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背中を護る者1

会いたくて、けれどそれと同じくらい会いたくなかった、大好きな人の声。

その声が聞こえて私はただただ困惑していた。


「リ……ディ?う、嘘……どうして……」


彼がここにいるわけがない。だって、私がいなくなったことに気付くはずがないもの。それなのに……。

……ううん、違う。たった一人だけ、彼に私のことを伝えられる人物がいる。そう、エミーリエだ。


その結論に達すると、胸がぎゅっと締め付けられた。

つらい、苦しい。押し寄せてくる思いに息が詰まりそうになる。


そんな私の思いに気付くはずもないリオンが、泣きたくなる程優しい声音で「ルティナ」と私の名を呼ぶ。

その一言で私の心は一気に喜びに満たされる。なんて単純なのだろう。


「今助けるからもう少しだけ我慢してくれ」

「でも、リディ」

「大丈夫だ、このぐらいどうとでもなる」


彼が単独で乗り込んできたのは明らかだ。

だからこそ、複数人を同時に相手にして大丈夫かと不安になったのだが、リオンはそんな私の不安をよそに、にかっと笑った。

その顔を見て私の顔が自然と綻ぶ。眠気と怠さが少しだけ解消された気がした。


「ふ、ふざけるな!誰だお前は!!」


私たちが勝手に話を進めたのが腹立たしかったのか、グラティア卿が声を上げて私たちの間に割り込んできた。

ああ、もういいところだったのに……!


「あ? 何を言っている。それはこっちのセリフだ。お前ら、ルティナを攫ってただで済むと思うなよ?」


……あれ?何だかリオンの声が幾分低くなったような?

それに、彼の殺気がここまで届いてきているんだけど??


「ひっ!?」

「落ち着け、ヨアヒム。おい、お前ら出番だ!全員で侵入者の相手をしろ!」


小さな悲鳴を上げるイーデ男爵をグラティア卿が宥めると、すぐさま大声で誰かに指示を飛ばした。

直後、どこからともなくならず者たちがわらわらと姿を現す。その数、二十人弱。


(ちょっと、これやばくない!?)


もう少しいるのだろうなとは思っていたが、それ以上にならず者がいて吃驚した。

いくらリオンが強いからと言っても、二十人近くを相手にして無事でいられるはずがない。

私も加勢できれば何とかなるだろうに、手足が縛られていて動くことすらままならず、それがまた歯がゆくてならない。



そうこうしているうちに、ならず者たちが得物を手にしながらリオンを囲み、一斉に攻撃し始めた。

それをリオンは無難に躱していく。


とは言え、多勢に無勢だ。

現在リオンは、できるだけ堅実にならず者たちの相手をしているようだが、向こうもそこそこの強さのようで致命傷に至るには程遠い。

そればかりか、ならず者たちの攻撃を完全には躱しきれていないようで、武器を交えるごとに彼の服が僅かながらも破れていく。


(……ああ、なんてこと。上質なシャツなのに。私が弁償したら聖騎士団で貯めたお金が飛んでいきそうだわ……。あら?でも、私のお給金はそんなに安くもないわね)


