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聖騎士団とリオン2

懲罰を科せられるって一体誰が?リオンが?


寝起きで混乱しているのか何が何だかわからない。

混乱したままの頭で彼女に詰め寄る。


「懲罰ってどうして!?」

「あ、そんなに近づいたら眼福……じゃなくて、ちょっと落ち着いてもらえる?」


メイドの言葉にはっとして、元の位置まで戻る。動揺したって始まらない。先ずは彼女の話を聞こう。

心を落ち着けながら彼女を見ると、彼女は口元に片手を添えて顔を背けながらふるふると震えていた。心なしか口角がつり上がっているような……?

やがてそれも落ち着いたのか、真面目な顔で再び私の方を向いた。


「あのね、この話はすぐ公にされるだろうから問題ないとは思うんだけど、ちらっと聞いただけだし正確な情報でもないから聞いても他言無用でお願いね?」

「はい」

「ありがとう、実は……」


彼女の話はこうである。

私の様子をリオンに尋ねられていた彼女は、一度報告をしようと彼の執務室に向かったらしい。

何でも彼は仕事が忙しすぎて執務室を出ることも叶わなかったそうだ。長期間ここを離れていたために仕事が溜まっていたからだとか。


(あー……確かにずっと彼と行動をともにしていたわ、私。その間どんどん溜まっていったというわけね)


そして執務室の前でノックをしようと構えた瞬間、隣の部屋から声がしたらしい。その声の中にはリオンの声も含まれていたようで、彼女は何となく扉に耳をくっつけて、中の声に耳をそばだてたのだとか。

するとそこで『グランデダンジョンに一般人を連れて行ったことについて懲罰を科する』と話していたのを聞いたのだという。


え、でも待って。

それって私が無理なお願いをしたから、彼に懲罰が与えられたということ?私が『ダンジョンに行こう』と食い下がらなかったら彼は懲罰を科せられることもなかったの?私の所為?


