何不自由なく全てのサポートを受けられます。それどころかクレアリーナ王国の国民全てが低脳で醜いあなた方を敬い、跪くことでしょう。」
若干の毒を吐きつつもメイビスは先ほどまでとは違う、私たちが最初に見た雰囲気に戻って話をし始めていた。
「もちろん、それはあくまでも魔のつく者と戦う勇者であるからこそです。つまり、その及第点に満たない者。周りについていけなくなった者。その方は非常に申し訳ないのですが、この国から追放されます。」
「い…一丁前に飴と鞭のつもりですか!!?」
優子先生が珍しく取り乱していた。
「まあそんなところです。あなた方はここで何不自由なく暮らすことは可能です。しかし、役に立たないなら切られる。それならもっと自分は頑張らなきゃ、強くならなきゃ……そう思うのが自然ではありませんか?」
「そんな……そんなことで前の世界への未練が……」
「そんなに"前世"が不安ですか?」
「え?」
「だってそうじゃありませんか?あなた方は向こうの世界で消えたんですよ?今頃向こうでは40人が突如失踪!なんて言われているはずです。でもそれだけですよね?」
また不敵に笑みを浮かべながらメイビスは手を下ろして真っ直ぐに優子先生を見つめる。
「この世界だって1日に何人もの人が亡くなりますし居なくなります。あなた方の世界でもそうだったはずです。突然の不慮の事故で何十人がその世界から"いなくなってしまう"ことも時にはあるんじゃないでしょうか?」
「そ、それは……。」
「そうですね。そうなる"運命"であって死んでしまったのだから仕方がない。次からはそうならないようにその人を供養して次に生かそう。そういう風に世の中は成長するんじゃないんですか?」
「……。」
優子先生は何も言い返せない。
ただ悔しそうに唇を噛んでいるだけだ。
「つまりあなた方は全員"不慮の事故"で死にました。これからはこの世界で生きていきましょう!ということです。あなた方はまだ生きているし死んでないのだから仕方なくない、という言い訳も捨て去りましょう。向こうの世界のあなた方は私に殺されたのです。」
「そんな理不尽って…」
「ないと思いますか?」
「……っ!」
「あなた方はお若い人が多いのであんまり理解出来ないかもしれませんが、理不尽に命を奪われることなんて日常茶飯事ではありませんか?不慮の事故で死んだ者がいくら元の世界を見たって虚しいとは思いませんか?何の影響もないんですよ?」
「……。」
確かにそうなのかもしれない。
私には理解できる。
命を奪われるまではいかないにせよ、世の中の理不尽さは嫌というほど受けてきた。
優子先生にも多少なりとも経験はあるのだろう。
現実がいかに理不尽かを。
だから言い返せないんだろう。
「それにですよ?本来であれば死んだあと幸せに過ごせるかどうかなんて分からないんですよ?なのにあなた方は最初から裕福な生活が頑張っている間は保証されている上に才能があることも確定しているんですよ?むしろこんなにもラッキーなことってあるんですか?って私は言いたいですけどね。」
「それはあなたがこういう状況になったことがないからでしょう!!あなたには私たちの……いえ私の気持ちなんて……」
「わかりませんよ?」
「うっ……!」
「え?他人の気持ちを分かる人なんているんですか?逆に聞いてみたいですよ?この人の気持ちがよく分かる、なんてわかった気でいるだけにすぎませんよ?その人と全く同じ人生、同じ体験をしてきてないのに分かるわけないじゃないですか?」
正論……なのか?
正直私には分からなかった。
「だってあなた方だってわたくしのことを気持ちが分かるはずありませんし、わたくしは理解して欲しいとも思いません。人類の危機?王国の危機?もちろんそうです。だからあなた方を戦略の補強として召喚したのです。で、あなた方はそれを説明して悲しみますか?形だけの同情しか出来なくないですか?」
「……あなたは…」
「分かってもらおうとしてないから伝わらないとか言いたいんですか?」
「っ!」
「わたくしの異世界召喚これで何回目だと思います?色んなアプローチだって試しました。それで?結果は?何も変わらないですし、何人もの犠牲を出してきました。どうして力を持っているのにそれを有意義に使えないんですか?どうして平気で逃げ出すのですか?」
メイビスの顔はいつの間にか少し悲痛な感じになっていた。
「色々とやってる内にわかっちゃったんです。あぁわたくしが甘かった、わたくしがもっと自分の事を優先で考えるべきだったと。」
メイビスはゆっくりと優子先生へと近づいて。
「わたくしは自分本意で考えます。」
語りかけるような口調へと変わった。
「もちろんあなた方も自分本意でいいでしょう。しかしこれだけは覚えておいて下さい。」
ここで少し長めの間をおいて、メイビスは殺気を出しながら。
「私の機嫌を損ねないでね?」
斬りつけるような雰囲気で言い放った。