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公爵令嬢女装をする

今回も長めです。


「元気そうだね、イルマ。と言っても七日ぶりなだけだけどね」


扉を開けると七日ぶりの私の侍女が姿を現す。

当然ながらお仕着せは着ていない。でも、この部屋に入って来るやすっかり主と侍女の関係に戻ったようで少しこそばゆい。


「なっ!マ……ルディ様!?その髪は一体!」

「本格的に逃げるために切っちゃった」

「切っちゃったってそんな短く……」

「だからこその鬘じゃないか。助かったよ」


私の姿を見るなりイルマはこれでもかと言うくらい目を瞠って、うっかり本名を呼びそうになっていたので目で制した。イルマが驚くことは予想済みだったしその制し方も十分心得ている。

どこに目があるかわからないので本名はよろしくない。

実際、どこからともなく視線を感じるのだ。ここに来てからはないものの、マルティナ呼びはまずい。

これも私がちょっとおかしいからわかる話であって、普通のご子息やご令嬢は視線に気付くこともないだろう。


「それでルディ様は一体何をなさっておいでなのですか?というか何故あの時私にだけでも話しては下さらなかったのですか?皆様とても悲しんでおられます」

「ご、ごめんなさい。その……」

「どうせいつものように後先考えずに動いてしまわれたのでしょう?最近ではそれも見受けられなくなって、漸く落ち着かれたのだと喜んでおりましたのに」

「うっ……」


は、反論ができないし耳が痛すぎる。

消え入りそうな声で謝罪をしたら「ま、いいですけどね」と拗ねられてしまった。これはいけない。早く話題を変えなければ。


内心あわあわとしている私に、イルマが困った子を見るような目で私を見る。


「で、一体何をなさっておられるのですか、ルディ様?」

「そ、そんな畏まった口調で言わないでよ。他の人が居なければティナでいいわ。マルティナはダメだけどね。で、何をしてるのかって話ね。まあ、平たく言っちゃえば囮よ」

「お、囮っ!?なぜティナ様が?危険です!それに公爵令嬢に囮をさせるなんて」

「ふふ、今の私は公爵令嬢じゃなくてただの冒険者ルディなの。女装して囮になることが決定しただけのね」

「女性に女装って……」

「ね、ふふふ、おかしいでしょ?」


本来の口調に戻ると少しホッとする自分がいる。やっぱり長い間性別すらも偽って演じるのは疲れるようだ。誰もいない時は愛称で呼んでもらうことにしよう。

さて、イルマに囮の話をすると私が女装をすることに反対してきた。言いたいことはわかる。だが、正体をばらすわけにはいかないのでやるしかないのだ。



こちらの近況報告が終わったので、次に我が家の方の状況を伺う。上手く収まっているといいなとは思うけれど、当事者の私が逃げ出してしまったし……。

それからお父様の状況も気になる。私がいなくなって倒れていたりしてないよね?そんな私の心配をよそにイルマは表情を変えずに淡々と語る。


「旦那様ですか?私がお暇を頂くときもお元気そうでしたよ。私にお嬢様からの分厚い手紙が届いたことをお知りになり、悲壮感を漂わせてはいらっしゃいましたが。ああ、その際に伝言を仰せつかりました」

「伝言?」

「はい。旦那様のお言葉をそのままお伝えいたしますね。


 『ティナ、私はとても怒っているしそれと同時に悲しい。

 アルベルタは薄々気付いていたようだが、私とルーは寝耳に水だったのだよ。何故私たち家族を頼ってはくれなかった?そんなに頼りなかったのか?

