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勝利をもぎ取った第三部隊の三人は警邏という名の出歯亀をする1

公爵令嬢デートをする2(39話)の後に続くノア視点の閑話です。

広場の植え込みからひょこっと顔を出す私……と相棒と隊長の三人。

私たちの視線の先には、今日初めて会ったとは思えないくらい仲良く手を握って歩いている一組の男女がいた。

我らが聖騎士団の副団長と、副団長補佐の少年から紹介された少女である。




私たちは五日程前、副団長が女の子とデートをすると聞いて、真っ先にこの地区の警邏担当を願い出た。こんな面白い機会、逃す手はない。

だがどこで話を聞きつけたのか、同じ第一師団の仲間が『自分たちもそこの警邏をやりたい!』と一斉に声を上げてしまい、その場は一時騒然となった。

結局団長の計らいにより、数人一組のチームを作り、トーナメント形式の集団戦を行って勝ち残った者を担当とする、ということで何とか騒ぎは収束した。


今にして思えば団長も楽しんでいたのかもしれない。

近年稀に見る……というのは大袈裟だが、かなり張り切って仕切っていたのでまず間違いないだろう。


それを証拠に、団長の指揮の下、あれよあれよという間にトーナメントの準備がなされていく。

こういう時の第一師団の結束力は半端ない。

団長の提案から半刻後にはトーナメントが開催されていたのだから、開いた口が塞がらないとは正しくこのことだろう。


トーナメントには当然私とフィンも参加した。何度でも言うがこんな面白い機会を逃すわけがない。

ただ、強い者が多い第一師団の中で私たちが勝ち残れるなどという都合の良い話があるわけもなく、デート当日の警邏担当は半ば諦めていた。


しかし、そこで奇跡が起きる。アマーリエ隊長が私たちをチームに誘ってくれたのだ。

隊長は各師団長の次に強く、次期師団長と言われる程である。

ゆえに隊長と組めなかった者たちは皆恨めしそうに私たちを見ていた。


とは言えど、さすがは第一師団の騎士たちである。

いざ試合が始まるとその顔つきは瞬時に騎士のそれに変わり、素晴らしい剣技を披露していく。

アマーリエ隊長も、私たちの期待に応えるかの如く次々に相手を負かしていった。


なお、私とフィンは負けないように対戦中一生懸命逃げ回った、とだけ言っておこう。


そうして、我々は順調にトーナメントを勝ち続け、見事勝利を収めた。

もしこれが私たちだけだったら一回戦すら勝ち上がれなかっただろう。

それを感謝の意とともに隊長に告げたら、隊長が片目をぱちりと瞑り「あなたたちが私の補佐をしてくれたから勝てたのよ」と言ってくれた。

可愛いを通り越して男前ですね!とは思ったけれど、命が惜しいので口が裂けてもこの言葉は言うまい。


まあ、そんなこんなで現在に至る。






「見た?」

「ああ、見たぜ。くそう、羨ましい!めっちゃ可愛い子じゃん。間近で見てみた……いっ!?いででででっ!」


二人に話しかければ隊長がこちらを向くことなく無言で頷き、フィンが羨ましそうに返事をする。

だが何故かフィンの声は途中で奇妙な色に変わり、即座に切羽詰まったものになった。


不思議に思い彼の方を見れば、アマーリエ隊長が両頬に手を添えてうっとりした表情で去って行く二人を見ており、その彼女の足が思い切りフィンの足を踏み付けていた。

しかも体重が相当かかっているようで、フィンが苦悶の表情を浮かべている。

ただ、踏みつけている当の本人は気付いていないらしく、副団長たちをうっとりと見続けていた。


「はぁ~。可愛いわぁ。ティナ様とっても可愛らしい!二人とも見た!?あの恥じらいだ表情!堪らない!」

アマーリエ隊長はそう言いながら、フィンの背中を力強くバンバンと何度も叩く。

それに合わせてフィンの顔が面白いくらいに歪んだ。


隊長は非力そうに見えてその実かなり膂力(りょりょく)がある。

当たり前だ、剣を握っているのだから。

そして、それで殴られるのだ。フィンは堪ったものではないだろう。


「いてぇ!隊長、足踏んでるし背中痛い!」

「あら、ごめんなさい」

「もー!気を付けてくれよ。んで、隊長。あの女の子知り合いですか?もし良かったら俺にも紹か……、っ!?」


(!?)