……って違う、そうじゃない。ついどうでもいいことを考えてしまった。

平民の出が多い聖騎士団の騎士たちとともにいたためか、私の感覚は庶民のそれに近くなっていたようだ。


因みに、リオンの服装は午前中に会った時の服装ではなかった。

と言っても、聖騎士姿でも、ギルドにいる時の姿でもない。ゆったりとしたシャツにスラックスといったラフな出で立ちである。

多分、侯爵邸で寛いでいるところに声がかかったのだろう。

それがとても心苦しく、こんな状況だというのに『攫われてしまってごめんなさい』と心の中でリオンに謝罪をしてしまった。


ともあれ。


意識を現実に引き戻してリオンを見ると、彼は今も大勢のならず者たちを相手に手堅く戦っていた。

だが、それもしまいには面倒になったのだろう。


「あー、かったりぃ!強化!」


そう言っていつものように身体強化の魔法をかけようとした。しかし――


「なっ!?」


魔法は発動せず、代わりにリオンの目が驚愕だ、と言わんばかりに見開いた。

当然の帰結だ。何せここは魔法が使えないのだから。

そしてそれは、既に私が立証していた。けれども、リオンには伝えていない。


この男たちの前でそれを伝えるのは、私がいろいろ試みたと告げるようなもの。

それは、私が逃げる努力をしている、と彼らに伝えていることにほかならない。

折角私への警戒が薄れているというのに、再び警戒されては困る。もし警戒されたらリオンの足を引っ張りかねないし、逃げられるものも逃げられなくなる。


それでも、リオンにはちゃんと伝えてやるべきだったと猛省した。

敵の数が多いので、少しの油断が命取りになってしまうからだ。

ただ、幸いにもリオンは無傷だ。今それを伝えてもさして問題はないだろう。


「リ……」

「ははっ!残念だったな!ここでは魔法が使えないんだよ!」

「……成程、そういうことか」


私がリオンの名を呼ぼうとしたら、静観していたグラティア卿が嘲りの色を顔に滲ませながら、私よりも先に口を開いた。

その光景を目の当たりにし、思わず呆れた目をグラティア卿に向ける。

だって自ら手の内を明かすなんて、愚か者としか言いようがない。彼の頭の中では馬と鹿が仲良く走り回っているのだろうか?理解に苦しむ。


とは言え、今はそんなことどうでもいい。

すぐさま気持ちを切り替えて、グラティア卿からリオンに視線を移す。


リオンは先程のグラティア卿の言葉に合点がいったようで、完全に魔法を切り捨てるつもりのようだ。

剣を構え直すと先程とは違って『相手の命を奪うのも厭わない』という確とした意思を前面に出して、斬りかかっていった。


そうしてならず者たちが次々に斬り伏せられていく。

ある程度の実力がある者は無事のようだが、数人程が斬られて倒れていった。


けれど、敵はまだ半数以上がぴんぴんしている。おまけに、


「くそっ!ヨアヒム、手伝え!そこのお前は女を見ておけ」

「「わかりました」」


イーデ男爵とグラティア卿が、剣を鞘から引き抜いてリオンの許へと行ってしまったのだ。


斬り伏せられたのは実力不足の者たちなので、ならず者たちにとってはお荷物がなくなった分、戦いやすい状況となっている。

二人の力量はわからないものの、よっぽどの腕の悪さではない限り、二人は助っ人たり得るだろう。


一方リオンは、補助魔法が何一つ使えない非常に不利な状況だ。

まして戦いが終わるはずもなく、疲労は徐々に溜まってきているはず。恐らく、余裕は然程ないだろう。


それにもかかわらず私は何もできない。ただここで、リオンが戦っている姿を見守っているだけしか……。

せめて魔法が使えたのなら……いや、魔法でなくとも武器さえあれば、眼前の男の相手ぐらい不調の私にだってできるだろうに。


(何か、武器になりそうな物……)


きょろきょろと辺りを見回す。

と言っても目線だけだ。頭を動かしたら何をしようとしているのかがばれてしまう。


ここで一番強いのはこの眼前の男だ。

リオンもこの男が気になって完全には集中できずにいる。

全ては私がお荷物だから……。

だからこそ何か、何か私に戦う術を。彼のお荷物にならないための力を!


「……()っ!!」

「リディ!?」


苦痛の声が微かに聞こえ、瞬時にそちらに視線を向ける。


リオンは私に被害が及ばないように配慮してくれていたようで、私から少し離れた辺りで戦っていた。

普通ならばその距離に加えて暗さもあるため、目を凝らしてもリオンの姿はそこまではっきりとは見えないはずだ。だが、今はうまい具合に月の光が窓から射し込んでいて、遠く離れていてもリオンの様子が見てとれる。

それにより、彼の袖のあたりが色濃く変色しているのがわかった。


(血!?早く武器を!早く、早く……!)


私は回復魔法が使えない。

だからせめて彼の側で助けとなりたい……今すぐ加勢したいのだ。そうでないとリオンがもっと傷ついてしまう。

私は、彼の傷つく姿なんて見たくない。可能ならば率先して守ってあげたい。

その思いから必死に武器となりそうなものを探す。そして――


(……あ、あった!!あれよ、あれさえ手にできれば!)


私の目の前に立ちはだかる監視の男。その後方に、丁度いい長さの鉄の棒切れが落ちていた。グラディウス並みの長さだ。

私の剣に比べてだいぶ短いが、それでも、あの鉄の棒があれば充分に立ち回れる。


但し、それには一つ難点があった。


(ああ、もう!あそこにあるのに!)