 だが、それはもう過ぎたこと。起きてしまったことは覆せない。ならばこの先どうするのか、もうわかっているのだろう?大体の尻拭いは済ませてあるから少ししたら一度我が家に戻ってきなさい。


 でも、その前に。十一年間よく頑張ったな、ご苦労様。折角だからこれを機にそっちでゆっくりしてから戻っておいで。陛下のことは気にしなくてもいい。お前が戻る頃には噂も収束するだろう。

 本当なら護衛を付けたいところだが、お前のことだからすぐに撒いてしまうだろう。それでは護衛が可哀想そうだ。なので怪我と無理だけはくれぐれもしないように。それだけを守ってくれれば少しくらい目を瞑ろう』


 だそうです」


お父様………。私が言うのもなんですが、私に甘いですよ。『すぐ』ではなくて『ゆっくり』してから戻ってこいだなんて。

まあ、そのおかげで気が楽になったけれど、何から何まで至れり尽くせりで頭が上がらないです。


それにしても……イルマの能力がおかしすぎる。さすがに一息では無理だったが、最後まで噛むこともなく、お父様の口調そのままにスラスラと言いきったのだ。


「イルマ、あなた凄いわね。お父様の言葉、一言一句間違いないの?」

「勿論です。ティナ様のお傍にいるのならばこのくらいはできなくてはなりません」

「私どころか普通に陛下のお役に立てるわよ……。あ、お母様たちの言葉は?なんか言ってなかった?」

「ルートヴィヒ様はお帰りが遅かったのでお会いすることができませんでしたが、奥様ならば言付かっております。


 『身、一つで出て行ったからにはそれなりに強くなって戻ってくると信じています。次の手合わせの時に然程強くなっていなかったら許しませんよ?』


 ………だそうです」


「…………」


どこから突っ込めばよいのやら。お母様の発想が脳き……武人のそれであり、さすがとしか言いようがない。

この話は触れずにスルーが得策かしらね。


「そう言えば先程のお父様の言葉にあった『噂』というのは?」

「あ、忘れてました。ティナ様、婚約ですがなくなりました」

「……は?」

「ですから、王太子殿下との婚約は白紙に戻りました」


イルマの言っていることに思考が追い付かずに聞き直す。婚約の解消が予想よりも早くて少々驚いたみたい。

するとイルマが一から詳しく説明してくれた。


その話によるとエミーリエが暴走したらしい。彼女にお願いした時に、なんとなくそんな気がしたので、穏便にと頼んでおいたのだ。

だが結局は大暴走したようで……。


まあ私としては、私の評価を下げることなく守ってくれたため、彼女に対して物凄く感謝している。

ただ、殿下からしてみれば顔が引き攣りそうな状況だったのではないだろうか。余所行きの張りつけた笑みが崩れたであろう、()のお姿が目に浮かぶ。

そんな殿下への止めの一撃はお父様からの婚約白紙宣言だそうだ。

卒業パーティーの会場で報告されたらしいので、今頃王都中に知れ渡っているとみてまず間違いないだろう。


専ら私よりも殿下の方にダメージが入っているので、そこまで気にする必要はないだろうけれど、今から婚約者を探すのは至難の業そうだ。もう好条件の人は皆婚約済みのはずだから。

となると、帰った後は夜会やお茶会に参加しまくる必要があるのではないだろうか。

そこに思い至り頭を悩ませていると、イルマがいつもの口調で「そうそう、殿下がティナ様を探しておりますよ」と聞きたくなかった情報も齎してくれた。


だが、婚約白紙でもう何の関係もない上に、結局あの令嬢の虚言だということも明るみに出ているので、殿下が私を見つけて何をしようとしているのか疑問である。まさか再び婚約を迫るようなことはないと思うけど。

それに私を探すのは殿下じゃなくてお父様ではないだろうか。イルマがこちらに来る際に居場所を突き止めようと影を放ったはず。だからイルマに遠回りしてきてもらったのだが上手くいっただろうか。


「ところで頼んでおいたものは持ってきてくれた?」

「はい、隣の部屋に置いておりますよ。今持ってきますか?」

「ええ、そうね。決行は明日だからこの後皆にお披露目したいと思っているの。あなたさえ良ければお願いしてもいいかしら?」

「もちろんでございます。私はあなた様の侍女にございます。では、まずは湯あみからいたしましょう。久しぶりで腕がなりますわ」

「……お、お手柔らかにね」



こうして昼前に湯あみの準備を整えてもらい、念入りに髪の色を落とす。すると本来の白金色の髪が顔を覗かせる。バスタブから上がると待ち構えていたイルマに徹底的に磨かれた。

