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公爵令嬢と非公式の謁見1

邸に戻ってから三日、私はお父様とともに王城に来ていた。

勿論陛下に謁見(えっけん)するためだ。


当初、手続きなどで謁見は早くても一週間くらいかかるものだと思っていた。お父様もそう言っていたし。

けれど私が帰宅した当日。侯爵が帰ったあとにお父様が城に赴き、陛下との面会の手続きをしていると、陛下直々に「二日後なら少し空いている」と告げられたそうだ。

これには、さすがのお父様も驚いたと言っていた。


そんなこんなで私はよそ行きの上質なドレスに身を包み、こうして城の廊下をここの侍従に案内されて歩いている。

今回の謁見は謝罪が目的なので、ドレスは肌の露出を抑えた清楚なものにした。

色は深い緑で、私にしてはかなり珍しい色合いだ。というのも、六歳の時に婚約してから今までの間、公の場では殿下の瞳の色しか纏ってこなかったからだ。

そのためこの色に多少の違和感はあるけれど、お父様譲りのプラチナブロンドによく映えるので割合気に入っている。


そう、私は現在元の髪色で行動していた。

とは言っても地毛はまだまだ短いため、自分の髪で作ったかつらを被っているけれど。


私の専属侍女のイルマは、それはもう器用に私の髪を結い上げてくれた。

結構複雑な髪型なので大まかな説明しかできないのがもどかしいが、とにかく編んだり(ねじ)じったりして最後に髪留めで留めてある。

凝った髪型にしては簡素な髪留めだが、陛下にお会いするに相応しい品格があればほかに望むべくもない。


「こちらでございます」


目的の部屋に着いたらしく、侍従が部屋の扉を開けた。

そこは応接室のようで、立派なテーブルセットが(しつら)えられており、周囲には調度品の載った棚が置かれてある。


その中にお父様と二人、なんの迷いもなく入っていく。

すかさず侍従がソファにかけて待つよう言い残し、部屋を去っていった。


そこから間を置かずして侍女が来て、お茶とお菓子を置いてすぐに去る。

そのどちらにも手を付けずに待つことしばし。

廊下を歩く誰かの足音がぴたりとやんだかと思えば、誰かの声がして部屋の扉が開かれた。


瞬時に公爵令嬢の顔になる。

長い間『素』の自分でいたからきちんと振舞えるか多少不安はあったものの、この調子だと大丈夫そうだ。


「すまぬ、遅くなった」


その声を受けて即座に立ち上がり、お父様とともに頭を下げる。


「あー、よいよい。せっかく非公式の場にしたのだ。そうかしこまるな」

「そうですよ。久しぶりに会ったのです。マルティナさん。わたくしにお顔を見せてちょうだいな」

「!?」


不意に女性の声がして慌てて頭を上げる。そこには穏やかに微笑む国王、王妃両陛下の姿があった。

すぐさま体の末端にまで意識を向けて、淑女の礼をする。それに合わせてお父様が口を開いた。


「本日は我が娘のために、両陛下の貴重なお時間を賜りまして誠にありがとうございます」

「だからやめろというに……本当にお前はこういう場面だと頭が固くなるな」

「お褒めの言葉と受け取らせていただきましょう」

「褒めてないぞ? まったく……。マルティナ嬢、久しいな」


お父様と話しても埒が明かないと思ったのか、陛下が私に話しかけてきた。


「国王陛下、王妃陛下久方ぶりでございます。わたくしのためにこのような場を設けていただきましたこと、感謝申し上げます。そして、国や王家の方々に多大なご迷惑をおかけいたしましたこと、 心からお詫び申し上げます」

