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公爵令嬢内報する2

「わたくしは、国に忠誠を誓った魔術師でございます」


陛下の目を見てきっぱりと言う。

すると、陛下がすっと目を細めた。


「ほう。覚悟を決めたか。よいだろう。魔術師マルティナ・レラ・レーネ。グレンディア国王バルドゥイーン・エーリヒ・グレンディアが命じる。味方とともにスヴェンデラに向かい、敵の企みを阻止せよ。ただし、禍根を残す必要はない。殺生は可能な限り避けよ。なお、人選は任せる」

「はっ! 仰せのままに」


さっと立ち上がると、左胸に手を添えて敬礼をする。

その敬礼に応えるように、陛下が一つ頷いた。


「我々も、マルティナ嬢の情報をもとに対策を練ろう」

「すぐに手配いたします」


――コンコン……。


宰相の言葉が終わるか否かのところで、部屋の扉が叩かれた。

すぐに陛下の侍従が動き、扉の脇に控えている騎士に合図をする。

直後、騎士により扉が開かれ、伝令係だと思われる騎士が姿を現した。


「ご報告いたします! 聖騎士団団長が帰城し、陛下への謁見を願い出ております」

「よい、通せ。構わぬな?」

「構いません」


前半は伝令係の者に、後半は私たちに向かって陛下が言う。

その言葉に、間髪を容れずお父様が承諾した。

私とお母様もお父様に倣い、小さく頷く。

団長の同席に否やはない。

聞かれてまずい話は何もないし、団長なら知っていて然るべき話でもある。それに、少し気になることがある。

とはいえ、私が質問していい場面ではない。おとなしく座り直す。


「失礼いたします。聖騎士団団長エリーアス・デュナーがただいま帰城いたしました」


部屋に一歩入るなり、ぴんと背筋を伸ばして団長が挨拶をする。

団長の格好は見送った時とは違い、少し薄汚れていた。一体どうしたのだろうか。


「うむ。早速だが経緯を話すがよい」

「はっ!」


びしっと敬礼をした団長が、事の顛末を語る。

要約するとこうだ。


団長率いる第一師団は順調にスヴェンデラへと向かっていた。

だが、グランデダンジョン付近を通り過ぎて(しばら)く経った頃、一人の騎士がダンジョンの異変を察知。すぐに団長に申し出た。

しかし、第一師団は先陣を切って戦地に赴いている最中。取って返すわけにはいかない。

そこで団長は、副団長であるリディに全権を委ねて、単身でグランデダンジョンに向かったそうだ。

まあ、団長の手綱(さば)きは巧みなことで有名だからね。恐らく団長は、本隊に遅れても追いつくと踏んだのだろう。もしくは、本隊と同時に到着できればいいと考えたか。

何れにしても、リディたちが予定通りスヴェンデラに向かっているのなら一安心だ。団長が単身で帰城したと聞いた時には、心配でならなかったもの。


ともあれ、団長がダンジョンを一望できる平原に着いてすぐ。魔物のスタンピードが発生した。

規模は前回よりも小さいものの、単独で捌ける数ではない。どうしようかと考えあぐねたところで、王太子殿下率いる討伐隊が到着。魔物の殲滅(せんめつ)作業に入った。

といっても、たった一人の魔法で鎮圧となったらしい。元々魔物の数が少なかったのも一因としてあるようだが、それでも私の時同様、物凄い威力の魔法だったと言う。


どう考えてもお兄様の魔法だ。城が揺れる程の爆撃魔法は、師団長には無理だもの。

きっとお兄様のことだから、『爆撃魔法はティナみたいにうまくないんだよなぁ』とか言いながら、見事な魔法を放ったに違いない。その光景がありありと目に浮かぶ。


「……というわけで、あとは殿下が指示なさるとのことです。私は報告も兼ねてこちらに舞い戻りました。このあとすぐに出発いたします」

「いや、団長はここに残れ。将軍を伴うから出るとは言い出せなんだが、聖騎士団団長が王都にいれば問題はなかろう。私が将軍とともにスヴェンデラに向かう。マルティナ嬢の話を聞いて、あやつに直々に問い質さねばならぬと思っていたのだ。グランデダンジョンのかたがついたのならば、すぐに王太子が戻ってこよう。多少城を空けても問題あるまい」


……いや、国主が城を空けちゃだめでしょう!?