腕がなると言っていたイルマは、一人でもてきぱきと仕事をこなす。髪は丁寧に梳り、公爵家から持ってきた専用のオイルをこれでもかと塗り、肌は何種類ものハーブオイルで隅々までマッサージされた。その後イルマが買い占めて来てくれた染料で髪を琥珀色(ルディ色)に染める。もうそれだけでふらふらだ。

昼食は準備に取り掛かっているからとリオンたちに言伝を頼み、部屋でイルマと摂った。なのでそのまま女装を続けている。だがイルマは手際が良く、さっさと進むのでまだらくな方だ。


「ティナ様、鬘はこの色、ドレスはご指定のあったこちらのドレスでよろしかったですか?」

「髪の色、とても良い色ね。ドレスもこれで間違いないわ。あ、そうそう。鬘で思い出したけど、これ、私の切った髪なの。邸に置いてくるわけにもいかなくて持ってきちゃった。その鬘買ったお店で、鬘を作れないか聞いてもらえないかしら?」

「あああ、ティナ様の御髪が!きっと旦那様がご覧になったら卒倒してしまわれます。

はぁ……かしこまりました。帰りにあのお店に寄って作ってもらいます」


イルマに頼んでおいた鬘は、キラキラ輝く亜麻色の長い髪で、私が使用しても違和感がないだろう。


「こちらですか」と彼女が持ってきたドレスは私が指定したドレスで間違いなかった。

それは四か月程前に、公務で殿下と大聖堂へ訪問した際に仕立てたドレスだ。あの時大聖堂へ行くのだから清純な色を、と、光沢のある少し青みがかった白の訪問着にしたのだが、一度着てしまったら基本二度は着ることが出来ない。なのであとで処分する予定だったのだ。それが今回こんなことではあったが役に立ってよかった。


そうそう、鬘で思い出したので鞄の中から私の切った髪を取り出しイルマにお願いをする。イルマは私の髪を見るなり再び嘆きだしたが、今は作業中だったのですぐに我に返ると髪を受け取り鞄にしまった。


その後イルマが一枚の布を掴み「こちらの布はいかがなさいますか?」と尋ねてきたのでそちらを見れば、彼女の手にあったのは薄い生地のとても長い布だった。これは男装する際に胸を隠すために覆っていた布だ。つまりイルマはこの胸を隠すか否かを尋ねたのだろう。

ならば私の答えは一つだ。口角を上げ、それはそれは様になる笑みを浮かべる。目がつり上がっていて、正に悪役顔と言えるきつい顔の私がこの表情をとれば何か企んでいる、と容易に想像できるだろう。その通りだ。私はリオンに意趣返しをしようと思い至ったのだから。


「うふふ、その布は必要ないわ」

「それではしっかりとコルセットを締め上げなければなりませんね」

「コルセットを締めるのは結構力が必要よ。あなた一人で大丈夫?」

「お忘れですか、ティナ様。いつもティナ様のお支度の殆どはこの私が一人で行ってきたのです」

「ふふ、そうだったわね」


イルマを気遣いちらりと窺うと、彼女は造作もないと力強い返事をしてくれた。

頼もしい返答を受け隣の部屋にいるであろうリオンの方へ視線を向ける。


見ていなさい、リオン。私があなたの好奇心の糧にされたこと、気づいていないとでも思っていて?興味半分で私に変装を押し付けたことを後悔させてあげる。存分に戸惑うがいいわ。


これでもかというくらいにコルセットをきつく締め上げ胸の形を整える。たゆんと揺れる胸は露出するドレスではないので本物だとばれることもないだろう。

それから先程イルマが出してくれたドレスに身を包む。ハイネックのワンピースドレスで首元は同じ生地のリボンを結ぶようになっており、袖はチキンレッグ・スリーブ。足首まで隠れる丈に、襟首と袖口と裾には繊細なレースがあしらわれている。

