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ネイフォート王の動機2

「……どんなに言葉を尽くしても、しょせん持つ者と持たざる者でしかありません。立場上、父と接する機会はそれなりにありました。その度に、祖母ともども父に睨まれたものです。ですが最後に会った時の様相は、睨むと言うにはあまりにも異様でした。それ程我々が、いえ、我々魔術師が憎かったのでしょうね」

「殿下……」

「すみません。愚痴をこぼしてしまいました」


事のあらましを語り終えたゼイヴィア殿下は、次いで私情をぽろっとこぼし、暗い顔で俯いた。


ああ、どうしよう。今の殿下に訊くのは憚られるけれど、ある疑問が浮かんでしまった。

話さないわけにもいかず、覚悟を決める。


「……一つ、よろしいでしょうか?」

「どうかしましたか?」

「魔術師を誘拐していたのは、ネイフォート王がこの国に悪感情を抱く前ですよね? 今はもう行なわれていないのでしょうか?」

「いえ、なおも行なわれていたようです。魔術師がいるとネイフォートや帝国が不利ですからね。末端への指示がどうなっていたのかは調査しないとわかりませんが、何か気になることでも?」


殿下に尋ねられ、けれど瞬時に答えることができなくて口を噤む。

正直に話したら殿下は更に苦悩する。とはいえ、殿下はネイフォートの次期国王だ。たとえ衝撃的な内容であったとしても、真実を知るべきだろう。そう判断して話を切り出す。


「実はわたくし、一か月程前に攫われかけたのです」

「なっ!?」

「実行犯はこの国の貴族ですが、ネイフォートも関与していると先日耳にいたしました。一度きちんと実態を調べられた方がよろしいかと存じます」

「ご助言ありがとうございます。ご無事でなによりです。……グレンディア王」


私に安堵の言葉をかけた殿下は、続けて陛下に声をかけた。即座に陛下が頷く。


「うむ、合同で調査した方がよさそうだな。しかし、ネイフォート王は随分と大胆な行動をとったものだ。昔はまともに見えたのだがな」

「それは……」


殿下が何かを言いかけて、途中で言い淀む。けれどすぐに思い直したようで、話しだした。


「……父は魔力のことがなければ真っ当で、民思いの王でした。だからこそ騎士や民からは慕われていて、皆父の負の部分に気付かぬまま指示に従ってしまったのです。しかしそれは、王の正しい在り方ではありません」

「王に、誠に寄る者はいなかったのか? いればネイフォート王ももう少し心穏やかであっただろうに」


陛下の問いに、殿下が静かに頭を振る。


「いたら今回、暴挙に出ることはなかったでしょう。我が国はグレンディアの庇護がなければ成り立たないのですから」

「庇護といっても、たいしたことはできぬぞ」

「そんなことはありません。騎士は無理でも兵なら都合をつけていただけますし、何より魔道具を貸与していただけます」

「兵は傭兵でも構わぬのか?」

「はい。友軍が得られるのです。これ程に心強いものはありません」


殿下が陛下の方を向き、力強く首を縦に振る。


ネイフォートは軍事面に難がある。藁にもすがる思いなのだろう。

ただしグレンディアは、女神の命により戦争を仕掛けることができない。

当然、騎士が国を出て戦うことは認められておらず、魔術師に至っては論外だ。

だが傭兵はその限りではない。だから『いざという時は傭兵を派遣する』という協定が二国間で結ばれている。


「貸与可能な魔道具は防御系のみだが?」

「構いません。他国に、魔道具の種類を知る術はないのです。だからこそ、魔道具を貸し与えられたことが大きな抑止力となる。そうでなければ、ネイフォートという国は疾うに地図上から消え失せていたでしょう。そのくらいグレンディアの庇護は絶大です。一方の我が国は穀物を提供することでしか恩を返せない。だというのに、父はその恩を仇で返すような真似をいたしました。到底許されることではありません。父には責任を取ってもらい、表舞台から去っていただくことにしました。いえ、もうしてもらっておりますね。自国を蔑ろにする王など必要ありませんから」

「!?」


ゼイヴィア殿下の言葉に驚いて目を丸くする。

いくら事情があるにしても、自分の親を排斥するとは思わなかった。

それに今、とても気になる語句があった気がする。

聞きたくはないけれど訊かないわけにもいかない。恐る恐る尋ねてみる。


「あの……『もうしてもらっております』というのは……?」

「以前から、父と父におもねる者を排除すべく計画を立てておりました。今はまだよくても、近い将来国が駄目になると危惧しておりましたので。今回、こちらに来る際に後顧の憂えは断っております。軍も首脳部以外は父に疑問を抱いていたようで、私についてくれました。おかげで物事が円滑に進みました」

「……ということは、ゼイヴィア殿下は既に陛下に?」

「まだ戴冠式を終えておりませんので、正式ではありません。ただ、父は病に倒れたとして既に離宮に閉じ込めております。実質的には王かもしれませんね」


言い終えてにこっと笑う殿下。その姿を見て、ぶるりと体が震えた。国王や騎士どころか殿下も凄かったわ……。


驚愕する私をよそに、殿下たちの会話は続く。


「ならば王子の後ろ盾は私がなろう」

「感謝申し上げます、グレンディア王」

「うむ。さて、ネイフォートが片付いたのであればあとはガルイアだけだが、それもすぐに片付きそうだな。先程クルネールからこちらに連絡があった。マルティナ嬢、マティアスたちがうまくやってくれたぞ。ガルイアの将官を捕らえたそうだ」