突然城を空けると言い出した陛下に、物理的に頭を抱えたくなった。

だが、それは宰相も同じだったようだ。


「へ、陛下……」

「宰相は王妃とともに会議に戻り、先程のマルティナ嬢の話をしてくれ。彼女が会議に出れば対策もしやすくなるだろう。そのための『王妃陛下』だ」

「かしこまりました……」


宰相が陛下を諫めようとしたが、それよりも早く陛下が宰相に指示を出した。

指示を受けた宰相は、渋々といった体で返事をする。ため息を吐いているところを見ると、説得は無理だと判断したのかもしれない。または陛下への嫌みか。


「そんな顔をするな。行くとしてもある程度目処が立ってからだ。マルティナ嬢はいつ出発する?」

「準備が整い次第出発できればとは存じますが、その前に一つ陛下にお願い申し上げたいことがございます」

「言ってみなさい」

「はい。『連絡用魔道具』の使用許可をいただけないでしょうか?」


確実に事を進めるには『連絡用魔道具』が必要だ。


普通、遠く離れた人に連絡をする場合、早馬か手紙を送る必要があり、どちらを選んでも日を要する。

だが『連絡用魔道具』は、一瞬にして相手に手紙を届けることができる。

まあ手紙を書く時間は必要だけれども、裏を返せば専用の道具で手紙を書き、専用の装置に載せて魔力を流すだけで済むのだ。これ程便利なものはない。


ただし、この便利な代物を享受するには、受け取る側も専用の台を設置する必要がある。

台は残念なことに非常に値が張り、設置しているのは辺境の各地と大聖堂。それから王城と、隣国のごく一部だけだ。

まして設置基準も厳しいため、たいして普及はしていない。


「どこに連絡をする?」

「殿下にご連絡差し上げたいと存じます」

「それがよいだろうな。よい、許可する」


心当たりがあったようで、陛下が私の目を見て頷いた。とても力強い目だ。


「感謝申し上げます。それでは、準備が整い次第……と申し上げたいところでございますが、全体を見据えて明朝に発ちたいと存じます」

「あいわかった。『連絡用魔道具』については担当の者に連絡しておこう」


陛下が言い終えた途端、側に控えていた侍従が動きだす。

その姿を目の端に捉えながら陛下に礼を述べる。

陛下は私に頷いてから、お父様たちの方を見た。


「して、そなたたちはどうするのだ?」

「たまには妻の実家に顔を出したいと思っております」


ああ、そうか。だからお父様たちは城に上がったのね。陛下の許可を得るために。

陛下もお父様たちの意図に気付いたのだろう。にやりとした笑みを浮かべる。


「ほう。夫婦水入らずの旅行もたまにはよいやもしれぬな。だが、あえて一つ頼まれ事を聞いてもらえぬか?」

「私にできることでしたらなんなりと」

「そう大したことではないのだが、傭兵たちも連れていってほしい。必要なことなどがあれば申し出よ」

「かしこまりました」


お父様が恭しく頭を下げる。

お母様はお父様に倣いはせず、お父様が頭を上げる頃合いで、すっと右手を顔の高さまで上げた。


「陛下、よろしいでしょうか」

「どうしたのだ、夫人?」

「傭兵師団の区画に赴き、傭兵たちの技量を見極めたいと存じます。時間はそれ程かかりません。見極めが終わり次第、出発したく存じます」


なるほど、理解した。お母様は傭兵師団の再編制を行なうつもりね。

目的は……現地到着後に即座に対応ができるように、といったところかしら。傭兵さんたちご愁傷様。

でもまあ、力こそ全ての傭兵たちだ。編制作業が終わったら、お母様の命令に従うようになるだろう。『クルネールの戦乙女』の名は伊達ではないからね。


「将軍、そのように取り計らってもらえるか?」

「はっ!」


将軍は騎士の礼をとったあと、近くに立っていた騎士の一人に目配せをした。直後、騎士が部屋をあとにする。

続いて、お父様たちが席を立った。そこを慌てて呼び止める。


「お父様! どうぞ風の魔法をお使いください。お父様なら一個師団くらいどうとでもなるかと思います。優しく包むようにするのがコツです。あまり強力な風にしますと、地面が抉れて逆に遅くなってしまいますのでお気を付けてくださいね」

「わかった。私たちは一足先に出る。ティナも気を付けていきなさい」

「はい、お父様」


私が頷くや、お父様たちは陛下に挨拶をして足早に去っていった。

その姿を見届けて、私も部屋をあとにする。


明日の朝までにやっておかなければならないことがたくさんある。

まずは殿下に連絡を取ることからだ。


コツコツと音を立てながら『連絡用魔道具』が設置されている部屋へと向かう。

全ては、大切な人たちを守るために。

私の思いはただそれだけだった。

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