無駄に良い生地の上に、胸元に施された刺繍が素晴らしいので、見る人が見れば高級品だとわかってしまいそうだが、そこは何とか誤魔化すつもりだ。

ドレスはどれもオーダーメイドなので、サイズが合わなかったらどうしようかと少し心配したが、まだ四か月しか経っていなかったこともあって杞憂に終わった。


その後はイルマが買ってきてくれた鬘を被る。違和感がなく良い色だ。動き回るのでそこはきちんとしてもらわないといけない。

被せた鬘をしっかり地毛に固定し、ちょっとやそっとではずれないようにする。

髪型はハーフアップにして少し複雑に結わえてもらうことにした。

いつもながら素早く丁寧で尚且つとても綺麗だ。


髪が終わると次はいよいよ化粧である。


「ティナ様、化粧はどのようになさいますか?」

「このドレスだし『月の妖精』で行くわ。今回でこの化粧も最後よ。あなたの集大成を見せてちょうだいな」

「わかりました。私の持ち得る全てを込めて『月の妖精』を施させていただきますわ」


最早迷いはなかった。

私が今回『月の妖精』の姿をしようと思った理由の一つは、私自身の中で折り合いをつけるためである。

『月の妖精』の姿も自分なのだと納得したかった。ただそれだけなのだ。


殿下の婚約者となってから、私はずっと作られた顔で社交をしてきた。それが悪いわけでは決してない。

ただその所為で、作られた顔に合わせたイメージが独り歩きをしていき、次第に私らしさが鳴りを潜めてしまったのが問題だったのだ。


私なのに私ではない。その情況は私にとって、とても居心地の悪いものになっていた。

それを殿下に告げようと思ったことも何度かあったものの、告げたことにより何かしらの騒動が起こってしまうかもしれないと考えたら、自分が一生我慢すればいいのでは、と思ってしまった。

加えて、本当の姿を隠し通せば何の問題もない、と考えてしまったこともあり、結局言い出すことが出来なかったのである。

けれど、本来の私はあんなにおとなしくはない。いろいろと我慢の限界だった。


そこにあの騒動だ。十年以上も溜まり続けたいろんなものが一気に噴出して、何もかもがどうでもよくなった。

結果、冷静さを取り戻して頭を抱える羽目になってしまったというわけである。

だが、これは逆に本当の姿に戻る良い機会ではないだろうか。


ならばそれにはまず、私の中であの姿も私なのだと折り合いをつける必要があった。

本当の姿に戻れたとしても蟠りが残っていたら意味がない。あの姿を自分ではないと切って捨てるのは以ての外だ。


矛盾していると思うかもしれないが、今までの努力や培ってきたことは決してあの姿だけのものではない。もとは同じ私なのだ。

でも、理解はできても納得がいかない。

ではどうするか。答えは至って簡単。おとなしい性格に納得がいかないのなら、あの姿で素の私をさらけ出してしまえばいい。そうすれば、あの姿も私なのだと認識され、納得もできるはず。極論ではあるけれど、手っ取り早い方法である。



だが、イルマからの話を聞いた後は少し意味合いが変わった。

婚約が白紙に戻ったことにより心が軽くなって、もう一生する必要がなくなったあの姿に、きちんとお別れがしたくなったのだ。


あの時、そんな気持ちのほかにも、生贄役を引き受ければイルマを呼び寄せることが出来る、と利を考えてしまった。イルマなら詳しい情報を携えて来てくれるだろうと。

表面上「女装は嫌だ」と言いながら内面がこれなのだから、端からリオンに敵うわけがなかったのだ。

でもなんだか―――


「くやしい」

「は?何か言いましたか?」

「何でもないわ」


気が付けばだいぶ耽っていたらしく、イルマが化粧道具を手に取り手際よく化粧を施している最中だった。

白い肌は粉を薄くはたいてより一層白く、バラ色のチークをほんのりと頬に入れる。

睫毛は派手にならない程度にカールをつけ、縁取りを取った目元にナチュラルなアイシャドウをのせると、あんなにつり上がっていた目はあっという間に垂れ下がり、最後に輪郭をとった唇に優しいピンクの口紅を刷いた。