私を見て陛下が微笑む。


よかった。お父様たちは無事なのね。でも、どうして陛下が知っているのかしら? 連絡用魔道具を使用したにしても、いささか早いような気がするのよね。


疑問に思って陛下に尋ねてみる。


「陛下、何故クルネールの情報をお持ちなのでしょうか?」

「予備の連絡用魔道具を持ってきていてな。ここに来た際に設置しておいたのだ」

「いつの間に……」


連絡用魔道具はそれ程大きくない。

風の魔法で軽くしてしまえば、たとえ重量があったとしても簡単に持ち運べる。

だからといって本当に持ってくるとは思わなかったけれども。


「グレンディア王。ガルイア軍は撤退したのですか?」

「捕らえた将官を残して、皇子たちは逃げ帰ったようだ」


ゼイヴィア殿下の質問に、陛下が答える。直後、殿下が眉根を寄せた。


「ガルイアの皇子は確か、グレンディア王の甥にあたりますよね?」

「妹がガルイアに嫁いでいてな。皇子を二人産んでいる」

「その皇子が今回、この国を攻めたのですか?」

「いや、側室が産んだ子だ。第二皇子だな」


ガルイア皇帝には三人の子供がいる。

うち第一と第三皇子は皇妃の子でグレンディア王の甥にあたる。

といっても、第一皇子は父親である皇帝に似ていて、グレンディアの色は一切見られない。陛下の甥と言われてもにわかには信じ難いだろう。

一方の第三皇子は病気で伏していることが多いらしく、容姿は謎とされている。帝国では本当に存在するのかと囁かれているようだ。


「……妙だな。第二皇子が戦いに出ようものなら第一皇子――皇太子が黙っていないはず。となると皇太子よりも上の存在……皇帝の決定? だとしたら逆に皇太子が前線にいないとおかしい……」

「? 何故おかしいのでしょうか?」


恐らく独り言なのだろう。殿下が顎に手を添えて、誰ともなしに言う。

その最後の言葉がやけに気になって、無礼を承知で訊いてみた。


「え? ああ、失礼しました。皇太子にしてみれば、相手は自分の母親の出身国です。普通は母親の母国の者たちに好意的に見られるものでしょう? ですから、相手の好意を逆手にとって皇太子が出陣するのです。そうすれば相手が驚き、隙ができますからね。むろん、皇帝も策に気付いているでしょう。だとすれば、皇太子は前線に送られているはずです。立ち位置がどうであれ、皇太子は基本的に皇帝の命に従わざるを得ませんから。ですが、その様子が全くないのです」

「お世継ぎですもの。命を落とされては困る、と周囲が考えたのではないでしょうか?」

「それで第二皇子が武勲を立ててしまったら立場が危うくなってしまいます。ただでさえ母親が違うのです。であれば、無理をしてでも皇太子が前線に立つべきではないでしょうか」


言われてみれば確かにそうだ。

正妃と側室の確執はよく聞く話。わずかでも隙を見せたら一気に引き摺り落とされる。

それを阻止するには、皇子自ら前に出て勲功を立てなければならない。

けれど現状では勲功どころか、皇太子殿下に関する話すら聞こえてこない。何故かしら……。


更に疑問を深めていると、陛下が衝撃的な発言をした。


「皇太子が前線に立つことはできぬよ。現在皇太子は毒におかされ、生死の境をさまよっておるからな」

「毒!? なんてことを」

「どうしてそのよ……っ!」


ゼイヴィア殿下の言葉の途中で、将軍がさっと腕を横に伸ばした。『動かぬように』という、将軍から陛下たちに向けた合図だ。

遅れて、私も人の気配を感じ、扉の方を見た。


扉の両側には騎士が一人ずつ立っている。二人とも将軍の指示に従い、こちらを向いたままだ。

我々が一堂に会しているのを知られたくなかったから、廊下側には誰も配していない。

つまり、廊下側に人の気配があるのは明らかにおかしいのだ。

よしんば部屋の者に用があるとしても、それなら扉はとっくに叩かれているはず。けれどいまだ音がない。ますます怪しい。


再び陛下の方に顔を向けて、陛下を守っている将軍と目を合わせる。

将軍は無言で頷くと、音を立てずに扉に向かって歩いていった。


扉に着くなり将軍は音を立て、勢いよく扉を開ける。そのまま廊下に首だけ出して、右、左と頭を動かした。

直後、何かに気付いたらしい。将軍は扉をゆっくり閉めて、無言のままこちらに戻ってきた。

即刻将軍が陛下に耳打ちをする。途端に陛下の眉根がきゅっと寄った。


「そうか。厄介な者に聞かれてしまったな……。マルティナ嬢、申し訳ない。そなたを巻き込んでしまうやもしれん。全てを話すゆえ、協力してほしい」


陛下に懇願されて誰が否と言えようか。黙って首を縦に振る。

すると、陛下が静かに語りだした。

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