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公爵令嬢と魔術師の青年1

新月の夜空は一色に染まっているかと思いきや、星の周りは綺麗な濃紺色で、離れるにつれて濡羽色へと明暗を変化させている。空気は澄んでいて、無数の星が宝石のように光り輝いており、今にも降り注いできそうだ。


そんな宵闇の中を歩いて村に戻ると、もう日付が次の日に変わっており、遠くに見える邸は一部の部屋を残して真っ暗だった。

しかし、明かりのついた部屋はとても明るい。それは、昔とは違って今は光魔法が封じ込められた照明魔道具があるからだ。村長の邸でも、私があてがわれた部屋は勿論の事、廊下などにも取り付けられていた。



邸に着くなり、自警団員たちは中には入らずに、賊たちを離れの地下にある牢屋へと連れて行く。未だに皆夢の中である上に、魔法の効果はもう暫く続くはずなので、然程手間にはならないだろう。

一方、私は邸に入る前に、その場に残って指示を出していた自警団の団長のところに行き、あるお願いをする。団長は少し思案した後、私の願いを聞き入れてくれた。

ここでの用事が済めば、あと第一にやらなくてはならないことは、村長に報告することであろう。私たちは団長に断りを入れると邸に戻った。


先触れでもあったのだろうか。邸に入った途端、待機していた執事に出迎えられて、そのまますぐに村長のいる執務室に通される。

村長は中央の机に座って書類に目を通していたが、扉が閉まるのとほぼ同時に顔を上げて、私たちの方を向いた。そして徐に立ち上がると、感謝の言葉とともに深深とお辞儀をする。

慌てた私は、下がったままの頭を上げてもらおうと声をかけたのだが、村長はそのままお辞儀をし続け、一向になおる気配はない。どうしたものかと困り果ててリオンを見ると、困惑の表情を浮かべているリオンと目が合った。

こうなったら村長の気が済むまでさせてあげるよりほかないようだ。


やがて、村長は気が済んだようで、漸く顔を上げる。

どうやら村長はこの村の代表者としてではなくて、彼個人として厚い謝辞を述べたかったらしい。娘思いの村長ゆえの行動だったようである。



その後、自警団の団長と副団長が来るのを待ってから、作戦が成功したことと、やはり賊だったこと、賊の人数などを報告して、賊たちの対応やこれからのことを話し合う。

そして、賊たちの処遇の話になった時、リオンが突飛なことを言ってその場の者たちを驚かせた。


「私の独断で申し訳ありません。賊たちの処遇についてですが、実は数日前に聖騎士団に連絡をしました。つきましては明日…もう今日ですね、朝に騎士団が到着する予定だそうです。ですので賊たちは領の私兵団ではなく、王都の方へ連れて行かれる予定です」


いつの間にそんな話になっていたのか。そう問えば、リオンは「お前が変装で拗ねている間にな」と苦笑しながら答えた。だが、その目は少々怯えを帯びていた気がする。何に怯えているのだろう?

リオンの提案は、既に聖騎士団が動いているのならば他に選択肢もないだろう、と満場一致で賛成となり、賊たちの処遇が決定した。


次いで自警団の負傷者などの有無、賊の現在の状況等の報告を受ける。

リーダーと呼ばれていた男はもう既に捕まっていたので、あの煙の上っていた場所には残党がいたとしてもそう強い者もいないだろう。そのため私たちが行くことはせずに、自警団の中で残党の討伐隊が編成された。

その際に、村長たちに疲れているだろうから休んでよいと言われたのだが、すっかり眠気がなくなっている上に、下手に寝てしまえば途中で起きられなくなる可能性もある。ゆえに丁重にお断りしておいた。

着替えようかとも思ったのだが、いつ呼び出されるのかもわからなかったので断念し、近くにいたメイドにイルマへの伝言を頼んだ。本当ならば私が直接彼女に会いに行って無事な姿を見せてあげたかったけれど、今は任務中である。彼女には申し訳ないが私用よりもこちらを優先した。




私たちの話し合いが終わった頃、自警団の伝令係の青年が執務室に現れた。どうやら賊の頭目が目を覚ましたらしい。丁度良いので少し話をしようと言うことになり、私とリオンは青年に連れられて離れにある地下牢へと向かった。


地下牢は石で造られており、当然ながら装飾など一切ない無骨な造りだ。階段を一段下りる毎に足音が建物全体に反響する。

牢は何部屋かあったのだが、さすがに20人近くの賊を一人一部屋ずつ入れることはできなかったようで、頭目と魔術師だけは一人一部屋で、あとは数人ずつ一緒に入れられていた。


私たちのお目当ての人物がいるのは一番奥の牢だ。そこまで行くと私たちを案内してくれた青年が、階段の近くまで下がる。私たちの話が終わるのを離れて待つようだ。

牢に視線を戻すと、少しだけ顔を近づけて牢の中を窺う。鉄格子の向こう側にいる男は装備を外されていて、とてもラフな格好だ。私の魔法によってできた裂傷があちこちに見られたが、そこまで深い傷はないようで安心した。