馬鹿だ私。ダンジョンのことしか考えていなかった。

嫌な気配だったからそちらに気を取られていたなど言い訳でしかない。

ただでさえお父様との約束を破り、無理をしてリオンに迷惑をかけたのだ。その上更に懲罰も、なんてことになったら私……。

頭の中がぐちゃぐちゃで考えが纏まらない。誰もいなかったら取り乱していただろう。

私はどうしたら…………いや、どうしたらではない。

とにかく正確な情報を知り、どんなに気まずくとも彼に会ってちゃんと謝罪しなければ。


「ほかには?ほかに何か言っていた?どんな懲罰なのかとか」

「え?えっと確か最初は謹慎だって言ってたんだけど……」


『そこまでだ。お前はこれ以上知らなくていい』


「リオン!」

「よぉ。気分はどうだ?」


私たちの会話を遮る声。その方向に顔を向ければ、入り口の辺りにリオンが立っていた。

どうやら私の様子を見にきていたらしい。話に夢中になっていて全然気付かなかった。

断りを入れたリオンが私のところまでくる。

その姿はいつもとは違う洗練されたもので私を戸惑わせた。



リオンは聖騎士の制服を身に纏っていた。

白を基調とした制服で、上着はお尻が隠れるくらいの丈である。だぼだぼとしないようにベルトを締めて、全体をスッキリと見せるデザインだ。

ふち取りや詰襟部分などにある細かい刺繍と、袖の側面に入ったライン。それらは全て聖騎士団の色と称される青色で統一されている。それがまた白地に映えて美しい。

金具の色は銀色。近衛騎士とは正反対だ。


因みに近衛騎士の制服は金具の色が金色で、ラインや刺繍の色は赤である。正に華やかさを重視した色合いと言えよう。

そんな対比のような制服でも、白のスラックスと茶色のブーツだけは全く同じとなっている。



とまあ、彼が普通の制服を身に纏っているのならば今の説明で問題ない。

問題は彼の制服が普通の制服とは少し違うということだ。


彼の制服は余程位が高いのか、徽章(きしょう)が上着に沢山ぶら下がっており、右肩から胸にかけて幾つもの飾緒が付けられていた。

また他の騎士と違い、左肩には綺麗なドレープを描く青色のマントがかけられていた。聖騎士団の団長と同じ恰好だ。


それが何を意味するのか、寝起きの私にだって容易に想像できる。

そして、その彼の経歴に傷をつけるようなことを私がしてしまった。

同じ騎士団と言えど一枚岩とは言い難い。彼の歳であの地位とすれば彼を疎ましく思う者だっているだろう。今回のことでその者たちを勢いづけることになってしまったら……。

そう考えたらとても恐ろしかった。

彼のために私が出来ることなど高が知れている。もう殿下の婚約者ではなく、使えるのは公爵令嬢という肩書だけ。それも軍の重鎮たちに比べれば遥かに弱い肩書だ。

なんて無力なことだろう。


「ルディ?」


リオンが不思議そうに私の顔を覗き込む。そこで一気に思考が引き戻された。


「え?あ、うん、気分はもうすっかりいいよ。君がここに運んで来てくれたんだってね。ありがとう。それであの……」

「気にするな。俺が勝手に決めて勝手に実行したことだ。そこにお前は関係ない」


リオンが私の言いたいことを察知して先回りしてきた。だが私も負けじと食い下がる。


「でも謹慎って」

「一つ言っておくが、俺は謹慎にはなっていないぞ」

「え?」

「なってたら俺がここにいるわけないだろうが」

「そ、それはそうだけど、でもやっぱり僕のせ……」

「それ以上言ったら怒るぞ。この話はもう終わりだ。

 それよりまだ何も食べてないんだろ?用意してもらえ」


もっと訊こうと思ったのに話を途中で遮られてしまった。これ以上は訊くなと言うことか。仕方がない、彼の言葉に従い今は引こう。そう思いリオンの言葉に渋々頷いた。




軽く身支度を済ませ、先程のメイドが用意してくれた食事を摂りながら、向かいの席に座ったリオンと話をする。

そこで忙しいと言っていたリオンが何故ここに来たのか、その理由がわかった。

団長が私に会いたいと言っているのだそうだ。それで私が起きているかどうかリオンが直接見に来たのだという。

その話を聞きながら最後の一口を咀嚼し飲み込む。するとリオンが間髪を容れずに口を開く。


「よし、食べたな。団長のところに行くぞ。……その前に歩けそうか?」

「うん、問題ないよ。歯磨きぐらいはさせてもらいたいけど。ところで話って何?僕の素性だったら黙秘させてもらうからね」

「大丈夫だ。それに関しては既に話がついてる」

「ならいいよ」


リオンの言葉に頷くと急いで歯磨きを済ませてコートを羽織った。


彼に続いて部屋を出る。湾曲する廊下を歩き、すぐに見えた階段を上って再び廊下を進む。そうして歩いているとリオンがとある部屋の前でピタリと止まり、扉をノックした。

すぐに中から応えがあり、リオンとともに中に入る。

部屋の中では聖騎士団の団長が執務机に向かい座っていた。彼の周りには知らない人たちが立っている。


「ルディ、だったな。寝起きに呼び出してすまない。改めて自己紹介しよう。グレンディア国軍聖騎士団団長エリーアス・デュナーだ。今回はグランデダンジョンのスタンピード制圧に多大なる貢献をしてくれたこと、我々聖騎士団一同礼を述べる。君がいなかったら命を落としていた者もいただろう。感謝する」


そう言うなり団長が椅子から立ち上がり、周りにいた人たちとともに頭を下げたので慌てて制止する。


「あ、頭を上げてください。僕はただ大切な人たちを守りたかっただけです。僕も改めて自己紹介を。ルディです、冒険者ギルドに所属しています。

 それであの、不躾な質問で申し訳ないのですが、彼に懲罰を科すという話を耳にしました。本当ですか?」

「おい、ルディ!」


彼を出し抜く形になるが、こうでもしなければきちんと話をしてもらえないだろう。

私を止めようとするリオンを無視して団長の顔をじっと見る。一歩も譲るつもりはない。


「本人から聞いたわけではなさそうだが、まあいい。確かにその話はあった。実際にもう処分を下している」

「それって謹慎じゃ……」

「中途半端に答えても多分君は納得しないだろう。それに無関係ではないし、知っておくべきことかもしれない。

 君の言う通り謹慎の話はあった。彼の経歴上仕方がないことだが、彼を必要以上に疎ましく思う者たちがいてね。上で意見が分かれたらしい。当初は謹慎以上の厳罰を、との意見もあった。

