野営地にて
ハイテンションな戦闘モードから、ようやく元の状態に戻りそうな感じだったので、手を止めて周りを見渡す。
イデアが作った土の壁に囲まれた、馬車に入っていた方々はとりあえず無事。
自分達の前を走っていた馬車は完全に大破。
俺が担ぎ込んだ方々は軽傷だけど、いろいろショックが大きいようで動けずにいるんで、とりあえず持ってきていた毛布やらビニールシートやらをひいて、怪我をしている人達に横になってもらったりして楽にしてもらう。
怪我をしている人達をイデアにお願いして、俺は大破している馬車の中から出来るだけ荷物を運ぼうとしたら、何やら前方の方で何人かの男たちが怒鳴りあってるのよ。
前方にいた馬車の関係者と、何やら冒険者風のパーティーかな?武器こそ構えてないものの、かなり殺気だってるよ。
最初は止めたほうがいいかな?って思ったんだけど、けが人も多いし、馬車に乗ってた人が自分の荷物を気にして気が休まらなくなるのも嫌だなと思い、あえて無視してどんどん荷物をビニールシートの近くに持って行く。
今だに動けずにいる馬車の人に向かって、できる限り荷物を出しますと言うと、「ありがとう」と声をかけてもらえたので、つい嬉しくなって運ぶスピードを上げる。
やっぱり褒められると嬉しくなるし、やる気も出るってもんだから、こういう人のためにいろいろ動きたいなぁって思うんよ。
まぁ、その反面、相変わらず野郎どもの怒鳴りあいは続いていてね、正直イラってきてるのよ。
俺だって被害者だけどさ、目の前で困ってる人ほっとけないじゃん!だから自分のやれることをやってるんだけど、あいつらは何もしてないよな。
イデアだって気を紛らわすためって飴ちゃん配ったり、水に濡らしたタオルで小さい子の顔を拭いたり、けが人を見たりしてるんだぜ!
全部終わったら文句の一つも言ってやりたいんだけど、まだまだ荷物運びは終わらないしなぁと思っていたら、馬車の点検や周囲を見張っていたこちら側の馬車の護衛さん達が、荷物運びを手伝ってくれたので、思ったより早く荷物運びが出来たよ。
で、改めて、こちらの馬車の関係者と一緒に怒鳴り声のする方に向かってみたんだけど、俺らの前にいた馬車の関係者と冒険者風の団体がまだ怒鳴りあってるのよ。
お互いの言い分はあるのかも知れないけど、周りが見えないほどヒートアップしてるのが見てわかるので、とりあえず、俺らが仲裁に入る形で分かれてもらったんだけど、まだまだ頭が冷えてないみたいでお互いを見ては威嚇しあってる状態。
こっちも巻き込まれたんで、言いたいこともあるんだけど、三者がいがみ合ったところで問題は解決しないし、まずは怪我人からどうにかしないといけないよね、と俺らが乗っていた馬車の関係者の方がいろいろ手配をしてくれたので、俺はそのお手伝い。
向こうさんに任せたら何も出来ないと判断したこちらの馬車関係者は、
・けが人を乗せ、医療機関のある場所に行くと同時に、こちらの状況を伝え、冒険者ギルドの職員に来てもらうように手配する。
・馬車にはけが人と、事情を説明するため冒険者と馬車の関係者2名ずつ乗ってもらい行ってもらう。
上記二点をそうそうに決め、行動に移っていったんだ。
あと残った人たちに関してはどうにもならないので、この場所で野宿をすることに。
俺らが敷いたビニールシートと毛布を中心に、比較的軽傷だった人達が固まり、女性や子供が寝られるようにテントらしきものを張っていく。
男性は交代で見張りをしようと有志で決め、俺は馬車の護衛さんとペアを組み、最初から夜中までを担当させてもらう。