こうして少々髪の様子が違うが、慣れ親しんだいつもの私になる。私であって私ではない、他者から月の妖精のようだと言われる『私』に。


鏡の向こうの私を見る。この顔の私は何もしてはいないのに、今にも涙が出そうなうるうるの目になるのだからとても不思議だ。


「さあ、できましたよ」とイルマが手を差し伸べてくれたので、その手に己の手をのせ立ち上がる。そこをささっとイルマがドレスを直す。

靴はヒールのないものを履き、装飾の類は今回は不要なので髪にすら使用していない。


「いつ見ても素晴らしい出来ね、ありがとう」

「とんでもございません。すぐにティナ様のご用意が整ったことをお伝えしてまいりますね」

「ええ。別の部屋でお披露目をすると伝えてもらえる?私もそちらへ行きますから」

「承知いたしました」


イルマはすぐに部屋を出て皆に知らせに行ってくれた。それから程なくして戻ってくる。昨日と同じ部屋で作戦の調整もすることになったようだ。

全員応接間に入ったようで、執事が私とイルマを迎えに来てくれた。


私を男だと思っているのに、それを気にも留めない紳士な執事に「僭越ながらあなた様をエスコートさせていただきます」と言われて手を引かれ、ゆっくりと中央階段を下りる。目的の部屋はこの階段を下りた先の右手側だ。


「ルディ様、こちらでございます」と執事が応接室の前で立ち止まり言うので、ルディの声音で礼を返す。

すかさずイルマがドレスや髪形など最終チェックを行うと、「ルディ様、私はこちらで控えさせていただきますね」と私の後ろに下がった。

一緒にいてもらっても良かったのだが、本人が固辞するのだから仕方がない。


私の準備が整うのを待ち、執事が中にいるであろう村長とリオンに声をかける。すると村長から応えが返ってきて、執事がドアを開けた。



中の様子は見えない。何故なら私は扉から一歩ずれた場所に立っているからだ。中からも執事の手に添えられた私の手しか見えてはいないであろう。

象牙のように白い緻密なレース編みの手袋を嵌めて、そっと執事の手に添える私の手は、執事に比べて小さくてちゃんと女性のものに見える。


執事が私とは反対側の横に体をずらし、手を前へと静かに差し出した。当然添えている私の手も前方に出され、それに伴い二歩程歩みを進めて部屋の中に入る。

下げていた目線をゆっくりと上げて部屋の中を見ると、村長とリオンは座っていて、リオンに至っては体までこちらに向けていた。

彼は目を瞠り口をぽかんと開けて瞬きもせずにこちらを見つめている。

身動ぎはおろか声すらも出さない彼と目が合い、僅かに首を傾げていつもこの姿をしている時のように優しい笑みを浮かべた。

途端にリオンがびくりと肩を震わせる。そんなに怯えなくても……。


「ル、ディか?」

「他に誰がいるんだよ」

「……ルディだな」

「だからそうだと言っているじゃないか?誰だと思ったんだ」

「いや、それは……」

「いやあ、まさかこれ程とは驚きました。完璧ですね」

「ありがとうございます」


どもるリオンとは真逆で村長は表情を変えることなく淡々と感想を述べてきた。どうやら及第点はもらえたようだ。というか、もらえなかったら女性として大問題なのだが。

一方のリオンはどうも私との距離を掴みあぐねているような、そんな雰囲気が漂う。私に生贄役を押し付けたのに、これでは作戦が上手くいくかわからないではないか。全く困った人だ。


(仕方がないわねぇ)


軽く息を吐くとドレスを軽く摘まみ、わざとルディの仕種でずかずかと彼の前まで行って困った顔をとった。


「ちょっとリオン。もしかして僕に惚れちゃったワケ?」

「はあっ!?んなわけねえだろ!」

「だよねー。だったらいい加減見惚れてないで真面目にやってよ」

「ああ……わかってるよ。それにしてもうまく化けたなあ」

「まあ、ね」


少し揶揄うとリオンは調子を取り戻したようでいつもと変わらずに接してきた。これでいいだろう。

そこからは村長と三人で明日の最終調整へと移行した。

誤字を修正いたしました。


誤字脱字報告ありがとうございます。毎度感謝の念に堪えません。

自分では見落としてしまい、なかなか気づくことが出来ない箇所などが多々あるので、とても嬉しです。


文章にかなり手を入れました。

お話の内容に変わりはありませんが、文字数が少々多くなっております。

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