 まあそれは反対意見も多くて、結局それ以上の厳罰はなくなったんだがね。まさかこの短期間に部下たちが嘆願書を持ってくるとは予想だにしなかったから、私も驚いたよ」


ああ、リオンは部下たちに慕われているんだな。そう思うとこんな状況だというのに心がほっこりした。

団長はなおも話を続ける。


「それ以上の厳罰はなくなったが、謹慎の話は生きていた。さてどうするかという時に君の話が浮上してきてね」

「僕の話ですか?」


なぜ自分の話がそんなところで出てきたのだろう。さっぱりわからず小首を傾げる。

それを見た団長がふっと笑う。


「仮に謹慎させた場合、君が目覚めた時に知っている者がいないことになる。我々は君のことを知らないからね。もし君が怒って暴れたりしたら我々には止められない。だから謹慎の話も流れたってわけだ。」

「僕は危険人物じゃないですよ」


僅かに頬を膨らませ抗議する私の頭を、リオンががしがしと撫でてきたので、遠慮なくその手を叩き落とした。

するとリオンがくつくつと楽しそうに笑う。何?頭の螺子が外れた?

訝る私を余所に団長が軽く咳払いをする。慌てて団長の方に向き直ると、団長が再び語り出した。


「実は彼に褒賞を与えるという話があってな。確かに部外者を連れてきたのは命令違反だ。とはいえ、その部外者である君を連れて来なければ我々の中に死者が出ていたはず。そのため彼を英雄として讃える動きがあり、褒賞で懲罰を帳消しにするという案も出された。

 そうすると今度は命令違反に対しての示しがつかなくなる。そこで少し重めの罰を科した上で褒賞を以ってその罰を軽くし、科する懲罰のバランスを取った。実に回りくどいが、上と下の両方に頷いてもらえる落としどころがそこだったってことだな」


本当に回りくどい。皆が皆同じ方向を向いていればそんなこと起こらないのに、そこに感情やら私欲やらが入り混じってくるからややこしくなる。


(本当に困った人たちね)


呆れる気持ちを押し殺し、話を続ける。


「懲罰の内容は何ですか?」

「減俸六か月だ」

「げ、減俸六か月!?リオン大丈夫なの?それで生活できる?」

「大丈夫だ。減俸六か月と言っても痛くも痒くもないからな」

「そうなの?でももし何かあったら僕に言って。少しだけど何とかするし、無理だったら伝手を頼るから」


団長の言葉に驚き、すぐさま隣のリオンに顔を向けて言う。

私だって一応それなりのお金は持っているつもりだし、いざとなったらお父様にお願いする方法も吝かだがある。方法はいくらだってあるので彼が路頭に迷わないように力を尽くしたい。それが私にできる精一杯のことだから。


「まるでそれなりの力があるような言い振りだな」

「団長」

「ああ、そうだったな。君のことを詳しく知りたかったんだがエリオットが頑なにダメだと言い張ってな」

「エリオット?」


目をぱちくりとさせて初めて聞く名をオウム返しに言えば、団長がつい口が滑ったと言いたげな表情を浮かべた。その後すぐに苦笑する。


「そうか、君は別の名で彼を呼んでいたんだったな。済まない、エリオット」

「構わないさ。どうせここに滞在すれば嫌でも俺の正体はわかるんだ」

「エリオットって君の名前なの、リオン?」

「そうだ」


そうか彼のファーストネームはエリオットというのか。でも――


(貴族の子息にそんな名前の人いたかしら?)


記憶を辿るも思い出せない。

少なくともマルティナとして会ったことがないのは確かだ。


ラストネームは何というのだろう。ここまで言っておいて今更嫌とは言わないはずだ。

私はこの際だからと彼のフルネームを訊いてみることにした。

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