ありがとう
「お~い、いつもの置いとくからな」
とある事務所のとあるカウンターに、ご年配のお客様が来店され、一通の封筒を差し出す。
「すいません、いつもありがとうございます」
それを受けて事務所の所員と思われる3人の職員が笑顔で挨拶すると、お客様が手をひらひらさせて出ていく。
「では・・・もう少し頑張ったら、お手紙見ましょうか?」
そう所長らしい女性が言うと、「はい!」と元気な声が聞こえ、3人の職員は目の前の仕事をどんどんこなしていくのだ。
仕事をしながら、所長らしき女性職員は思う。
はじめてご老人から手紙を預かった時は、何が起こったのかわからなかったけど、あの時手紙を受け取ってから、いろいろ考えさせられることも多かったし、何より暖かいものが感じられる手紙を受け取れて本当に嬉しかった・・・
あれから返事も書かせてもらったけど、それ以来は手紙もしていない。
あの方達が私たちに求めていることは、相手を思いやること、そして真面目に一生懸命やっていくことだから、まずは行動で示したいと思った・・・
今までの私は、どこかで自分は偉いんだ、何をしても良いんだと思っていた。
だけど、それを内側から壊してくれたのが、今目の前にある手紙の差出人。
立場も性別も違うけど、何処か彼らに対して親しみを持っているし、尊敬もしているので、これからもこういう関係を続けていければいいな、と思っている。
本当はまた会いたいものだけど、まだまだやらなければならない事は多いから、彼らに顔向けできないのが悔しいけど、もしひと段落したら、一度お茶でもご一緒出来ないものか?と相談してみるつもりだ。
そんな事をしながら、事務手続きの手を止めずにいたら、丁度キリの良いところまで来たので、他の社員を見ると、みんなあと少しというところまで来ているらしかったので、手伝える雑用を手伝いながら、仕事を終わらせ一息・・・
事務所の入り口に「只今休憩中」と札を貼り、三人でお茶菓子を片手に便せんを見ると
「ありがとう」
の一言が封筒に書かれていて、中には複数枚の便箋と、家族写真のようなものが数枚入っていたので、机に広げてみてみる。
便箋にはこう書かれていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
拝啓 異世界救済事業部の皆様
皆様お元気でしょうか?
あれから、私は、20年以上働いた会社を辞めることにしました。
皆様から頂いた貴重な体験から、私はもっともっと多くの方といろいろな事がしたい!という気持ちが強くなり、私と日本(地球)を繋ぎとめていたものの一つを手放すことにしたんです。
娘が二人も増え、家族が5人になってしまったのですが、私にはもったいないみんななので、いつも家族の誰かに頼りながらも、日々楽しいことを一生懸命やっていますよ。
イデアは今、村で子供達のお世話をする傍ら、村の事務官の方からいろいろな事を教わっています。
たまに聞く遠方の冒険談や文化の話を耳にして、いつか私もそのような経験をしたいと口にするあたり、まだまだお子様なのかな?と思う事もありますが、いつか叶えさせてあげたいとも思っています。
私がいたケル村は、現在、他の村と協力しあって新しい事をどんどんやっていこう!と、村長はじめやる気に満ち溢れていますので、そんな様子を見ながら、私も出来る事をお手伝いしている最中です。
温泉も好調らしいです・・・
と言うのも、もう私はほとんど口を出していないので、内情がわかってないだけなんですけどね・・・
困った時や悩み事がある時は、自分からこちらに相談を持ちかけてくれますから、安心して任せられます。
正直、もう経営素人の私が口を出せないくらいのレベルにまで成長していると思うので、あとはオーナーとして発展を遠くから祈っておこうと思っている次第です。
ただ、イデアの話を聞いていると、私も異世界と呼んでしまっている世界の事が全くわかっていない事に気が付きましたので、これからは、さらにいろいろな方とお話をして、笑顔になれる商売をしながら異世界を回ってみる事もしてみようと思っています。
皆様が思っている「救済」という形が、どのような形なのかわからずにいるのですが、私たち家族はもう大丈夫です。
一緒に笑い、一緒に泣き、時に怒り・・・それが当たり前に出来ている今、イデアもマネックスも、ずいぶんと遠回りしてしまったけど、ようやく家に来てくれた家族なんだなぁ~と実感できているからです。
ただ、私と同じようにフィギュアを開けてしまい、途方に暮れている方がいるのでは?という心配は未だに持っていますので、もし私が力になれる事がありましたら、是非おっしゃってください。
今度はきっと笑顔で対応できると思います。
そして、本当にありがとうございます。
また、このような幸福な時間を私にくれたのに、それに気が付けなくて申し訳ありません。
私が私らしく、楽しい時間を送れるように、さらに精進してまいりますので、これからもどうぞお体に気を付けて、頑張ってください。
では、またどこかで。
追伸:
つまらないものですが・・・ケル村の温泉チケットを同封しました。よろしければ皆様で一度ご来店ください。
村主正木 より
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はらっと落ちた紙を数枚見つけて、思わずニヤッとする私と部下たち。
・・・もう少しいろいろ片付けたら・・・
もう少し頑張って、「神様も結構頑張ったんだからね!」と誇りに思えるくらいいろいろな事をやり切ったら・・・温泉も悪くないなぁ・・・
そんな事を言い合っていたら、ますますやる気になってきたのか、みんなまだ仕事に戻って行ったから、私も頑張ろうかな?
私たちが手掛けた”救済”のひとつは、これで一つクリアとなりました。
以前は、ゲームをひとつクリアした・・・くらいにしか思わなかったかも知れないですが、この家族の笑顔を見たら、もっと頑張らないと!って自然に思えるほど、私も人間の気持ちがわかるようになって気がします。
頑張ってる人にはきっといい事あるんだよ!って思ってもらえるよう、私たちも一生懸命頑張らないとな!と、写真を見て思った、今日この頃の私でした・・・
ありがとう は私たちのセリフですよ。ムラヌシさん。
いつも「コンビニ~」を見てくださってありがとうございます。
人様に見て頂ける場所で、小説を書いて発表することが初めてだった私も、何とか一区切り出来るところまで文章を書ききることが出来てとても嬉しく思っています。
まだまだ迷走していますが、村主さん一家のお話はまだまだ続きますので、どうぞよろしくお願いします。