鉄の棒は眼前の男の遥か後方に転がっていて、手を伸ばして届く距離ではない。あまつさえ、取りに行こうにも手足が縛られていて身動きが取れないのだ。


本当は、相手を誘導して縄を切らせるつもりだった。けれど口惜しいことに、一番挑発しやすいグラティア卿は現在リオンのところにいる。

眼前の男は口数が少なく任務に忠実そうで、挑発しても乗ってくるとは思えない。完全にお手上げ状態だ。


漸く彼の助けになるだろう得物を見つけたのに、それを手にすることすらできないのがひどくもどかしい。

しかも、先程とは違い目の前の男を牽制して逃げればいいという問題ではなくなったため、結局何もできずにその場に留まっている。そのじれったさといったらない。


(黙って見ているだけだなんて、一体何のために魔法と剣技を磨いてきたの?)


思うように動けない自分に半ば苛立ちつつ、黙ってリオンの戦いを見守る。だが――


「ぐっ!……ちっ」


ならず者の剣がリオンの脇腹を掠めたらしく、くぐもった声がリオンから発せられた。同時に、リオンが剣の掠れたあたりを一瞥し、舌を鳴らす。

それを見て、これでもかと目を見開いた。


「……リディ?」


呆然としながら彼の名を呟く。


しかし次の瞬間。全てを理解し、絶叫した。



「……っ!いやぁぁぁっ!!!!」




――ブツッ!!




(……え?)


取り乱していてもどこか冷静な自分が恨めしい。

悲鳴とともに、衝撃にも満たない微々たる力を足元に感じた私は、絶叫もそこそこに目をぱちりと瞬かせた。


(一体何が起きたというの?今、確かに私は……)


「落ち着け、ルティナ!大丈夫、掠り傷だから!」


リオンの声にはっとする。

そうだ、考えている暇はない。リオンを助ける手立てがついたのだ。ただちに実行しなくては。



リオンの言葉にこくりと頷き返すと、無言のまま目の前の男に視線を遣る。

男はリオンの声に反応し、そちらに目を向けていた。


――今だ!


即座に風を操り(・・・・)、手を縛っている縄をスパッと切る。

直後、するすると縄が解け手()自由になった私は、身を低くしたまま思い切り地面を蹴って、落ちている鉄の棒切れを拾いに向かった。


そう、私は魔法を使った。

何故使えたのかはわからない。

リオンが斬られた際、悲鳴を上げたのと同時に無意識裡に魔法を放っていたらしい。発動した魔法が足元の縄を掠め、縄がブチッと切れたのだ。


……あれ?ということは、魔法が封じられているわけではない?……まあいいわ。とりあえず考えるのはあの棒を手にしてからよ。


「なっ!? 何故縄が…………はっ!」


私を監視している男が驚いて硬直しているうちに、男の脇をすり抜けて鉄の棒へと手を伸ばす。

しかし敵も然る者。男はすぐに我に返ったようで、私を捕まえようとこちらに手を伸ばしてくる。


その手が私の手を掴みそうになった時、私は漸く鉄の棒を拾い上げた。

そのまま勢いを止められずに一回程ぐるんと前転する。それにより、運良く男の手を躱すことができた。


とは言え、それで男が諦めるはずもない。私を捕らえようと再び手を伸ばしてくる。

ゆえにすぐさま体勢を立て直し、鉄の棒を斜め上に向かって振り上げ、男の手を強く殴打した。手応えあり!


「……っ!!」


男は苦悶の表情を浮かべながら、殴られた方の手首をもう片方の手で掴み、必死に痛みを堪えているようだ。

当然だろう。咄嗟なこともあり、手加減などせずに殴ってやったのだから。まあ尤も、咄嗟でなくとも遠慮をする気は端からないが。


そんなことを考えながら鉄の棒を正眼に構え、男の一手に備える。


「このっ!」


痛みの波が引いたのか、男は殴られていない方の手を握りしめ、躊躇うことなく殴りかかってきた。

それをひょいと横にずれて躱し、男の背中目がけて思い切り鉄の棒を振り下ろす。それを男は、体を(よじ)って避けた。


やはりこの男は相当の手練れのようで、一筋縄ではいかない。

新たに気を引き締めて男の様子を窺う。

すると男は体勢を立て直すや、腰に佩いていた剣を鞘から引き抜き、すっとこちらに切っ先を向けて口を開いた。


「悪いが、女だからといって手加減はしねぇぞ」


直後男は、勢いよく斬りかかってきた。

いつもご覧いただきありがとうございます。


以下補足です。

グラディウス50cm~75cm

ロングソード80cm~100cm


マルティナ&ルディの剣はロングソードタイプです。

ただし、女性が手にするのを考慮し軽量化されているため、柄が細身かつ刀身が短めになっております。

一方、落ちていた鉄の棒きれは50cmくらいです。

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