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合流

・残酷なシーンが入っております。なるべくソフトにいたしましたが、苦手の方はご自衛なさいますよう、お願いいたします。

馬を走らせ、スヴェンデラ領でも一際高いスヴェン山の麓に向かう。

先程いたところからそう離れてはいないので、半刻もあれば麓に着くだろう。


私一人だけならばもっと早くに着けただろうが、残念ながら敵兵を連れている。

兵たちには釘を刺したし、殿(しんがり)はヴェルフが担ってくれているので、大幅な遅れがないのが幸いだ。先頭を走る私の負担もいくらか軽い。


とはいえ、ヴェルフ一人に見張りの全てを任せるわけにもいかない。私も目を光らせた方がいいだろう。

そうなると、自然と出せる速度が限られてくる。


思いきり風を切って走れないのがもどかしい。けれど、あと少しの辛抱だ。

先程の場所を離れて既に四半刻以上は経過している。きっとすぐにリディたちの姿が見えてくるに違いない。


読み通り、十分程で白い塊が見えてきた。聖騎士たちが身に纏っている鎧の色だ。

更にティーナを進めると、騎士たちの姿が鮮明になった。

だが、リディが纏っているはずの青いマントが見当たらない。

見る限り負傷者がいる様子はないのだけれど……。不思議に思いながら距離を縮める。

すると人が一人、騎乗してこちらにやってくるのが見えた。


一体誰だろうと思ったのはほんの一瞬。すぐにその人物の髪が赤いことに気付いた。


赤い髪の人間は多分にいる。けれど、微妙に色合いが違うのも知っている。

こちらに向かってくる赤は、私の大好きな赤だ。

嬉しくて、つい心が浮き立ってしまう。


けれど油断は禁物。嬉しさを内に留めて進み、やがて彼と向かい合った。

よく見れば、彼のあとを追うようにほかの騎士たちもこちらにやってきている。


その光景を視界の端に捉えながら、馬を降りる。彼も同様に馬から降りて、私との距離を更に縮めた。


「ルティナ、何故君がここにいるんだ?」


困惑したような顔で彼――リディが言う。

リディの反応はもっともだ。数日前に自分を見送ってくれた相手が戦場にいれば誰でも驚く。


私だってそう。本来なら王都でリディの無事を祈る予定だった。

けれど地下牢でネイフォート兵たちの話を聞き、動かざるを得なくなった。いや、話を聞いて居ても立ってもいられなくなった、と言った方が正しいか。

そうして動き回った結果、相手の企みは阻止できた。間に合って本当によかった。


ともあれ、兵たちから聞いた話をリディに伝えようと口を開く。だが。


「副団長! いくら婚約者の姿が見えたからって、鎧くらいは付けてください!」


私が口を開くよりも早く、リディを追ってきた騎士の一人が彼に追いつき、進言した。


騎士の言葉で初めて気付く。

騎士たちは皆鎧を纏っているのに、リディはプレートはおろかマントすら纏っていない。辛うじてグリーブを付けているのみだ。

王都を出発する際にはきちんとプレートを装着していたはずなのに、何かあったのだろうか?

不思議に思い、「鎧を持ってきてくれ」と近くの騎士に頼み込んでいるリディに問う。


「リディ、あなた何故鎧を身に付けていないの?」

「休憩していたからです」


私の疑問に答えたのはリディではなく、別の人物だった。

聞き覚えのあるその声に反応して目を向ける。視線の先には、馬を引きながらこちらに歩いてくるアマーリエがいた。


「アマリー! よかった、無事だったのね。ごめんなさい、休憩していたところを」

「いいえ、構いません。私たちは先程休憩を終えましたから」

「そうなの?」


アマーリエから視線をずらしてリディを見る。

別にアマーリエを疑っているわけではない。ただ、なんとなく相槌をもらうような軽い気持ちでリディに視線を向けただけ。

直後リディと目が合い、彼が頷いた。


「俺だけが休憩中だったんだ。まあ、いろいろあってな……」


続け様にリディが事の顛末を語る。


かいつまむと、こうだ。

敵の軍が一旦退いて山に籠ったため、リディたちは深追いをせずに団長を待つことにしたらしい。

もちろん警戒は続けていた。だがほかにすることもなかったので、駆けつけたばかりだった第二師団をさきがけに、部隊単位で順次休憩を取っていったとか。まあ鎧は蒸れるし、外していた方が負担は少ないからね。


