第0話 真面目と天才とベタな展開
「あー、この式誰か分かるやついるか」
午後の数学の時間。教師がやる気の感じられない声で生徒に尋ねる。
「「⋯⋯」」
まぁ普通はこんな何の得にもならないような面倒臭い質問にわざわざ答えようとする奴はいないだろう。
だが、このクラスは違う。
「はい」
なぜならこの俺、礼厳 真也がいるからな。
「1/6n(n+1)(2n+1)です」
「おお、合ってるな」
当然だ。この範囲は昨日しっかり予習してきたからな。
「てかさー!昨日ヨッちゃんがよぉー」
「おい、授業中だぞ」
「あ?あーはいはいすんませーん」
先生が呼んでるのにあ?はないだろ⋯⋯
それに授業中に私語もありえん。真面目に勉強してる奴の邪魔になるし、そもそも自分が集中出来てない証じゃないか。
「じゃあこの問題解いてみろ」
「えー、ったりーなーおい」
ふん、せいぜい悩むがいい。
授業を聞いていなかった奴が問題を解かされてしどろもどろし、結局答えられずに「分からないならちゃんと授業を聞いておけ」と言われる。自業自得だ。
⋯⋯と、普通ならそうなるはずなのだが。
「あー、礼厳のがこうだからー、1/2n(n+1)とか?」
「そんなてきと⋯⋯合ってるな」
「っしゃ余裕余裕」
この隣の席の男、才川 天理は違った。
いつも授業中は喋ってるか寝てるか携帯をいじってるかしかしてない、放課後も夜遅くまで遊んでいるらしいが、成績は5段階評価で常にオール5。
いわゆる天才タイプってやつだ。
「Foooo!さすが天理!やっぱ天才は違うわ!」
「いやいや、こう見えて家じゃ勉強してっからな?1日9.58秒くらいだけど」
いやボルトが走ってる間に終わるわ。
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「次、礼厳やってみろ」
体育のバスケの時間。今日はシュートのテストの日である。
「よしっ」
「10本中9本か、なかなか上手いぞ」
今日のために一週間密かに練習をしていたからな。
俺としてはむしろ10本入らなかったのが残念なくらいだ。
「次、才川」
「うーす」
この男、真面目に練習する訳でもなく友達とダラダラ喋りながら試合だけは楽しんでるようなやつだ。
せいぜい5本がいいところだろう⋯⋯
なんてのは結局前振りに過ぎず、
「よっ!ほっ!」
「10本中10本か。満点だ」
「おーラッキー」
運動においてもその天才っぷりは遺憾無く発揮され、易々とボールをゴールに投げ入れるのであった。
つーか今ラッキーって言ったなお前?
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そして、ある日のこと。
いつものように俺が授業に聞き入っていたところ、隣の方から消しゴムが飛んできた。
「いてっ!」
「あ、礼厳わりぃー。取り損ねちゃったわ」
「授業中に消しゴムを投げるなよ⋯⋯」
「すまんすまん」
小学生かっつの。
と、俺が才川に消しゴムを渡した瞬間、
「ん?」
「え?」
俺と才川を包み込むように、突然床から光が溢れ出してきた。
「おい才川、お前光ってるぞ」
「お前こそ輝いてるぜ」
なんだこのホモみてーな会話は。
などと思っているうちに光はますます強くなっていき、
「お、おいこれまずいんじゃ」
と、俺が言い切る前に光は消え、次の瞬間には教室から俺と才川の姿は無くなっていたのだった。