絶望……そして希望6
「魔のつく者……?それは一体どのような……いえ、そんなことより討伐…?戦えってことですか……?」
恐る恐るといった風に口を開いたのは先生である優子だった。
やはりここは大人として、いや先生として自分が矢面に立つべきと判断したのだろう。
「簡単に言えばそういうことです。因みに拒否権なんてありませんよ?」
ニコニコと話しているようには見えるが、どうもメイビスの様子はどことなく不敵な感じがした。
「えっ……。」
拒否権がない。
その言葉に生徒たちは固まり、先生も怯えたような表情になる。
因みに私は真顔だった。
要するに帰れる方法がないということが事実であるということになった。
最低限これだけ理解すべきだろう。
これを理解した上で自分にとって間違いのない選択をしないと、おそらくだが全て失ってしまうと思われる。
いくら絶望的状況であっても絶望しているだけでは始まらないのだ。
これは私がいじめられている内に見出した一つの価値観であり、光だ。
「そんな顔をされても帰せないんだから仕方ないんです。腹をくくって勇者となるべきですよ?まあ正確に言えば帰せないんじゃなくて、帰さないんですけど。」
メイビスの雰囲気が途中から変わった。
恐らく明らかに戦う意思のない者たちが召喚されたものだから、脅しをかけている……?
とはいえこれはチャンスだ。
「帰さない」ということは逆にいえば私たちに用事がなければ「帰すことも可能」という解釈もできる。
そろそろ自分も喋って情報を仕入れるべきか?と逡巡していると……。
「何でだよ!帰せるんなら帰せよ!!!」
紗斗が激昂していた。
「仰りたいことは理解出来ますよ?でもダメです。あなた方異世界から召喚された者は総じて戦闘能力の高い者たちばかりなのです。どうしてみすみすそれを手放したりするのでしょうか?」
それに対してメイビスは何を言ってるのこのお馬鹿さんは?と言いたげな表情で返す。
馬鹿にされたような態度を取られて紗斗の感情はより一層昂ってしまった。
「てめぇ……!帰さねえと俺たちがてめえを殺してやる!なあ!お前ら!!!」
「そーよそーよ!理不尽にこんなことして!許されると思ってんの!」
「ま、そうだわな。逆にお前がやらなきゃ俺がやるわ。」
「ちょ、ちょっと皆さん…!」
紗斗の号令に立ち上がる生徒たち(私を除く)。
そしてそれを見て慌てふためく優子先生。
私自身確かに理不尽だと感じる。
でも紗斗のやり方では絶対にダメだ。
何故ならそんなことをしたところで帰れる保証なんてないし、何よりこの状況。
召喚者は間違いなくメイビス自身であることは明らか。
召喚者を殺してしまっては帰ることなど不可能だ。
「はぁ……今回の勇者たちも馬鹿な子ばっかりなのね。どうしてかしら?」
「んだよ、怖気付いたかよ!」
「あら、どうして怖気付く必要があるの?だってあなた達はたった今召喚されたばかりの言わばひよっこなのよ?戦い方も知らなければ魔法だって使えない。」
メイビスの雰囲気が更に変わる。
敬語も消えて、その目にはドス黒い何かを感じた。
「まず私と戦ってあなた達が勝てる可能性は万に一つもないのにどうやって怖気付くと言うのかしら?」
笑っている。
しかし、今まで見せていた柔らかい笑顔や作り笑顔とも違う。
にやぁ……と背筋が凍るような笑みだった。」
「まあどうしてもと言うのなら止めはしないわ。異世界召喚が半月先になるだけだもの。面倒だけど。」
「……っ!」
紗斗はメイビスの言葉に何も言い返せなかった。
いや、紗斗の性格を考えたらそれでも殴りかかる場面だろう。
だがメイビスには有無を言わさない雰囲気が出ていた。
そう。強がってはいても所詮はまだ私達は青二才のガキでしかないのもまた事実。
怖い思いはしてきてはいても、本物の本当の恐怖を経験したことがなかった。
さすがの私もメイビスの雰囲気に恐怖以外のモノを感じることが出来なかった。