各部隊が休憩している間、副団長であるリディは周囲を見張っていた。そして、アマーリエ率いる第三部隊の休憩が終わって、今まさにリディが休憩を取り始めたそうだ。

するとすぐに後ろから敵兵が現れたという報告が上がり、リディは慌てて後方を確認したのだと言う。

だが、双眼鏡で一団を見てみれば先頭に私がいる。疑問に思いつつも私がいるからと、第二師団に小康状態の前線を任せて、慌ててこちらに来たらしい。


「そういうことだったのね。でもリディ、油断はだめよ?」

「わかってるさ。今、鎧を持ってきてもらってる。それよりどうして君はここにいる? それに後ろのやつらは……」


後ろの兵はどこからどうみても現在睨み合っているネイフォートの兵たちだ。リディの眉間に皺が寄るのも仕方がない。


「あなたたちが王都を発ってからこっちもいろんなことが起こったのよ。さすがにおかしいと思って調べたら、あなたたちを挟み撃ちにする話を耳にしてしまって……」


王城の牢屋にいた賊――ネイフォート兵の話によれば、リディたちを挟み撃ちにする計画が隣国で立てられていたとか。

といっても、聖騎士団のどの師団が来るかなど細かいことは時が訪れないとわからない。

そのため、とりあえずやってきた騎士たちを挟み撃ちにして可能ならば撃破、無理なら足止めくらいしようと考えていたらしい。


「それで君がここに? じゃあ、さっきの爆発は? スヴェンデラ兵が戦っているのかと思ったが、まさか……」

「私よ。ゆっくりしている暇はなかったから、さっさとかたをつけて無理矢理引っ張ってきたの」

「……うん? なるほど?」


リディが困惑の色を滲ませた顔でこちらを見てくる。

何故敵兵をスヴェンデラ領兵に引き渡さずにつれて歩いているのか、把握しきれていないのだろう。挟撃の話しかしていないので、当然と言えば当然だ。


「まあ……なんにせよ話は団長が来てからだな」

「団長は来ないわよ」

「何故だ? まさか怪我を?」

「いいえ。団長は王都に残ったの。代わりに、将軍がいらっしゃるわ」


言い終えた瞬間、リディの頬がぴくりと動いた。


まただ。リディは将軍の話になると途端に顔を強張らせる。本人でも気付かない程のわずかな強張りだ。父親との関係をかなり拗らせていると見える。

そういえばリディは以前、自分の父親を『侯爵』と呼んでいた。公の場ではないのだから、普通は『父』と呼ぶだろうに。無意識か、あえてか。判断に迷う。


「……話はわかった。来るのは将軍だけか?」

「陛下もすぐにいらっしゃるわ。城は王妃様がお守りになっているから大丈夫よ」


将軍の話はあまりしたくないだろうと考え、さりげなく話題を逸らす。

リディは、一も二もなく乗ってきた。


「王妃陛下が? 王太子殿下もいるだろう?」

「殿下はクルネールに向かわれたわ。私の両親と一緒にね」


ヴェルフの話によると、殿下はグランデダンジョンで指揮をとっている最中に、陛下からの呼び出しを受けて城に戻ったらしい。

お兄様も護衛として常に殿下の側にいたため、殿下と一緒に戻ったと言う。

そして、城でお母様による傭兵の編制作業に遭遇。殿下自らクルネールに行くと言い出した。


だが、陛下がスヴェンデラに向かう以上、殿下を戦地へは送れない。陛下と殿下にもしものことがあった場合、国が混乱に陥ってしまうからだ。

とはいえ、同行するのはお父様たちだ。これ以上安心できる護衛もいない。

結局、王妃様の『わたくしが王都を守りましょう』という言葉が決め手となり、殿下はクルネールに行けることになった。

王妃様は王妃教育以上の学を詰め込まれた方だ。少しの間だけなら問題ないと陛下は判断したのだろう。『そのための王妃陛下』だと陛下も言っていたしね。