「……マティアス。お前の所為だぞ。せっかくの場が堅苦しくなってしまったではないか」


陛下の少し呆れを含んだ声が耳に届く。だからといって、これだけは譲れない。家出した際にきちんと謝罪をすると決めていたのだから。


「謝罪の場なのですから当然のことです。それくらいのことを娘はしでかしましたので」

「それを言うのならこちらもだ。……マルティナ嬢、面を起こしなさい。私たちもそなたに謝罪せねばならぬ」


言われるままに姿勢を直す。

直後席に着くように促されお父様と一緒に腰を下ろすと、陛下と王妃様が私たちの向かい側に座った。


「本当ならここに息子を連れてくるべきなのだろうが、まずは我々だけで会っておきたくてな。……マルティナ嬢。息子がそなたに行なったことは到底許されることではない。非公式の場で申し訳ないが、あの子の親として謝罪させていただきたい。申し訳なかった」


そこまで言うと、陛下と王妃様がすっと頭を下げてきた。それに目を丸くする。


「へっ、陛下!? 王妃様も! どうかみぐしをお上げください! わたくしのような者になさっては……」

「陛下、娘が困っております」

「ああ、すまぬ。困らせるつもりはなかったのだが……」


お父様が見兼ねて声をかけると、陛下と王妃様は元の姿勢に戻った。


「それにしても、本当に夫人にそっくりだ。我が王家の者たちはそなたに不自由を強いたばかりか、姿をも偽らせていたのだな。なんと詫びればよいか……」

「恐れ多いことにございます。わたくしが至らぬばかりに……」

「いいや、あやつが……いや、違うな。徐々に変わっていくそなたに気付くことのできなかった我々が悪かったのだ」


申し訳なさそうな表情を浮かべ、陛下が軽く頭を左右に振る。

そんな陛下になんと声をかけたらよいのかわからず、まごついているうちに再び陛下が口を開いた。


「できることならば再度息子と婚約して国母となってほしい。が、厚かましい話だな」

「それ以前に、未来永劫無理な話でございます」


陛下の言葉が終わるか否かのところで、お父様が口を出してきた。

しかも陛下の願いを拒む形で、だ。


「何故、そう言いきる?」

「娘が先日婚約したゆえにございます。既に手続きは終了しており、覆すことはできません。例の件はこちらが先に調いましたな」


……? 『例の件』ってなんのことかしら?


疑問に思いお父様を見る。視界に入った王妃様も不思議そうな表情だ。

けれど、陛下は違った。


「まさか……マルティナ嬢にそのような男の影はないと聞いたぞ?」

「私もそれとなく相手の存在を隠しておりましたし、娘も影を撒くのは得意な方でして。抑々(そもそも)、確とした勝算がなければ取り決めなどいたしませんよ。ましてやこのような娘の将来を左右する取り決めなど」


言いながらお父様は懐からあるものを取り出し、テーブルの上に置いた。上質そうな一枚の紙だ。

その紙をお父様の許可を得て手にする。次いで紙に目を落とし、目を見張った。


「これ……。どういうことですか、お父様」


勢いよく頭を上げてお父様を見る。

視界の端では、陛下がお父様と同じ物だろう紙を王妃様に渡していた。


「どういうことも何も、そのままだよ。お前と殿下の婚約を白紙に戻す際に陛下と交わしたものだ」

「交わしたってそんな簡単におっしゃいますけど、これ『魔法の誓約書』ですよ?」


そう、この紙はただの紙ではなく、以前魔法師団の師団長が私と交わしてもいいと言っていた『魔法の誓約書』だった。

あの時は結局交わさず、思わぬ事態に発展したが、この誓約書はきちんと正式に交わされたものである。


ただしあの時とは違い、私が今手にしているものは誓約書ではなく契約書の形式だ。

ならば魔法の契約書と呼びそうなものだが、実際のところそれ専用の紙に認めさえすれば、交わすのは誓約でも契約でもどちらでも構わない。単に呼び名が『魔法の誓約書』なだけだ。


「そうだね。陛下とそれぞれ条件を出し合って、落としどころを見つけたうえで作成されたものだ。こちらに有利な点もあるし、逆に不利な点もある」

「そんな……」


お父様の言葉に、改めて契約内容を確認する。


要約すると、中身はこうだ。

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