再びフィンの語尾が消える。同時にごくり、という微かな音が耳に届いた。

だがそんなことはどうでもいい。

考えることも忘れてその場に佇む。


現在、私もフィンもきっと同じ顔をしているだろう。軽く目を見開いて口をぽかんと開けている、そんな顔だ。

『きっと』としたのは、私が隊長しか見ていなかったからである。


だって仕方がないではないか。

隊長が左の人差し指を唇に添え、少しだけ首を傾げて「秘密ですわ」と言いながら優しく微笑む姿なんて今まで一度も見たことがなかったのだから。

しかも、あどけなさの残る少女がふと垣間見せた大人の表情のなんと美しいことか。

まだ大人になりきれていない、徐々に少女の殻を破ろうとしている、そんな可愛らしい娘が本の僅かに浮かべた(あで)やかな表情。その表情にくらりと傾いたとて、一体誰が私たちを責められようか。

惚れてしまうのも時間の問題かもしれない。


そんな突拍子もないことを考えつつふと隣のフィンを見れば、フィンが右手で目を覆って上を向いていた。その耳は真っ赤である。

軽薄ではあるが実はかなり初心なこの男は、どうやら上司としか思っていなかった年下の少女の意外な一面に、大いに面食らっているようだ。


「あ~、くっそ可愛いっ!やっべぇよ、もうこれアウトだろう。だよなっ!……可愛すぎてツライ」


フィンが一人でぶつぶつ言っている。

同意なんて求めてもいないだろうが、概ね私も同じ意見だ。


一方、隊長は意味がわからないと言わんばかりの表情を浮かべて我々を見ていた。いつもの隊長の姿である。


「何ぶつくさ言っているの?ほら、さっさとしないと見失っちゃうわよ!」


少し焦ったように言う隊長の言葉に目を向けてみれば、副団長たちの姿がかなり小さくなっていた。

よってすぐさま二人の後を追う。


騎士服姿の私たちがこそこそとしている様は怪しさ満点だ。

まあ、怪しすぎて誰も声をかけてくることがなかったので、ある意味順調に事が運んだが。それはさておき。




物陰に隠れつつ二人の後を追って行くと、すぐに市に着いた。

そこで大人三人が隠れられそうなお店を見つけ、身を潜める。

相手は副団長だ。本気で尾行しなければすぐに見つかってしまうだろう。


副団長の動向に注意しつつ、歩く二人を今度は人込みに紛れて窺い見る。

すると、副団長が少女の手を引いて一つのお店に歩いて行った。


彼らが向かったのはそこら辺の店よりも立派な構えの店。何かの専門店のようである。

二人から少し離れているために、何が売られているのかはわからなかったが、少女の方はペンのようなものを手にして満面の笑みを湛えていた。


「ああ、もうティナ様ってばほんと可愛いわ!あれは……花柄の万年筆ね。ティナ様によく似合うわ」

「隊長、あの子が何を持っているのかわかるのか?ってかあの子のこと知ってるみたいだけど、あの子の名前俺たちに言って良かったのか?もし偽名にしてたらどうするんだ?」


フィンが疑問を口にする。それは私も思っていたことだ。


副団長たちの声は私たちの許まで届いておらず、少女が副団長に何と名乗ったのかわからなかった。

にもかかわらず、隊長は迷いなく『ティナ様』と少女の名を口にしたのだ。


だが、もしあの少女が本名を隠したくて別の名を名乗っていたとしたら、その名を呼ぶのは非常にまずいのではなかろうか。


それに副団長のあの様子からして、私たちが少女の名を知っていると副団長に知られたら、次の訓練で八つ当たりされそうで怖い。

その情景を想像したら、副団長がいるわけでもないのに何故か背中の辺りがぞくっとした。


「あら?あなたたちは気付かなかったの?ちゃんと名乗っていらしたでしょう、『ルティナと申します』って。あ、正確には口元がそう動いたのだけれどね。あと、ティナ様の持っている物だけど、ここからはっきりと見えるじゃないの」