宰相は終始反対していたようだけれど、最終的には諦めたらしい。……なんだか申し訳なくなってきた。


恐らく悲愴な表情をしていただろう宰相を思い浮かべ、心の中で謝罪をする。すると、にわかに馬の(いなな)きが聞こえてきた。

すぐさま後ろを見る。予定よりも少し早い到着だ。風の魔法をうまく使いこなせたらしい。


「陛下方がお見えになったようよ。みんなを集めた方がいいわね」


私たちが来た道から、馬が数頭こちらに向かってきている。

白い馬は陛下の愛馬だ。風の魔法のおかげか、馬に疲弊の色は見られない。


確か陛下たちは、私たちから半日遅れて城を発ったはず。随分と差を縮められていたものだ。

まあ陛下たちは私たちとは違い、旅に不慣れな者を同行させたり、敵兵と対峙したりしていない。差が縮まるのも当然か。


「皆、集合だ! 陛下がいらした! 粗相をするんじゃないぞ」


こちらにやってきた騎士たちをリディが呼び寄せて整列させる。

私もネイフォートの兵に馬から降りるよう指示し、少し離れた場所に集めた。

それからヴェルフを兵たちの側に配置する。これで陛下の身も安全なはずだ。


そうこうしている間に陛下たちが到着。聖騎士と同じ鎧を纏った陛下が馬から降りて、私たちの前にやってきた。すぐ側には将軍が控えている。

急いで頭を下げて敬意を示すと、陛下の声が頭上から降ってきた。


「堅苦しい挨拶は必要ない。頭を上げよ。皆、ここまでよく守ってくれた。礼を言う」


あまり格式ばった話し方ではなく、普段とたいして変わらない口調で陛下が言う。

ただし、威厳は保たれたままだ。いくら陛下の口調が気さくといえども、一端の騎士が気安く返答などできるはずもない。頭を上げるのが関の山だ。


頻りに恐縮する騎士たちの代わりに、将軍が統括者として当たり障りのない言葉を返した。なんの問題もない返答だ。

しかし、間が悪すぎた。まさかリディが口を開きかけた瞬間に返すとは……。更に拗れなければいいのだけれど。


内心、はらはらとしながらリディと将軍を交互に見る。

そんな中、不意に後ろから殺気を感じて、咄嗟に振り返ろうとした。だが。


「きゃっ!?」


私が振り返るよりも早く。斜め前方に腕を引っ張られてつんのめった。


「チィッ!!」


後方で、複数の金属がぶつかり合う音がする。それと、リディの切羽詰まった声。

一体どういう状況なの?


一、二歩蹈鞴(たたら)を踏んで転ぶのを回避すると、まずは腕を引っ張った人物に苦情を言おうと勢いよく顔を向ける。


「いきなり引っ張るなんて危ないじゃ、な…………リディ?」


語気を強めて文句を口にするも、途中でリディの様子がおかしいことに気付き、言葉を呑んだ。


いや、おかしいなんてものじゃない。

だってリディのお腹から背中にかけて、一振りの剣が伸びているのだもの。

しかも剣の途中から、ぽたぽたと赤い液体がしたたり落ちている。


その液体がなんなのか気付き、すぐさま剣を握っている人物を確認する。ネイフォートの一隊を纏めていた隊長だ。ヴェルフがほかの兵に気を取られている隙を狙って、行動に出たらしい。


「……あなた」


私と目が合うと隊長の肩がびくりと震えた。


「おまっ……お前がっ! 我が王に盾突くからだっ!」


何を言ってるの? 仕掛けてきたのはそっちじゃない。


そう言おうと思った。

でも言葉にするよりも先に、リディに刺さった剣が力任せに引き抜かれた。


男は剣を抜くなり、怪我していた腕を押さえてよろよろと遠ざかる。

遅れて、リディの体がぐらりと傾いた。

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