男は床の上に座って目を閉じていたのだが、私たちが来たことに気付くと驚いた表情を浮かべて、重心を後ろへずらす。


「安心しろ、牢の中にまで入らねえよ。こいつも何もしない」

「…それを信じろと?」

「信じる信じないはそっちの勝手だ」


苦笑しながらちらりと私を見て言うリオンに、訝し気な表情で信じられないと告げる男。一体彼らは私を何だと思っているのか。そう思いつつも黙って会話を聞く。


「それで何の用だ?」

「回りくどいのは面倒だ。端的に言う。あんたらはそれなりに訓練された兵士だろう?若しくは騎士か」

「……なんのことだ?」


リオンがすぐに本題に入ると、男は途端に声を低くして警戒し始めた。


そうなのだ。私はリオンと同じような疑問を抱き、実際に型に嵌めて彼らと戦ってみた。結果、彼らは手本通りの動きで戦ってきたのである。

しかし、実際に戦った私がそう感じるのならばわかるが、リオンはただ見ていただけだ。よく気づいたな、と素直に感心する。

以前リオンと手合わせをしたことがあったが、その時の私は彼の剣技に全く歯が立たなかった。尤も、剣技のみでの話だが。


「とぼけても無駄だ。あんなに上品に戦っていれば誰だって気付く。誰の命令だ?」

「言ってる意味がわからないな」

「答える気はない、か。まあいい。時間はたっぷりあるからな」


男が白を切る素振りを見せたので、リオンは話を打ち切ることにしたらしい。確かに彼の頑なな様子を見る限り、彼が白状することは暫くないだろう。幸いこれから先たっぷりと時間はあるわけだし、尋問ならば専門の人たち(聖騎士団)が担ってくれるので、私たちはそちらに丸投げすればいい。


朝には聖騎士団が到着することを伝えると、男は一瞬表情を強張らせながらもすぐに元の表情に戻る。別の牢にいる者たちの表情も窺うが、眠っている者を除けば、見える範囲ではそこまで動揺している者は見受けられなかった。

頭目と少し言葉を交わした後、別の牢の者たちとも話をしてみる。

彼らはさすがに己の首を絞めるような失言はしなかったが、洗練された所作をする者は数名いた。それが確認できれば充分だ。




そろそろ引き上げることとなり、リオンが階段に向かって歩く中、私はある牢の前でぴたりと足を止める。

牢の中を見ると、最初に牢の前を通った時には眠っていた男が、今は目を覚まして座っていた。

彼が入っている牢には他に誰もいない。頭目と同じく一人で入ってもらったのだ。

彼は私に気付くと途端に視線を彷徨わせ、肩を震わせて怯えだす。まったく、誰も彼も失礼な人たちばかりだ。

落ち着かせる意味合いを兼ねて女性の口調で「目が覚めたのね。気分はいかがかしら?」と尋ねれば無言で返される。そう言えば沈黙の魔法をかけたままだった。しかし、今解くと皆で脱走してしまう恐れもあるので、解くのは後からにする。

リオンはと言うと、肩を竦めるとか呆れるとかではなくて、再び死んだ魚のような目でこちらを見ていた。本当に何なのだ。


案内役の青年に頼んで牢の鍵を開けてもらい中に入ると、壁に背を預けて座っている彼と目線を合わせる。


「あなたと話がしたいの。私についてきてくれないかしら?」


そう告げれば、彼は大きく目を見開き、それから力強く頭を縦に振って頷いてくれた。

彼はのそりと立ち上がると私の後をついてくる。案内役の青年は慌てたが、予め隊長からの承諾を得ていることを告げれば、それ以上何も言わなかった。



離れから外に出ると案内役の青年に礼を述べて、リオンと魔術師の青年と3人で邸に向かう。

彼とはいろいろと話をしたいが、まずは二人だけで話がしたかったので、私の部屋に行くことにした。


「さあ、どうぞ。そちらのテーブルでお話をしましょう?

 リオン、僕は彼と二人で話をしたいから君は部屋に戻ってていいよ」

「おい、ルディ」

「何?心配してくれるの?」

「当たり前だろう。相手は魔術師だ。それにお前なんであいつにだけ例の口調なんだよ」

「その方が彼も安心できるでしょ?怯えてたし。それにもし彼が魔法で攻撃してきても僕には敵わないよ。精神異常なんて更に効かない。それでもどうしても心配だって言うなら…イルマ!」


あてがわれていた部屋に魔術師の青年を招き入れると、部屋に設えられたテーブルを示す。青年は抵抗するでもなく素直に示された方へ行き、私もリオンに断りを入れて彼に続こうとした。だが、リオンに肩を掴まれて制される。

仕方がないので、隣の部屋のイルマを呼ぶことにした。イルマとは長い付き合いだ。彼女が聞き耳を立てていることくらいお見通しである。

私の呼びかけに、少々ばつが悪そうな表情でイルマが顔を出す。


「…お呼びですか、ルディ様」

「うん。まずはただいま、イルマ」

「おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」

「心配してくれてありがとう。で、イルマ。大体聞いてただろう?リオンが二人だけじゃ心配なんだって。君も中に入ってくれない?」

「かしこまりました」

「あー、そうじゃねえけど…もういいわ。お前なら問題ないだろうし」

「そう?それじゃまたあとでね、リオン」


イルマを呼び、わざと話を逸らしたら、リオンはそうじゃないと言いつつも渋々了承し、ぶつくさ言いながらも部屋に戻って行った。

とても長くなったので中途半端ですが二つに分けました。

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