隊長が右手を軽く頬に添えて、『どうしてわからないの?』と言いたげに首を傾ける。

そんな隊長の言葉に私とフィンは目を丸くして顔を向かい合わせた。


――なあ、今のわかったか?


フィンが目でそう尋ねてくる。

当然そんなのわかるわけがないので即座に目線で返す。

するとフィンは私の答えを正しく受け取ったのか「だよな……」と小さく呟いた後、隊長の方に顔を向けた。


「隊長、それがわかるのは多分隊長だけだ。普通の人はそこまで目は良くない」

「まあ、そうなの?おかしいわね、あなたの目はどうなってるのかしら……ってあらやだ、あなたの目ってヘルガの海のように綺麗な青碧色なのね。ううん、それよりも透き通っていてとっても美しいわ。ずっと見ていたいくらい神秘的よ」


隊長がフィンの前まで来たかと思うと、顔を突き合わせてフィンの目を見つめる。

さして深い意味はないようだが、侯爵令嬢としてこの距離の近さはどうなのだろう。

まあ、隊長のことだから今は令嬢ではなくて一騎士としての意識の方が強く、遠慮だとか慎みだとかがどこかへ飛んでいるのだと思うが。


「なっ!?たっ、隊長近いっ!近いからっ!!」


隊長からフィンに視線をずらすと、フィンが顔を真っ赤にして隊長の両肩を掴んで引き離そうとしていた。

普段積極的に女性に声をかけている彼とは思えない慌てぶりである。


でもそれは仕方がない。彼は女性に甘い態度を取るが、決して一線を越えるようなことはしない。

逆にこうして積極的に来られると途端に及び腰になるのがフィンである。

恐らく内心は見た目以上に慌てているだろう。


とは言え、私は彼に手を差し伸べるつもりはない。

自分だけ隊長と仲良くしていてずる……、一人だけ良い思いしやが…………。


……くっ、羨ましい。


そんな次第である。察してほしい。


「あ、ごめんなさい。ちょっと近かったわね。嫌だわ、私ったら……」

「ちょっとどころじゃないからなっ!?隊長、それほかのやつにやるなよ?」


フィンが必死で隊長に訴えるが、隊長はあまり意味がわかっていないらしく、小首を傾げて不思議そうな顔をしている。

こういう時に限って純粋培養されたお嬢様が顔を出すとか、フィンは堪ったものではないな。


「ん~……わかったわ?」

「絶対わかってないだろっ!?」


……頑張れ、フィン。


「あーっ!そんなことどうでもいいわ!また二人が移動したわよ」


そう言いながら隊長が側にいたフィンの腕を掴んで歩き出す。

言われたそばからすぐこれだ。

ほんとこの人は……。はあ、困ったお人だ。


苦笑しつつ一足先に行くフィンと隊長の後を追う。

そうして二人に追いつくと、副団長たちを見失わない程度の距離をとりながら、慎重に尾行を続けた。


ブクマや評価、誤字脱字報告などいつもありがとうございます。


今回の話は閑話のため可能ならば一つに纏めようと思ったのですが、気付いたら7000字くらいになってしまいました。それゆえ、均等ではないものの二話に分けました。


以下補足です。

聖騎士団は庶民出身の騎士が多く、彼らと接することの多いアマーリエは自然と庶民的な言動を覚えてしまいました。

よって騎士の意識が強くなると、行動も思考も彼らのように庶民的になります。一部では男らしいとの噂も。

なお、侯爵家に戻るとお嬢様モードに切り替わります。当然マルティナモードも存在します。


※ヘルガの海:グレンディア国の南西に位置する海。

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