脇でイデアが「私も見張り手伝う!」って言ってくれてたんだけど、こんな何もない場所で若い女の子が野営なんてとても危険!と思ったので、出来れば一度家に帰ってもらって、他の家族に今の状況を伝えてくれると嬉しいな!なんて言うと、「じゃあ後片付けしたら一度行ってくるよ」と言うイデア。
脇で聞いていた護衛さんが首をかしげながら俺らの話を聞いていたんだけど、ちょっとしてから俺の目の前で瞬時にいなくなってしまったイデアを見て、妙に納得した顔をしながら「俺!目の前で魔法を見るのはじめてです!超感動しました!!」なんて言ってるの。
えっと、緑のモンスター倒してた時の土壁も魔法なんだけどね、と言うと「残念!俺、結構前の方で倒れてる人守ってたんで見れなかったんですよ」と悔しがっていたので、せっかくなんでと護衛さんの周りの魔法状況などを聞かせてもらう。
冒険者ギルドなどの団体に魔法を使える存在の方はいる見たいなんだけど、魔法が使えるというだけで人気が高くなり、魔法使いという職業になると、あちらこちらから勧誘があり、あっという間に目の前からいなくなってしまうらしいんだ。
なんで、通常パーティーなどを組もうとすると、魔法使い僧侶なんてとんでもない!探知魔法のあるシーフさんや、補助的に回復魔法を使える薬師さんでも大変ありがたい存在ということらしいので、ファンタジーゲーム好きな俺としてはちょっと残念に思ってしまったんだ。
あ、そんな状態だったら、イデアやマネックスはかなり危ないなと思ったら「私達はお客様の秘密は守りますからご安心を。何より、いろいろ手伝って頂いた恩人の行為を、仇で返すような事は絶対にいたしませんよ」なんて笑ってくれたので、その言葉を信じて見たいと思った次第です。
そんな護衛さんと話をしながら、ちょっと周りを歩いていると、徐々に暗くなってきたせいか?少し寒くなってきた気がしたので、そこらへんにある木の破片やもう原形のない何かの残骸をかき集めて火をつける。
ただ、まだ火が足りない気がしたので、緑のモンスターが身に着けていたものも燃えるかな?なんて思いながら、片付けついでに固めてあった死骸の衣類などを剥いで分別していると、ちょこちょこお金や装備品なんかが出て来たので、後で被害にあった方へ渡せたらいいな~って言ってたら、ちょっと元気になってきた若い人たちが手伝ってくれたんだ。
土の中にもいっぱいいるけど、それは後回しでいっか。
まずは火を囲んで、出来れば何か暖かいものでも食べたいなぁって思ってたらさ、ちょっと離れたところから、カミサン・イデア・マネックスと勇気が出てきてびっくり。
「こんなものしかできなかったけど、良かったら皆さんでどうぞ」と、魔法のかばんから取り出したのは豚汁。
いろいろな鍋に入った豚汁をあちらこちらに置いて、皆さんにふるまう4人を見たら、本当にありがたく思ってさ、俺も手伝ってみんなに豚汁が配られたんだけどさ、みんなお腹が減ってたんだね、あっとういう間になくなっちゃったよ。
そんな状況を見ながらカミサンにありがとうって言うと、「ううん、むしろ勇気に言ってよ」との事。
どうやら、勇気が「父さんも一緒にいる人もお腹空いてるよね。何か作ってあげれないかな?」と言ってくれたらしいし、トン汁セット見たいなものを買うお手伝いをしたり、紙皿みたいなものも用意したりと積極的にやってくれてたらしいので、勇気を呼んで「ありがとう」と頭を下げる。
「俺もちょっとは役にたったかな?」なんて照れてる勇気を見て、いろいろ人のために考えて行動出来たのがすごい。俺は誇りに思うよ!と言うと、もっと照れてるの。
みんなで食べた豚汁は美味しかったけど、出来れば今度はモンスターが埋まってる土の上でなく、平和な原っぱでピクニックでもしながら食べたいなと思った、今日この頃の俺でした。




